見出し画像

くさい席

日曜の昼時、私は友人とともに繁盛するフォミレスへと足を踏み入れた。
10分ほど待って通されたのは窓際の角席。人目が気にならず、長居するにはとてもよい席だ。
しかしすぐに異変に気づいた。鼻を刺すような臭い…。肉が腐ったような強烈な刺激臭。この中で飯を食うなどたまったものではない。小ぎれいな店内と異臭のコラボレーション。間違いなくこの世で最もあってはならない組み合わせだった。
当然その場にいることなどできない。友人はすぐに席を替わろうと言い出した。しかし私は考えた。ちょっと待て。長居する気満々でこの店に入った。この席以上にポジショニングが良い位置など存在しない。さらに匂いの源。それは間違いなく頭上の換気扇に違いなかった。そして幸運なことにその風は彼の座っている窓側の方向へ吹いている。くさいには変わりないがその風の量を鑑みると、彼は今にももう吐いてもおかしくない量がきていることに比べ、私はまだ慣れれば何とかなる量であった。
「ま、まあほかの席も空いてないし我慢しよや…」
なんとか彼を説得し、異質な風が吹くその席にとどまることに成功した。

匂いを少しでも打ち消そうとカレードリアを注文した。こともあろうか彼はタンタンメンを頼んでいる。暢気なものだ。
ドリンクバーに寄って席に戻ると改めてそのくささに驚く。こんな席があってよいのか。この匂いがまん延した部屋が仮にあればそれはホロコーストを彷彿させるだろう。
「おえっ」
小声で言ってみた。それだけでも明日は今日よりはいい日になる気がした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?