人口は明治時代の水準へ

地方創生がぱっとしない理由 その2

政府が地方創生に関する戦略の根幹を見直します。現行制度も有識者会議等で集結した英知で策定した鳴り物入りの仕組みでしたが、5年足らずでの見直しは、いかにこの問題の解決が難しいかを物語っているといえます。

「人が地方へ行かない」

6月21日に閣議決定した今年の基本方針「まち・ひと・しごと創生基本方針 2019」の中で、来年度から始まる5か年の総合戦略について、以下のような表現がありました。

第1期「総合戦略」においては、まず、「しごと」を起点とし、地方の「しごと」が「ひと」を呼び、「まち」が活性化することを基本戦略としてきた。現在の課題の解決に当たっては、好循環を確立する取組が求められることから、地域資源を活かした「しごと」をつくり、地方の「平均所得の向上」を実現することが重要である。加えて、第2期「総合戦略」においては、地域の特性に応じて、「しごと」起点と合わせ、「ひと」起点、「まち」起点という多様なアプローチを柔軟に行うことが重要である。

今年で最終年度を迎える第1期の要諦のひとつは、起点が「しごと」だったことです。地方から人が流出して衰退する最大の要因は、仕事がないため。地方に仕事を作ることができれば、人が集まって街が活性化するのではないか、という仮説でした。

そのため、地方へ移住して起業すれば300万円もらえるという「かなり思い切った政策(エッヘン!)」(政府関係者)を含め、数多くの施策が打ち出されました。

しかし、結果は厳しいものでした。例えば、大きな課題のひとつであった東京圏への人口流入。当初の目標は20年に転出入を均衡させることでしたが、18年段階で12万人以上の流入超。総合計画が始まる前の9万人が、ゼロになるどころか、逆に増えてしまったのです



中には変化が見られるものもありました。地方での若者雇用創出数を5年で30万人増やすとの計画は17年度時点で27万人に達し、女性就業率も目標の77%には届いていませんが、17年時点で74%へ上昇。欧米主要国を上回ったことが話題を集めました。

それでも、肝心の人口流出が加速してしまったのはなぜか。専門家の間では景気の地域間格差などいくつかの要因が指摘されていますが、地域おこし協力隊やUIJターンの促進などに予算を振り分けたにもかかわらず、この結果はあまりにいただけません。

そこで政府は、対策の骨格を修正することにしたようです。従来の「しごと」が「ひと」を呼んで「まち」が作られるシナリオではなく、「まち」が「ひと」を呼び込み「しごと」が生まれる形を模索しようというものです。

ITを利用した在宅勤務など働き方に選択肢が生まれたことで、「まち」を魅力的にすれば「ひと」が集まる、ということのようですが、実態は政府の読み違えによる、事実上の仕切り直しと言ってよい決断でしょう。

政策立案に関わったある関係者はこう話していました。「ある程度の仕事を地方に用意してみたが、思った以上に地方へ人が行かなかった。地方の魅力をもっと磨かないと、若者が大挙して東京へ押しかける構図は変えられない」。

怪しい多数の「成功事例」

そこで浮上してきたキーワードは2つ。「関係人口」と「中枢中核都市」です。簡単に言えば、前者は観光と移住の間、例えば毎週末、気に入った地方へ通って小さな農園での作業を楽しむといったもの、後者は文字通り地方都市の機能を強化し、その地方の中核的な存在とすることで、東京圏へ流入する人の流れをそこで食い止めようとするものです。

後者については後日また色々書きたいと思っているのですが、少なくとも政府が1期目の戦略で描いた、人の流れを変えることは、ほとんど実現できなかったのが実情です。

ただ、私はこの手の議論で良く見かける、政府が予算消化を優先し、浅い理解の下で無意味な政策に巨額の税金を(こういう時だけ、なぜか「血税」という言葉が良く使われます)投下している、といったステレオタイプの批判には、あまり与したくありません。

地方活性化という、経済成長が峠を越えた主要国に共通する長年の課題が、政策ひとつでそう簡単に解決するわけがありませんし、そもそも地方おこしという局地的作業を、中央政府の言う通りにやって、うまくいくと考えるほうが現実的ではない気がします。

実際、「地元を盛り上げたい!」という草の根の取り組みは全国で広がり、芽を出し始めています。ある地方で複数の関連事業を立ち上げている若手社長は「今ほどチャレンジしがいのあるタイミングはない。世話になった地元に恩返しができるかもしれないし、たとえ失敗しても、起業で得た経験がキャリアとして認識してもらえる時代になった」と話していました。

その一方で、主役であるはずの地方自治体、その地の主要事業者の中にも、結局は有名人頼りでその場限りのイベントとか、職人意識を捨てきれないサービス意識ゼロの6次産業事業者(1+2-3=ゼロ!)など、それほど危機感ない感じですか? と思わざるを得ないような「成功事例」と呼ばれているものも、少なからずありました。

この辺も少しずつ書いていきたいと思いますが、地元の農産品でジャムとかジェラートを作ったり、おしゃれなレストランを畑の裏に作るような事業を散発的に立ち上げても、人はたいして集まらず、地方はなかなか興らないし、ましてや人口減に歯止めなどかかりません。当事者が戦略的に、かつ徹底的に「ここにしかない」を磨き上げなければならないのです。

時代に即した魅力の再発見

以下は、米国の外交専門紙「フォーリン・アフェアーズ」に最近掲載された論文の要旨です。地方創生とは一見まったく関係がない話に見えますが、日本のあちこちで同時発生している急速な人口減は、安全保障も含めたこうした問題とも、間違いなく直結しています。

大国への台頭を遂げたものの、深刻な人口動態問題を抱え込みつつある中国、人口動態上の優位をもちながらも、さまざまな問題に足をとられるアメリカ。そして、人口動態上の大きな衰退途上にある日本とヨーロッパ。ここからどのような地政学の未来が導き出されるだろうか。ヨーロッパと日本の出生率は人口置換水準を下回り、生産年齢人口はかなり前から減少し始めている。ヨーロッパと東アジアにおけるアメリカの同盟国は今後数十年で自国の防衛コストを負担する意思も能力も失っていくだろう。一方、その多くがアメリカの同盟国やパートナーになるポテンシャルとポジティブな人口トレンドをもつインドネシア、フィリピン、そしてインドが台頭しつつある。国際秩序の未来が、若く、成長する途上世界における民主国家の立場に左右されることを認識し、ワシントンはグローバル戦略を見直す必要がある。


人口減の緩和という言葉には、戦前の「産めよ殖やせよ」と同じような苦痛の響きを感じますが、もともとある地方の魅力を、時代に即した視点で再発見し、磨き上げることで各地が活気を次第に取り戻すことだと考えれば、これほど面白そうで、楽しみなことはありませんよね! 私はそう強く考えています。

(写真やグラフは政府HPより)


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