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【ビジネス俯瞰図】なぜAmazonGOのような店舗型無人販売は普及の兆しがないのか?

NTTデータさんとCloudPickさんが共同で作った無人店舗の模擬店をセブンイレブンさんが利用するとの記事が出てきましたね。

大変残念ながら模擬店は模擬店のままとのことで一体何をしたいのか良く分からないのですが(今更技術的検証と言うことでもないでしょうし)、日本だと無人店舗と言うと無人レジかこの店舗型ですよね。

ただ、キオスクとして実証実験をしたサインポストさんとJR東日本スタートアップさんの取り組みは数多くの課題を生み出したまま沈黙を続け、このタイプでは先行するStandardCognitionさんと薬法堂さんの実証実験は実質的にスタートすら切れない状態…無人レジの急速な拡大に比べると亀の歩みみたいな感じでなかなか進みません。そのうち無人店舗と言えばローソンさんのような無人レジを使っただけのものやファミマさんのように区画を区切って自販機で提供するような形に落ち着きつつあります。

ニーズ自体は高いのに全くその先が見えていない、いわゆる「AmazonGO」タイプの店舗型無人販売。どうしてこうなったのかを少し掘り下げてみようと思います。なお、ここでは無人店舗を「画像orTOFと重量センサーの組み合わせ」を使ったものに制限して考えていきます。

■ユーザの自由度が上がる=分析対象が増える

無人での販売にはいろいろと課題がありますが、店舗型での最も大きな課題は「消費者が自由に行動できる」点だと思います。

店舗型での無人化は消費者が一般的なスーパーと同様に自由気ままに商品に触れ、戻し、買っていきます。また、服装も様々で背の高さも様々。子供を共連れしたり夫婦で同じかごを使ったりと、「買った」と言う一つの要素を抜き出そうとしてもかなりの変動要素が絡んできます。

ところが現在の仕組みではこれらの柔軟な対応をセンサーのみで対応することができません。今の主流はTOFと重量センサーの組み合わせですが、これらは「そのエリアには同じ商品しかない」ことが前提であり、同一重量の商品を別の場所に戻されると区別がつかなくなるという欠点があります。例えば安いのだと200円、高いのだと1000円ぐらい価格差が出る栄養ドリンクなどは、安い商品を取り出し高い商品の棚に安い商品を戻すと高い商品を安くある意味合法的に買えてしまいます。

そこまで悪意はなくとも、なんとなくその辺に商品を戻した場合、システムから見ると買ったはずなのに商品はお店の中にある…みたいなことも起きます。システムの構造を理解していれば何のことはない話でも、それを知らない人にその知識を要求するのは非常に酷です。仮にそれを広められたとしても「面倒」の一言でナマモノですらその辺に放置する消費者が一定数いる以上(ここはリテールの現場を経験した人なら大きく首肯してしまうところでしょう)、そこを無視して無人化することはかなり難易度の高い話だと思います。

そうなると結局商品を並べ直す人員が必要なわけで…AmazonGOが店舗の無人化をできないのもこうした理由も1つあるからだと思います。

■莫大なリソースを要求する=コストが青天井

AmazonGOは店舗から出た瞬間にはレシートが届きません。おおむね3~5分程度のラグがあって到着するそうですが、普通に考えると「それまでずっと監視しているのだからすぐに結果は出せるでしょ?」と思うのですが、これらは何を意味しているのでしょうか?

AmazonGOの詳細は公開されていないので本当のことは分かりませんが、これはおそらく解析すべきデータが多すぎてすぐに分析結果を出せないことが原因なのではないかと思います。人がどこでどんな姿勢をしているのか、どの商品が取られたとのか、画像や重量センサーのデータを駆使して分析してく必要があり、とりあえず人の動きだけをTOF系で取得しておいて、あとから重量や画像データの分析結果を繋げておそらくこれを買ったのであろうと推測する。この作業には非常に大きなリソースが必要となるため、処理時間コストも投資コストも精度を上げようとするだけで青天井に膨れ上がります。

そのコストを下げようとすると商品の種類を減らしたり判定しにくい商品(同一パッケージで容量が違うとか)を扱わないなどマーチャンダイズにかなりの制約を受けることになります。自販機のようにそもそも入る数が少ないものなら「商品展開戦略」の一言で片付く話も、一般的な商店の形をしていれば「商品の種類が少ない店」と言う評価を受けてしまいます。これは中国の無人店舗でも(理由は異なりますが)起きている事象であり、同じ轍を踏むことになるのは非を見るに明らかな気がします。

■まずは自販機や無人販売機での実装が楽

いろいろな意味で高コストなのにイレギュラー処理は苦手と言う現状の仕組みだとこのまま進んでも個人的には将来はない気がします。となると最適解になるのは「ある程度消費者の行動が制限できる」自販機や無人販売機が良いと思います。

1回につき1個しか商品を購入できない自販機であれば消費者は不便でも使い方は慣れているし無駄な管理が不要。冷蔵ショーケース型の無人販売機は管理と言う面では自販機に劣るものの、扉を開けることは基本1名でしかできないので管理コストを大幅に削減できることから、こうした形態での提供の方がかなりコストを安くかつ消費者の負担が少なくすることができると思います。

ちなみにZippinはこの方向に舵を切ったようです。やはり自由度の高い状態は消費者管理が難しいのだと思います。

■ハードルガン上げで自滅する前に…

このほかにも細かい部分でいろいろと障壁が高い店舗型の無人店舗ですが、いきなり無茶なハードルをクリアしようとして業界全体が沈み込むよりも、まずはできる範囲から初めて少しずつ妥協点を探しながら高みを目指していく方が良いと思います。

無理を突き通して結果人手が減らず技術も改善されず…では話にならないですからね。


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