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ごみ拾いにイノベーションを!NPO法人海さくらに”あたりまえ”を変えるヒントを聞いた

SDGsという言葉が日常の中に浸透してきた昨今。でも、環境問題を「自分ごと」として意識するためには、日々の生活とどうつながっているのかを知ることが大切です。その点で、エコバッグなどとともに日常生活の中で実践できるアクションのひとつが「ごみ拾い」です。

そのごみ拾いも、実際にアクションを起こすのはなかなか腰が重いもの。“意識高い系”と思われるのも恥ずかしいし……。
そんな中、「目指せ!日本一楽しいゴミ拾い」を掲げ、神奈川・江の島でビーチクリーンイベントを毎月実施しているのが「NPO法人海さくら」。2005年に活動を開始以来、16年間で毎月積み上げたビーチクリーンイベントの数は実に172回(2021年11月現在)。一回のイベントの参加者は数百人規模!ごみ拾いにちょっとしたイノベーションを起こしています。

これだけの規模のビーチクリーン活動を、ほぼ毎月欠かさず継続している海さくら。ここには“あたりまえ”を変えるヒントがあるかも?と思い、代表の古澤純一郎さんに聞いてみました。

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この日はなんと700人を超える人が参加!ごみ拾いのイベントでこれだけの規模は聞いたことがありません。

この日のビーチクリーン活動の目玉は「ダンスdeごみ拾い」。音楽に合わせて参加者が思い思いのダンスに興じ、音楽がストップすると何事もなかったかのように黙々とごみ拾い!トングを手に踊りながら笑顔になっている様子がマスク越しにも伝わり、見ているこちらも楽しくなってきます。

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2005年に江の島で活動を開始してから、海さくらが毎月ほぼ欠かさず続けてきたビーチクリーンイベントは、この日で172回を数えました!

めざすは「日本一楽しいごみ拾い」

「『ごみ拾いやろうよ』と言われてピンとこない人でも、ダンスが好きな人なら『ダンスとごみ拾い?なんだか楽しそう!』と思えますよね。そんな楽しく、ファンキーなごみ拾いが私たちのモットーです」

そう語る古澤さん。明治40年創業の船具店の四代目として会社経営をする一方で、2005年にごみ拾い団体「海さくら」を立ち上げました(※2015年にNPO法人に移行)。

「私たちの力だけでは、このビーチクリーン活動を継続することはできません。日本財団をはじめ多くのスポンサー様の支援を頂き、また、多くの方に参加していただくことで、この活動を継続できていることに感謝しています」

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学生の頃から、江の島を訪れて遊ぶのが大好きだったという古澤さん。海さくらの活動を始めたきっかけもいたってシンプルなものでした。

「海や海岸には、ごみがひとつも落ちていないのが本来の姿ですよね。遊んでいてもデートしていても、せっかくならごみが落ちていない海で遊ぶほうが楽しいはず。それなら『よし、僕がごみのない海岸にしてやろう!』と」

最初は一人でごみ拾いを始めた古澤さん。ところが、はりきってごみを拾ってキレイな海岸にしても、次の日に来てみると大量のごみで埋め尽くされている。だんだんと一人の活動に限界を感じて、仲間を誘って継続的なビーチクリーン活動を始めました。

水平線に沈む夕陽に海面が照らされてきらめく光景が、古澤さんの目には桜の花びらが散っているようにみえました。その桜の花びらを、海から足もとの海岸までつなげたい――その思いを「海さくら」の名前に込めました。

「他者視点」が“ごみ拾いイノベーション”の転機に

当初は友人や知人に電話をかけまくって仲間を誘ってはビーチクリーン活動をしていた古澤さん。ただ、参加者はなかなか増えず、それどころか活動を続けるたびに一人、また一人と江の島に来なくなってしまいました。

「友人を無理やり誘っては活動に引き込むことに、私自身もだんだん疲れてきて……。そこから『どうしたらみんなが楽しくごみ拾いに参加してくれるだろう?』と考えるようになりました。それが、さまざまなビーチクリーン企画の原点です」

どうせやるなら「日本一楽しいごみ拾い団体」にしよう――そう決意した古澤さんは、思わず参加したくなるユニークなビーチクリーン企画を次々に実行に移していきます。

・お相撲さんと一緒にごみ拾い!「どすこいビーチクリーン」(2019年8月撮影)

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・海岸をキレイにした後はおもいっきり笑おう!「お笑いビーチクリーン」(2019年12月撮影)

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・海の日には、ごみを白い袋に入れる“青いサンタクロース”がやってくる!「BLUE SANTA」(2019年7月撮影)

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・「囲碁×ごみ拾い」の異色コラボ?「囲碁ビーチクリーン」(2017年11月撮影)

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みんなの趣味や好きなことをごみ拾いと組み合わせれば、多くの人に参加してもらえるはず――古澤さんのねらいは的中し、イベントのたびに参加者が増えていきました。「どうしたら楽しく参加してもらえるか?」という他者視点に切り替えたことが、数百人規模の人が集まる“ごみ拾いイノベーション”の原点だったのです。

「『SDGsが大事だから、一緒にごみ拾いやろうよ!』では『ほしくないプレゼント』を人にあげるようなものですよね。そうではなく、参加する人に本当に喜んでもらえるものを、心を込めて考える。そこにシフトしたことが海さくらの転機になりましたね」

タツノオトシゴが戻ってくる「海の森」をつくろう!

ビーチクリーン活動と並んで、古澤氏が力を入れているもうひとつの活動が「海創造プロジェクト」。専門家や地元住民の協力のもと、海の生態系の基盤となる海草=海の森を生育し、海の生物をよみがえらせる環境保全プロジェクトです。

「海さくらの活動には明確なゴールがあります。それが『タツノオトシゴが戻ってくるくらい海をきれいにすること』。ここ江の島にも、かつてはタツノオトシゴがたくさん生息していました。そのタツノオトシゴが安心して戻ってこられるキレイな海を取り戻すプロジェクトです」

江の島の住民に聞き取り調査をするとともに、神奈川県水産技術センターの協力のもと水温、塩分濃度、溶存酸素などの水質調査を実施し、海水の状況を把握します。そして海底にタツノオトシゴの棲みかとなるアマモ(海草の一種)を“植林”し、その生育状況を見守っていきます。

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2021年6月、大きな出来事が起こりました。古澤さんたちが育てているアマモに、コウイカ(イカの一種)がたくさんの卵を産み付けてくれたのです。

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『海に棲むイカが僕たちの活動を認めてくれたんだ!』と感動しましたね。海の生態系のスケールに比べると私たちの活動は微々たるものにすぎませんが、あきらめずに一歩ずつ前進しているところです」

海のごみの約8割は「川・街」からやってくる

「日本一楽しいごみ拾い活動」と「海創造プロジェクト」。この両輪を回しながら、16年もの間奔走し続けてきた古澤さん。SDGsの追い風もあり、この16年での変化を感じていると言います。

かながわ環境美化財団の調査によると、江の島を含む湘南地区の海岸ごみの処理量は、私たちが活動を始めた2005年から減少傾向にあります。たまたまかもしれませんが……。今日のイベントでも落ちていたごみは少なかったですし、そういう意味ではこの16年間で確実に変化は起こっていると思います」

そう言いながらも、「でも、これを見てください」と古澤さんは、一つのケースを取り出して見せてくれました。

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「一見キレイにみえる海岸でも、ビーチクリーンをしていると、こんな微量のプラスチックが毎回大量に出てきます。サッカー場などで使用される人工芝も含まれているんですよ」

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こういったごみの約8割は、街の生活の中から発生します。ペットボトルやお菓子の袋、プラスチックの容器が、街から下水道を通り川に流れ、やがて海へと流れ着きます。川も護岸をコンクリートで固められているので、ごみがキャッチされずにそのまま海へと流れ込んでしまうんです」

街と川、そして海はつながっている――人々にそのメッセージを伝えるための啓もう活動も古澤さんたちは展開。スケルトンのオブジェの中にビーチクリーン活動で拾ったごみを入れた「海の叫び魚(うおーーー!)」というオブジェを制作、展示しました。

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さらに、サッカーや野球、バスケットボールなどプロスポーツチーム17団体(2021年11月現在)とコラボし、スタジアム周辺を選手やサポーターとともにキレイにするプロジェクト「LEADS TO THE OCEAN〜海につづくプロジェクト〜」を実施。「海にごみは行かせない!」とメッセージを発信し続けています。

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「SDGsという言葉とともに、環境問題への関心が高まっているのはとてもいいことです。でも気候変動だ、CO2だと声高に叫んだところで、生活者一人ひとりにとってはリアリティが持てません。もっと日々の生活の中で『川・街と海はつながっている』ことを実感できないと『自分ごと』にはならないし、街から海へと流れるごみも減っていかないんです

「世間が思うこと」より「自分が感じること」を大切に

このコロナ禍でなかなかビーチクリーンイベントができなかった時期も、やれることを考えてきた古澤さん。「FMヨコハマ」とタイアップした「POCKETごみ拾い」は「ポケットに入るくらいのほんの少しのごみ拾い」がコンセプト。日常生活の中で小さなワンアクションを起こせる取り組みです。

「FMヨコハマ様のおかげで、神奈川県内では朝のごみ拾いがちょっとしたブームになっていて、毎朝知り合いに会える楽しみもあるようです。毎月のイベントだけでなく、地元住民の方が日常的にごみ拾いしてくれる習慣がしっかり根付いてきたのは嬉しいことですね」

海岸にごみが落ちているのは“あたりまえ”。そんな人々の思い込みに、この16年間で少しずつ変化をもたらしている古澤さんに「“あたりまえ”を変えるために大切なことって何ですか?」と聞いてみると、「世間の感覚ではなく、自分の中にある感覚を大切にしているかもしれません」と答えてくれました。

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(2019年11月撮影)

「子どもの頃のほうが、『海岸にペットボトルが落ちてる。なんでだろう?』と素直な疑問を感じていたと思いませんか?でも、大きくなるにつれていつの間にか、海岸にペットボトルが落ちているのを見ても何にも感じなくなってしまいます。それは世間の思う“あたりまえ”に思考が引っ張られてしまっているんですよね。だから、“あたりまえ”が“あたりまえ”でないことに気づけるようになるには、自分の頭で考えることが大切なんです

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2人の娘さんのパパでもある古澤さん。キレイな海と海岸を次世代に引き継ぐべく、これからどんな「日本一楽しいごみ拾い」を仕掛けてくれるのか、楽しみです!

「江の島の海がキレイになって、タツノオトシゴが戻ってきてくれたら、海さくらも『ごみ拾い団体』から『海で遊ぶ団体』にシフトしていきたい。私が生きているうちに実現させますよ。絶対に!」

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(※写真提供:海さくら 上重泰秀)
※サムネイル写真は2017年7月撮影

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