見出し画像

こまちちゃん名作集1 VSフクシマ

今日は3月11日。誰もがこの日を忘れず、この日のことを語り継いでいかなければならない。私にとってももちろんこの日は忘れることのできない1日となっている。

ちょうど6年前。当時高校3年生だった私は”自称進学校”と呼ばれるにふさわしい何とも言えないレベルの高校に通い、受験戦争を繰り広げていた。幸いにも地頭はそんなにおバカさんというわけでもなく、クラスでもよい部類に入る(と思っていた)ほうだったのだが、なんせ目標がなく、高い志を掲げる周囲に紛れるようになんとなくお勉強を重ねる、というような日々を過ごしていた。”自称進学校”にありがちな「とりあえず国公立ねらえ」みたいな風潮に飲まれ、志望校は?と訊かれると、「国公立大スカね…」という今となっては最もよくない答え方をし、どことは言わないが国公立いけるといいな…というあってはいけない抽象的な希望を抱いていた。

そんな中、とりあえずいい点をとろうと意気込んだセンター試験にほぼ失敗、その点で合格できそうな国公立を探し、前期試験を挑むもモチベーションは上がらず惨敗。さらに思い付きで受験した私立大学に無事合格してしまい、困惑。最終的にはじめてみた私立大学の雄大さと都会への胸騒ぎに誘われ、その大学への入学を決めたのだった。

が、実はこの時点ではまだ国公立大の後期受験が残っていた。前期のようにセンター時点での点数が合格水準にほぼ満ちていないこと、前期はそうであるにもかかわらず不合格になってしまったこと、そして進路がほぼ決まってしまったことより、受験に対するモチベーションが0に等しくなっていた私はその試験を当然放棄しようとしたのだが、これはドがつく真面目家系の両親がだまっていなかった。こっちは金払ってんだとりあえず行けの一点張り。消化試合でもいいと言われ私は受験日前日の3月11日しぶしぶ東北は福島へと旅立った。

新幹線を乗り継いではじめて降り立った東北の地。受験日前日ではあるが当然私は勉強などしない。ホテルに荷物を置いて夜の福島を練り歩くことにした。
駅前にも関わらずここはなんという田舎なのか…。地元の方が都会じゃねえのか…。女もブスだし…。カップルばっかだし…、ケッ
などとぶつぶつボヤキながら歩いていると、幻想的な光景が目に飛び込んできた。

なるほど。すっかり忘れていたが(スンマセン)今日は3月11日。あのおぞましい災害からはや7年が経ったというのか。当時は小学生だった私。時の流れは早いなとしみじみと思いながらキャンドルの炎を見つめる。この中にもあの日家族や友人を失った人がいるかもしれないよね。そう思うと自分が、自分の周りが何事もなく生きていられることはなんと幸せなことなのだろうか。
老若男女問わずいろんな人が火をともしていく。もちろんカップルも…。ま、いいや。この近くにいる時だけは何も思わんといてやるわ…ケッ
かれこれ1時間くらい広場にいただろうか。目に深く焼き付いたその火はホテルに帰っても、目を閉じて眠りに就こうとしても消えることはなかった。


翌日、受験であったことをすっかりと忘れていた。
飛び起きると急いでホテルをチェックアウトし、受験会場となる大学へと向かった。
大学の最寄り駅から大学構内へは緩やかな坂が続いている。なんとか余裕をもって到着できたぜと言いながら坂を上っていこうとすると、はて。坂の途中でおじさんが受験生たちに何かを話しかけているではないか。しかも次から次へといろんな受験生に声をかけている。
ティッシュ配りにも見えない男性に気味が悪くなった私は少し様子を見ることにした。しかしどれだけ待ってもおじさんは声をかけるのをやめない。しまいにはこちらの時間が無くなってきてしまった。意を決して、彼の方向に一切目を向けることなく早歩きで坂を上ることにした。
が、しかし!こともあろうか彼はこちらに歩を寄せ、こともあろうか対峙してしまった。万事休す!
そして彼は私を見てゆっくりと話しかけてきた。
「キミ、今日が何の日か知ってる?」
一瞬パニックに陥り彼が何を言っているのか意味がわからなかった。正体がわからない相手が一番恐ろしい。彼はいったい何のためにそんな質問をするのか…。脳を回転させてもその答えは出てこない。しかし昨夜見た光景を思い出したとき、彼の質問の答えに先にたどり着いた。
そうか。ここはフクシマ。昨夜のキャンドルもさることながら、災害の翌日に起きたあの事件がいまだにこの地には強く残っているのか…。おじさんは受験生たちにそのことを伝えている…?
しかしそこは当事者ではない私たちにとって触れづらいセンシティブな部分だ。私はおじさんの気持ちをおもんぱかりながら刺激することのないようおっかなびっくり答えた。
「え、ええ。わかります」
すると彼は予想外の一言を放った。
「キミが…合格する日だよ」
あっけにとられていると彼は不敵な笑みを浮かべながら立ち去り、また別の受験生のもとへとうつっていった。

試験の最中もそのことが頭から離れなかった。彼は何者だったんだろう。なにがしたかったんだろう。何度考えてもわからなかった。試験の小論文はほぼ白紙で出した。


あれから6年。いまでもあの日のことを夢に見る。彼はもしかしたら大学の教授だったんじゃないかとか、シンプルに近所の名物(迷惑)ジジイだったんじゃないかとかいろいろ考えはあるが今となっては真実はわからない。でも6年経って気づいたこと。これだけは言わせてほしい。
テメエワイの顔見てけっこう笑っとったよな!まじ許さんで!今度はワイがおまえさんのこと笑ってやるんじゃい!!!!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?