「少子化傾向が回復したら、同性婚を認めます。」

認めてあげてもいいですよ。ぐらいの感じでそいつは言った。

私は以前から同性婚について、デメリットがわからないなと思っていた。同性同士で法的な結婚ができるようになることによって誰が困るのか、どのような不都合が生じるのか、いまいち想像がつかない。大学の性倫理の講義でたまたま同性婚のことを取り上げてディスカッションをする機会があったので、「同性婚に反対する人がいるのであれば、その理由を聞きたい」と言ってみた。おそらく百名ちょっとの学生が出席する中で、二名ほどの学生が、同性婚解禁への漠然とした不安のようなものを吐露した。彼らは、はっきり反対とは言い切れないものの、今の社会を運営するために実際に採用されているシステムを変えてしまうことに対する不安を持っているように見えた。当然ながらその薄弱な根拠で同性同士の結婚を禁じることは不当であるのだが、まあ気持ちそのものはわからんでもないなと私は思った。
そのあとに挙手したのが、私を激怒させることになるひとりの男子学生だった。

「自分は同性婚に反対です」

嫌な予感はあったんだよ、冒頭からさ。まず一人称が「自分」。これ。もう地雷の匂いがしている。私は身構えた。

「理由は同性婚によって少子化が進むと思うからです」

あ、それな。そのパターンな。だいたい「思うからです」ってノー根拠かい。ええと、同性同士で法的な結婚またはそれに準ずる契約が可能な諸外国において、特に少子化の傾向が認められないという統計が出ていることを、きっと彼は知らないんだな。私はそう考えて、とても親切に教えてあげた。きっとご存知ないだけでしょうから、ご自分で検索などしてお調べになるといいと思います。
しかし彼はググりもせずに私の反論をはねつけた。

「諸外国が同性婚を法制化したときの状況と、今の日本の状況とは違うので、外国で同性婚の解禁によって少子化が進まなかったとしても、日本で同性婚の解禁によって少子化が進まないとは限らないと思います」

うん。……え? う、うん。
続けてスキップのような気軽さで彼は地雷原を踏み抜いた。

「半年間この講義を受けてきた中で、同性愛者でも異性と結婚して子供をもっていることもあるという話を聞きました。これは同性婚が法的に認められていないからこそだと思います。だから認めないままのほうがいいと思います」

……。

表へ出ろ、クソガキ。私は真面目で親切だから発言の重点を的確に要約してやるが、オマエ今「同性愛者だろうと異性愛者だろうと、また当人が望むと望むまいとにかかわらず、何人たりとも異性と婚姻および生殖行為を行って子供を産むべきである」って言ったな?

性倫理の講義を受け持つのは、平良愛香氏。ゲイであることを公表したうえで牧師として教会に属し、またLGBT支援やエイズ問題の啓発など、性愛と人権にかかわるさまざまな活動に幅広く携わる人物だ。そんな彼の講義中に取り扱われる「既婚の同性愛者」というのは、自らの性的指向の発見が遅れた、またはそれを内に抱えながらも社会的・経済的などのさまざまな事情でそうならざるを得なかった人々であって、当然ながらその苦悩や葛藤の文脈において紹介されたのである。
オマエ今そういう過程のすべてをシカトして「子供をひとり産む=人口カウントにプラス1=少子化改善へ1マス進む」みてえな発想で人間ひとりの人生そのものを踏み潰したな? なんならついでに「講義には出席していたけれど誰の話も何ひとつ聞いてませんでした!」っていう表明もセットでぶち込んだな?
講師もさすがに困惑を隠しきれない様子で、男子学生に「それはその、同性愛者でも結婚して子供を産んだほうがいい……というような意見なんでしょうかね」と問いかけた。しかし学生は飄々として「まあそうですね」みたいな反応だった。この時点で状況は私の沸点を軽く超えていた。

それでも可能な限り怒りを抑えようと努力している私のななめ後ろで、ひとりの女子学生が挙手し、彼に反論しようとしたが、うまく文章にならないようだった。私は彼女の話す切れ切れな単語を聞いて、だいたいどんなことが言いたいのかわかったような気がして、代弁をこころみた。
あなたは自分の中で、「結婚したい人」「したくない人」「子供がほしい人」「ほしくない人」などそれぞれの関係をきちんと整理しているのか? 同性婚が解禁されないままであれば子供を産んだはずの人が解禁によってそれを断念する、または、解禁された場合に子供を産まない選択をしたはずの人が解禁されないことによって子供を産もうと思う、ということが実証できるのであれば少子化の改善に同性婚の禁止が効果を発揮するという説の正しさが証明されるけれども、なぜそう言えるわけ? ごく一般的な想像力の範囲内で、子供ほしい人が「同性婚できるようになったんだ! じゃあ私子供産むのやめた!」ってなると思うか? 同性愛者が「愛する人とは結婚できないのか〜。じゃあ性的指向の対象ではない相手とセックスして子供産もう!」ってなると思うか?

男子学生は狐につままれたような顔をした。そして私の問いを惚れ惚れするほど見事ににシカトして「とにかく今はアベノミクスなどの効果もあって少子化が多少の回復傾向にあるので、同性婚を今解禁するとそれに水を差すことになるのではないかと自分は考えます」と繰り返す。
講師が半ばひとりごとのように「少子化が、今よりもっと回復したら……」とつぶやくと、彼はうなずいた。

「はい、(同性婚を)認めます」

そもそもオマエは生まれたついでにたまたまヘテロセクシュアルなだけのくせによくもまあ他人の権利について「認めます」とか言えるな。たまたま数が多いほうの属性持ってるってだけで、自分たちが誰の許可もなく当たり前にしていいことを他人については「僕が認めてあげてもいいですよ」みてえなツラができるのな。すげえな。どう生まれたらそのクソみてえな神経持ったまま20年だかも生きてこられるんだろうな。ある集団に無自覚に所属しているというだけで、誰に迷惑をかけることもなく誰の許しも要らず当然の権利として持っているものを、その外側で生きている他者に対して「本当はキミにそんな権利はないけれども、ボクは寛容だから特別に許してあげるよ」的な気分で生きてんのかな。それともそんな構造について考えたことすらないのかな。きっと後者なんだろうな。
自明であると思い込んでいる自分の属性は、いつ何かの拍子に変化したり、脱落したり、入れ替わったりするかわからないものだ。自分と異なる属性をもった他者の権利を保証することは、そのような不確定な自分の権利を保証する唯一の方法なのだ。なんでそんな簡単なことがわからないんだろうな。思考回路がマジでわかんねえな。
こういうやつって日頃から国益のためには〜とか負債額が〜みたいなこと言ってさ、不正受給などの問題もあって生活保護費が国家予算を不当に圧迫するから減らせ〜みたいなことをドヤ顔で言っててさ、それでいざ交通事故にあって半身不随になって生活保護を受ける身になったとしてもさ、過去の自分の発言との齟齬に悩んだりしないんだろうな。だって何も考えてないから。ものごとの性質や順序や論理構造について正確な認識を追求するということがないから。ああ、今殺しておいたほうが世の中のためになるのではないかと思ってしまうほどの害虫だなあ。自分は御社の企業理念に共感し〜とかなんとか言ってキリッとしながら商社とか銀行に就職したりして、部下の女子社員やなんかに向かってまったく無自覚なままモラハラ発言ばっかりしたりすんのかなあ。心から切実に死んでほしいなあ。

バカは他者を圧迫していることに気がつきもしない。絶対に苦悩しない、絶対に葛藤しない。なるほど、正直者が馬鹿を見る、か。ならばせめて本当に交通事故にあって純粋にフィジカルな意味で苦しんでほしい。ぜひともそうなることを願う。以上。

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コメント63件

コメントチェックしてるならここに出てこいよブス
へいへいドブス見てる~?
流石にこれは不愉快w
gouenって人、なんか「死ね」をめっちゃ批判してるけど、自分も「死ねばいいのに」って言っててめっちゃ笑った
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