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創作

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記事一覧

幸せのカタチ

コツコツ

窓が鳴ったような気がして、編み物の手をとめる。

コツコツ

あぁ、やっぱり鳴ってる、なんだろう?と、窓の向こうをすかして見ると、ひらりひらりと動いてる手の平が見えた。

立ち上がって窓に近づいて、そろそろと開ける。

ここは1階だけど、地面からは高い所にある窓だから危なくはない。

そうすると、あの人が中腰でしゃがんでいた。

あ、と声に出そうとすると、シーっと言うように口に指をあて

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FRAGILE

人生で初めて、人を殴った。

人生で初めて、頭に血が上る、という経験をした。

俺の人生史上最高にかっこ悪い告白を、した。

細い足がひきたつ細いハイヒール、軽くカールした短い髪、くったくなく笑うあの人に見とれていたら、カブがぶつかってきた。

俺をかすめて、あの人にぶつかった。

俺は、慌ててバイクを降りて駆け寄ってきたアホを、あろうことか殴ってしまった。

大声で怒鳴りつけてしまった。

いっ

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決め手

真っ白な壁、真っ白な天井、真っ白なカーテン、真っ白な布団、

母さんが額にシワをよせて目をつむっている。

「母さん」

そっと呼びかける

「・・・あぁ、来て、くれたのかい・・・来なくていいのに・・・仕事忙しいんでしょ」

半分しか焦点の合ってない目で、ちらりと私を見る

父さんが死んでから、母さんはたびたび入院するようになった。

もともと体の弱い人だったけど、父さんが死んでから、いっきに、極

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母の日

「気丈」という言葉を覚えたのが、いつだったか、どんな状況だったか覚えてないけど、

「母のことだ」

そう思ったのははっきり覚えている。

教師をしながら私と弟を育ててくれた母

「ひとに頼るな。自分に頼れ」が口癖だった母

音楽が好きで、お喋りで、落語が趣味で、読書家の母

論理的で合理的で頭脳明晰で、なのにどこか天然な母

一人で生きてきた、母

どうしてそんなに泣くの?

私の結婚式だよ、め

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鉄線

そうだ、水をやろう、

水をやらなければ、

居間から庭におりた。

古ぼけた大きな健康サンダルをつっかける

そろそろ取り替え時期だ、と言いながらも数年使っている古びたホースを伸ばし蛇口をひねる

ホースと水道との接続部分から、しゅうしゅうと水がもれる

『シャワー』にしたノズルから細かい水の玉が飛び出してくる

そのノズルを空に向ける

いつも水をまくときは、そうする。雨が降っているかのように

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BEE

このフィールドが私は大好きだ。

久しぶりに来たが、いつもと同じく、とても程度の良い花粉がそろっている。

丸めていても、イヤなピリピリする感じの花粉ばかりのフィールドもあるが、

このフィールドにはそれがない。

たぶん、いや、まちがいなく、毒を使っていないのだろう。

柔らかい花弁に包まれた花粉、花粉、花粉

あぁ、なんと良質な花粉なのだろうか

どのフィールドにもたいてい主というものがいる。

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Jenga

俺はジェンガだ。

姪っ子と遊んでいて気づいた。

そうか、俺はジェンガのごとくバランスをとって生きているな。

俺のことを「おっちゃん」と呼ぶ姪っ子は、ガラガラとくずれる木のブロックに歓声をあげる。

「おっちゃんの負けー!」

そうだ。俺はいつも自分の中の欠けた部分のバランスをとろうと四苦八苦して、そして失敗する。

俺はだらしない男だ。

くだらないし、アホだし、いやらしいし、さびしがりやな

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いつか土に還る日

「ありがたいねぇ」



曾祖母はよくそう言っては、目を細めていた。



あれは、何歳のときだったんだろうか、

ある日、畑仕事の手伝いをしていたとき

「ウニちゃんも手伝ってくれるの。ありがたいねぇ」

そう言ったひいばあちゃんに

「ありがたい、ってどういう意味?」と、聞いたことがある。

まさか、そんな質問をされると思っていなかったのだろう、ひいばあちゃんは

小さくしぼんだ目をいきな

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CONTROL

私は自分の感情を完全にコントロールできる



シングルマザーに育てられ、日ごろから

「ひとに頼るな。自分に頼れ」

「自分で生きていく力をつけろ」

「男はアテにならない」

言葉で、態度で、そう教えられてきた。



幸運なことに、何ら特別な努力をしなくても学業は優秀、弁もたち、容姿も中の上だった私は、集団の中で生き抜いていくためには、あとはコミュニケーション能力を高めるだけだった。

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