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【読書ノート】7 (要約)「難民を知るための基礎知識―政治と人権の葛藤を越えて 」(その2)

■ 恒久的解決(Durable Solution)(第8章)
⦁ 自主帰還:難民が安全に、尊厳を持って自らの出身国に戻り、国からの保   護を再び享受することを目指す。
⦁ 現地統合:難民が受入国社会に法的・経済的・社会的に統合して、受入国 政府からの保護を享受することである。
⦁ 第三国定住:難民が、彼らに定住の資格を与えることに同意した第三国へ    再定住することである。

UNHCRの活動は統合や帰還といった将来的なことに及ぶ。UNHCRが保護・支援する人々は、難民条約で難民と定義された人々に留まらず、難民の地位は与えられていないが申請中である庇護希望者(AS)、国内避難民(IDP)、無国籍者を含んでいる。それに加えて帰還や定住した難民、IDP、難民キャンプの周辺に住む人々も支援している。こうした活動の拡大は、どこまでがUNHCRの保護、支援対象者であるかという問題を定義する。(p97-98)

■ 恒久的解決策への包括的なアプローチ
恒久的解決策への包括的なアプローチとは、自主帰還、庇護国における社会統合、第三国定住という3つの恒久的解決策すべてを活用する取り組みを指し、多くの場合、ある庇護国または庇護地域の個々のグループごとに恒久的解決の達成をめざして、協調的に体系づけられたやり方で実施されます。このような包括的なアプローチは、難民の出身国、受け入れ国、UNHCRとそのパートナー 、そして難民自身の緊密な協力関係の下で実行されます。包括的なアプローチは、特定の状況を「解決する」ことをめざす正式なアクション・プランである場合もあれば、避難発生当初から事態の長期化を防ぐために3つの恒久的解決策をコーディネートする一体的な努力を反映する場合もあります。

■ 難民の労働 (第16章)
「難民の地位に関する条約Convention Relating to the Status of Refugees」によれば、庇護国内での移動の自由と居住地の選択の自由は共に難民に保障された権利の一部をなす。しかしながら、現実においてこの2つの権利は、難民を特別に設置された難民キャンプに収容して管理するという、多くの第三世界諸国で取られている政策によって反故にされている場合が多い。そこに住む難民にとって難民キャンプに居続けることは、受け入れ国に滞在が許されることと、支援を受け続けることの条件とに多くの場合は結びついている。

このような状況にも関わらず難民は自らの労働で得た収入で生活レベルを向上させることは難しい。難民のキャンプ収容政策がとられている場合、一般的には難民がキャンプを離れて就労の機会を得ることは許されていないからである。

Global Refugee Work Rights Report 2014のよると、45%(15カ国)の国が難民の労働を完全に法的に禁止している。他の国でも様々な制約を設けて、難民の労働を事実上不可能なものにしていることが多い。
難民キャンプにおいて労働も許されず援助物資への依存を余儀なくされ、また教育や職業訓練の機会も極めて限られた難民たちは、その後に難民としての生活を終わらせたときに、社会の生産的一員としての生活を取り戻すことが困難になる。(p166-167)

★ザンビアでも労働が制限されているため、都市部での難民の不法労働者が数多く存在しており、法改正を行わない限り不法労働はなくならない。
*ZAMBIA REFUGEES ECONOMIES:LIVELIHOODS AND CHALLENGES (2017)

Global Refugee Work Rights Report は2014年以降更新されていないが、現在でも大多数の国で難民の労働が禁止されていて、難民の自立促進を妨げていると思われる。しかしながら一部の国では改善の兆しが見られ、例えばエチオピアでは今年(2019年1月17日)に難民法の改正を採択し、難民が労働許可の取得、初等教育へのアクセス、運転免許証の取得、出生や結婚などの法的登録を受けて国内金融サービスへのアクセスが可能になった。
https://www.unhcr.org/news/press/2019/1/5c41b1784/unhcr-welcomes-ethiopia-law-granting-rights-refugees.html

■ 第三国定住(第17章)
現時点で約15カ国が難民の定住受け入れ国となり、受け入れ人数の上限を定めてその範囲内で難民として暮らしている人を受け入れている。しかし現在のところ、この機会を手に入れることが出来る難民は最近10年間の平均で全世界でも年間10万人に満たない。
そのためUNHCRは現居住国では生命や身体に危害を与えられる危険の高い難民や、特別な医療ニーズを満たすことの出来ない難民、そして離散した家族の一部が既に第三国定住の受け入れ先となっている国で既に難民として居住している場合など、一定の条件を満たした難民にのみ第三国定住を検討する。しかし対象者にとっても複雑な手続きや審査のため実際にそれを実現できる難民は大変少ない。(p171)
2015年は最近5年間で最も多い10万7100人が第三国定住の機会を得たが、その最大の受入国はアメリカ(6万6500人)である。

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(図表はUNHCRグローバル・トレンド2018より)

シリア、アフガニスタン、南スーダン、ミャンマー、ソマリアの5カ国の難民で、総数の3分の2以上を占める。シリアが670万人で最も多く、アフガニスタンが270万人で続く。
2018年受け入れ国で再定住できた難民は、わずか9万2400人だった。これは再定住を希望している難民の7%に満たない。

■ 自主帰還(第17章)
冷戦後期から90年代にかけて、難民の恒久的解決の第一選択は「自主帰還」にとって変わられる。UNHCRは90年代を「難民帰還のための10年」と位置づけ、帰還プログラムに積極的に乗り出していくことになる。
今日、難民および国内避難民の帰還は紛争後の平和構築やいわゆる失敗国家の再建に際して中心的な課題である。しかしながら、この自主帰還プロセスに往々にして立ちはだかるのは、難民の帰還する先での出身国の受け入れ能力である。
むしろ帰還する難民の受け入れ・社会統合の失敗が対立や戦乱の再燃を招き、新たなる紛争へと繋がることも珍しくない。
こうした困難を前に難民の自主帰還は近年減り続け、自主帰還を実現した難民の数は2015年には20万に留まるなど、この四半世紀で最低水準に落ち込んでいる。最近10年では一度も100万人を超えていない。(p172-173)

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(図表はUNHCRグローバル・トレンド2018より)

* 自主帰還20万人 + 第三国定住10万人は全体1600万人の2% (2015年)
その他98%以上の難民は引き続き難民としての暮らしに耐え続けなければならない。

★現在のロヒンギャ難民を受け入れているバングラデッシュ政府にみられように 「自主帰還」にも問題点はある。例えばこれまで帰還は、難民問題の「最も好ましい恒久的な解決策」として国連や各国政府などによって推進されてきた。だが、難民問題に詳しい大東文化大学の小泉康一名誉教授によれば、この解決法は国家側の利己心によって生まれたものだ。
バングラデシュがそうであるように、難民受け入れ国は負担から脱するため、早く難民に出て行ってほしいと願う。いま求められているのは難民に衣食住を与え続けてそのうち帰ってくれるのを待つより、「持続可能な避難地」をつくるために受け入れ国に経済支援をすることだと、小泉教授は指摘する。(終わりなきロヒンギャの悲劇

★B.S. Chimni, ‘From resettlement to involuntary repatriation: towards a critical history of durable solutions to refugee problems’, New Issues in Refugee Research (1999)

その3に続く

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