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【読書ノート】6 (要約)「難民を知るための基礎知識―政治と人権の葛藤を越えて 」(その1)

最近、仕事の参考になると思い「難民を知るための基礎知識――政治と人権の葛藤を越えて」(2017年)を読んだが、思った以上に内容が充実していて現在世界が直面する難民問題の全体像を把握するのに参考になったので、各章で需要そうな部分を抜き出して最新情報を加算しながら解説していくことにする。またこの本の出版年が2017年なので、難民数などの各数字は最新のものに更新して置き換えてある。(★項目は別資料から引用した補足説明)

世界の難民の状況
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報告書「グローバル・トレンド」によると、強制的に住む場所を追われた人は昨年より230万人増えて約7080万人に上った。この20年間でほぼ2倍に増えた。毎日3万7000人の新たな難民・避難民が生まれていることになる。
UNHCRのフィリッポ・グランディ難民高等弁務官は、「この数字から、戦争や紛争、迫害から逃れて安全を必要としている人たちの数が長期的な増加傾向にあることが改めて分かる」と説明した。
世界の総人口比でみても難民・避難民は急増している。1951年の統計開始以来、ピークは1992年の1000人当たり3.7人だった。しかし昨年はそのピークの2倍以上となる、1000人当たり9.3人に達した。出典(BBC「世界の難民・避難民、7000万人を突破 国連調べで過去最多」)

「新しい戦争」の特徴(第2章)
冷戦後の新たな紛争形態
⦁ 従来の戦争が地政学上、またはイデオロギーに基づくものであったのに対して、「新しい戦争」の目標はidentity politicsに関わる。「民族、氏族、宗教、言語であれある特定のidentityに基づく権力の追及を意味する」戦争
⦁ 戦争行為の変化。従来の正規戦と異なり、「交戦の回避と住民の政治的コントロール」を背景にしたゲリラ戦を利用した。「異なるidentityの人々や異なる意見を持つ人々を排除することにより住民をコントロールすること」を目指す。
⦁ 新しいグローバル化された戦争経済。分権的で外部経済に依存する。また戦闘集団は略奪や闇市場、「国外離散民からの送金、人道援助への課税、周辺諸国への政府からの支援、武器、麻薬、石油やダイヤモンドといった高価な物品の不法取引」など外部からの支援によって資金を調達している。「戦争の論理が経済の機能の中に組み込まれてしまう戦争」(p32)
新しい戦争の勃発で、国民を第一義的に保護する義務があるはずの国家が脆弱国家であったり、さらには破綻国家や崩壊国家になったりすることで、多くの人々が紛争で難民化したのである。(p33)
緒方貞子が国連難民高等弁務官に着任した91年は「新しい紛争」の幕開けであった。エスニック戦争、エスニシティを理由に伝播する地域紛争と、紛争の形態が国家対国家から、国家対非国家へと主体が非対象化することで、むしろ難民よりも国避難民の数が増大していくことになった。(P38)

国内避難民 (IDP)と難民 (Refugee)(第4章、第9章)
UNHCRグローバル・トレンドによると2018年に避難を余儀なくされた1360万人の内、国内避難民 (IDP) は1080万人、難民 (Refugee) と亡命申請者 (asylum seeker) は280万人。難民にも増してもともとの居住地の国内で避難している国内避難民の方が圧倒的に多かったのである。今日の難民危機を知る上では、IDPに対する理解が不可欠なことを指摘しておきたい。
2011年から5年以上続くシリア難民問題では、国外避難民(480万人)より国内避難民(660万人)の方が多い。シリア隣国で生活する難民のうち、難民キャンプで生活する難民は約10%のみ、90%は都市部で生活している。
*難民数ランキング:パレスチナ、シリア、アフガン、ソマリア
*難民受け入れ数ランキング:ヨルダン、トルコ、パキスタン、レバノン、イラン、エチオピア (p56)

IDP数は1990年に難民総数を超え、2018年現在、国連などが把握できるだけでも4130万人いる。2018年難民総数は2590万人であった。つまり世界中にIDPは難民のざっと2倍近くいることになる。(p101)

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(図表はUNHCRグローバル・トレンド2018より)

冷戦の終結は国際的な対立に解決をもたらしたと共に、超大国による支配の緩みということに繋がり、その支配に覆い隠されていた内戦や地域紛争が急増した。東西というイデオロギーの対立に変わり、宗教・言語・文化・エスニシティといったidentityの対立が台頭したのである。
*国内でIDPを保護・支援することの懸念
⦁ 紛争などから避難するする人々を国内に足止め
⦁ 国際社会の支援は主権国家体制の根幹である内政不干渉原則に抵触する恐れ (p103)

* Extracts on figures and main trends from IDMC

<その2に続く>


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