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【読書ノート】9 (要約)「難民を知るための基礎知識―政治と人権の葛藤を越えて」(その4)

難民保護の法的義務(第33章)
第二次世界大戦後、ドイツによって迫害されたユダヤ人を保護する国と保護しない国に世の中は二分され、大勢はドイツに対する警戒や配慮からユダヤ人を保護しなかった。
そして戦後、難民条約1951が起草され、条約の規定に従った一律の内容の保護を世界に普及させることが期待された。その趣旨は政策判断ではなく、法的判断に従って難民の保護の是非を決めようとするものであった。印象や先入観に従って保護の内容を決定してはならないのである。こうしたことを理解し、実行を重ねていくことが、テロが発生した際に難民保護に対して消極的になる世論への対策の王道であり、同時に限られた一手なのである。
人間の安全保障は法の支配や人権保障など、人々の理解や積極的支持などを原動力とする秩序維持によって実現することを期待されている。
あくまで個人を保護するための難民条約1951がなくてはならず、その難民条約の機能を維持するために条約の正当性を維持せねばならず、それゆえ1条F(除外条項)があることを忘れるべきではないことを、「人間の安全保障」概念は明確にしてくれるのである。(p344-345)

■ 長期化する難民の状況(第34章)
問題は難民条約1951が想定してなかった事態が起きた場合である。そしてそのような自体が現実に起きている。いわゆる「長期化する難民の状況 (PRS: Protracted Refugee Situation)」である。PRSとは難民として本国を逃れてから、問題の解決もまたその見込みも得られないまま、暫定的であったはずの難民キャンプどの生活を、結果的には長期にわたり継続している状態のことである。暫定的であったはずの生活が長期化していることの、その不安定な身の振りようもない状況が特に問題視されているのである。
将来の見えない状況であるPRSは「人間の安全保障」にとって解決すべき状態であることは明白である。UNHCRはPRSを「同じ出身国の2万5000人以上が5年以上わたり保護を受けている状況」と定義している。(p348)

★図解:長期化する難民1340万人、見えない終わり (2018)
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/122600573/

★A. Fabos and C. Brun, ‘Protracted Refugee Displacement in the Middle East: Making Home in Limbo?’, Middle East Institute (2016)
https://www.mei.edu/publications/protracted-refugee-displacement-middle-east-making-home-limbo

■ 人間の安全保障 (第35章)
「人間の安全保障」は支援者と裨益者の距離が組織や制度のしがらみによって遠ざかってしまっては達成しえない価値であることを忘れるべきではない。誰によるものではなく、誰のための保護や支援であるのかを意識の中心に置き、問い続けることで、「人間の安全保障」は洗練・進化していくことが期待される。
「人間の安全保障」とは、人間の安全と尊厳は確保されるべきであるという信念を万人に浸透させ、敵を倒すのではなく敵対関係自体を解消し、各人が自発的に安全を創出しようとする意識を大切にするアプローチである。
つまり人間の安全が様々な角度から考慮されていることによる内容の充実を意味するだけではなく、より本質的には様々な発想をお互いが許容することを前提にした開かれたアプローチであること「人間の安全保障」のための支援者の積極性を誘い、裨益者の尊厳確保期待させるのである。
この場合、裨益者という立場でさえ固定的ではなく、裨益者間における支援、すなわち相互扶助や裨益者とされる人々への支援が支援者を救うこともありえる。難民支援はそのような意味での多角性を獲得することで持続可能にもなる。(p365-366)

★人間の安全保障:「人間の安全保障では、恐怖からの自由、欠乏からの自由、尊厳を持って生きる自由という人間の生活にとって基本的な一連の自由の普遍性と相互依存性を重視します。その結果、人間の安全保障は安全、開発、人権の間の相互関連性を認識し、これらを人間の安全保障、そして、国家の安全保障の礎石とみなすものとなっています。」「人間の安全保障では、各地の現実に根差し、各国のオーナーシップに基づく解決策の策定強化を図ります。人間の安全保障は、各国の政府と国民がその潜在力を高め、 貧困と絶望のない状態で、尊厳を持って生きる能力を高めることになります。」https://www.unic.or.jp/activities/humanitarian_aid/human_security/

クラスター・アプローチ(CA)(第35章)
国連はクラスター・アプローチ(CA)という枠組みを設定し、人道支援に必要な場所に届いているか、あるいは無駄に重複していないかなどの組織間調整を図り、支援の効率化に努めている。
CAは遠隔的には1991年12月の国連総会決議によりOCHAが設立されたことに起源を有し、翌1992年にIASC(機関間常設委員会)が設置されるとその事務所にはOCAHが置かれ、国連内外の関連組織の連絡調整のための組織作りが進められるなど、冷戦終結後に急速にその成立要件を整えていった。
翌2005年には「人道改革への課題」に基づく人道支援改革がIASCを軸に着手され、HCT(Humanitarian Country Team)国別人道チームという、国連機関やNGOなどからなる活動国ごとの組織連合体が組織されることになった。
HCTを統括する役職として人道調整官が設けられ、CAは各種の国連機関やNGOの資金や力を統合し、事態悪化の予防から社会の再建まで途切れることなく繋ぎ、人道支援を効率化するための有効なアプローチとして確立しつつある。(p360-361)

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            出典:国際人道システム (UNOCHA)


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