グリッツデザイナーズノート(カード編)

 本記事はゲームマーケット2023秋にて頒布予定のグリッツというTCGライクのカードゲームのデザイナーズノートです。ルールを把握している前提で書いているので、前編としてhttps://note.com/unnouunn/n/n7e0d2748d6e7をご覧ください。

カードタイプの策定

 TCGライクのカードゲームなので、最低限必要なカードがある。それはクリーチャー(モンスター)だ。相手のマスター(≒王将)を攻撃するのに必要であり、このゲームの中心になる。ではそれ以外をどうするかを考えた。

 他のカードゲームでもあるのは呪文や全体に影響を及ぼすフィールド魔法、相手の攻撃に対する罠カードだ。前回の話で土地(mtg)やエネルギー(ポケカ)などの類は余った1デッキで賄うことになったのでそれ以外で考える。

 出来ることと出来ないことをはっきりさせ、カードタイプAで出来ることはカードBで出来ない方がよい。
 クリーチャーはまずは攻撃と移動が出来て場に存在する。これは確定だ。であれば移動と攻撃が出来ないが場に存在するカードがあったほうが良い。
 そしてその二種と区別するのであれば場に存在しないカードもあったほうが良い。これで3種だ。

 場に存在するだけのカードはとりあえず「アーティファクト」としておいた。
これの効果をおおまかに決めたい。
 移動攻撃が出来ないという事は、一番最初に出した場所に居続ける可能性が高く邪魔になる可能性もある。また、相討ち狙いで攻撃することも出来ないので自分でコントロールすることは出来ない。そのため、いるだけで得し続けるカードが望ましい良さそうだ。短期の損、長期の得である。
 逆にクリーチャーは長期的な効果は少ない方が良さそうだ。

 場に存在しないカード、これは「呪文」とした。こちらは短期の得、長期の損と安易に考えがちだが、別にそうする必要はない。傾向としてはもちろんそうなるが、どちらかというと即座に影響を与えるということが大事だ。アーティファクトは効果の分割払い、呪文は一括払いというイメージだ。
 やや扱いが難しいが、mtgで言うインスタント(相手ターン中でも使用できるカード)的な効果もあると幅が生まれる。

 より細かく区別するのであれば「移動は出来るが攻撃できない」カードなども可能ではあるが、そこまで細かくすると混乱してしまう。必要になったら足していこう。

決まったこと(カードタイプ)

・クリーチャー  :場に存在し、移動、攻撃が出来る。効果は即時寄り
・アーティファクト:場に存在し、移動攻撃はできない。効果は長期寄り
・呪文      :使い切りでその場で墓地に行く。即座に影響を与えるカード。相手ターンでも使えるカードもある。

 上ではカードタイプから傾向を並べているが、逆に傾向からカードを分類すると以下のようになる。

場に存在する    :クリーチャー、アーティファクト
即時効果      :クリーチャー、呪文
移動、攻撃できる  :クリーチャー
長期効果      :アーティファクト
相手ターンでも使える:呪文

 2種に共通する能力があり、1種のみの能力もある。あくまで傾向の話なので、全てを必ず守るものではないが良さそうに思えた。
前編でも話をしたが、ルールを破るカードがあればそれは特別なものになる

デッキ方針の策定

トップダウンデザインとボトムアップデザイン

 カードを作るにあたり、おおむね二通りのやり方がある。トップダウンデザイン(フレーバー重視)とボトムアップデザイン(メカニズム重視)だ。
 それぞれどういったものかという話はこちら、 https://mtg-jp.com/reading/mm/0030457/ mtgの記事を参考にしてもらいたい。
 作るにあたって、どちらでも問題ないが要件としてはいくつかある。

・カード名+イラストと効果が合っていること
・効果のテキスト量が一定範囲内であること
・そのカードにしか出来ない効果であること(上位互換を生まないこと)

ボトムアップデザイン

 このゲームの理解を深めないことにはメカニズムを作ることは出来ない。そのためこのゲームの要素を列挙しよう
・マナ、コスト
・領域:山札、場、墓地、手札、マナゾーン
・カードタイプ、デッキタイプ
・攻撃力、体力、ダメージ
・隣接するカード
・行動:移動する、攻撃する、呪文を使用する、山札を引くなど
・フェイズ:ターン開始時、メイン、終了時、相手ターン中など

 この中のどれもメカニズムとして成立しそうだが、分かりやすく単体で完結しやすく組み合わせても機能するものとして以下を選んだ。
マナ→マナを増やして巨大クリーチャーを出す
墓地→使用後や破壊されたカードを利用する
ダメージ→「ダメージを受けたら」という条件で効果発動
(行動)移動する→「移動する」という条件で効果発動
カードタイプ→アーティファクト中心のデッキ
・山札操作→次に引くカードをコントロールして有利に

 いくつかカード案を出そう。墓地であればゾンビは分かりやすい。アーティファクト中心・・兵器であれば移動出来ずダメージを与えられるものとして分かりやすい。マナであれば生物中心かつ巨大なクリーチャーとして恐竜が良さそうだ。10枚程度のサンプルを出していくうちにおおまかな方針が決まった。

マナ:恐竜ランプ
墓地:モチーフ未定(ゾンビ+α)
移動する+アーティファクト:兵士+兵器
山札の一番上:未定(ボツ候補)

ダメージ:あまり出せなかったのと硬直しがちなのでボツ
6個挙げたにもかかわらず4個になってしまった。なんなら3個の可能性すらある。

トップダウンデザイン

 足りないならば足せばよい。出来る出来ないにかかわらずモチーフから決めよう。こういったものは印象に残ったり話をモチーフにするとよい。童話、神話、アメコミ、サイボーグ、スチームパンク、デジタルゲーム、異種族(エルフやドワーフ、ゴブリンなど)

 現状機械系の要素が足りないのでサイボーグは欲しい。残りは童話や神話なども分かりやすく幅が広い。どれも魅力的なモチーフだが一旦これから考えよう。
 例えば童話から作る場合、一つの作品を掘り下げるのではなく童話という概念から掘り下げて1作品1カードという贅沢な方針にしたい。選択肢の多さは質である。

 親の影響か、童話と言えばディズニーという感覚になっている。知名度的な話でも良さそうだ。美女と野獣、シンデレラ、ラプンツェルなどもある。ラプンツェルは知名度的にはあまり無いが面白そうだ。塔の上にいる姫が脱出する話だったはずだ。塔の上、の上……?山札の上と見立てられないか?

個人的に一番好きなトップデザインカード

 こうなると話が早い。余っていた山札操作デッキは山札の一番上デッキにし、童話モチーフになった。また、山札の一番上を高いところと見立てるのであれば高いところから落ちたハンプティダンプティも良さそうだ。作中のセリフも入れておきたい。かがみよかがみとかめでたしめでたしになるだろうか。

 モチーフ未定だがゾンビだけ決まっている墓地デッキも同じように探していこう。ゾンビを調べてみるとブードゥー教由来で、毒により仮死状態にするとかゾンビパウダーとか哲学的ゾンビとかスリラーとか雑多でも構わず情報を収集していく。その中でブードゥー教という部分に着目し、先ほど挙げていた神話と合わせることにした。神話は死に近い話が多く数も多い
 マヤ神話の生贄を捧げる洞窟、シバルバー。ギリシャ神話の冥府の神、ハデス。仏教の死後の世界、三途の川。日本神話のヨモツヘグイ。そんなモチーフを参考にした。

全てに死をもたらし、墓地にあれば相手のクリーチャーですら従える神

 アメコミとサイボーグは相性が良い。また、進化していく様も表現したい。場にあるクリーチャーを手札に戻して強化していくデッキを作ってみた。これでラストの1枠である



テストプレイに持ち込もう

 今までに載せた画像は全て完成後であり、説明書も未熟な状態であったことを強調しておく。
 そんな感じで一通りのカードが完成し、傑作が出来たとウキウキでテストプレイ会で持ち込んだ。友人とのテストプレイではとても楽しそうにプレイしており、ここでも大絶賛間違いなしだと思っていた。
 遊んだ相手が全く面白そうな顔をしていなかった。表記が曖昧などの話もあるが、そもそも面白くなかったのだ。
 強さが同じぐらいであることにこだわっており、プレイ体験を重視していなかった。自分の作ったものは「出来のいいシミュレーター」であり「ゲーム」ではなかった。

方針の見直し

 テストプレイのFBはおおよそ以下の通りだった。
・エース的なカードがデッキに1枚しかないのが悲しい(1×2、2×5の7種だった)
・そもそも全体的に弱くワクワクしない
・2,3ターン後の結果が読めてしまう(そういう調整をした結果の感想ではあった)
・用語が曖昧
・ルールは分かりやすい

 そして、以下のように方針を定めた
・TCGライクなので運ゲー上等である。有限確定情報ゲームをしたいのであれば将棋などのアブストラクトを遊ぶべき
・ターン数は「デッキの2/3を使用する程度」を目安とする
・山札が無くなれば負けである(前はリシャッフル)
不変を悪とし、変化を善とする
・エースやデッキの基礎は3枚にしてカードの種類を絞る
・攻撃力を上げて、戦闘結果をおおよそ相打ちにする
・カードの強さを全体的に上げる(1:2交換が目安)
・デッキタイプ一つをボツにして作り直す

別のテストプレイ会へ

 そして、そのおよそ1週間後、別のテストプレイ会に持ち込んだ。
TCGプレイヤーから大絶賛だった。かなり大幅な改修をしたため粗はあったが概ね高評価だった。性質上1人ではテストプレイがろくに出来るシステムではない。不安で仕方なかった。これでダメなら取り下げることすら覚悟していた。
 繰り返しが前提であることを作ったのでかなり短めに終わった。その際、「時間あるならもう一回やっていいですか?」「全部のカード見ていいですか?次は勝ちます」なども言われた。
 その後、見つかった粗(無限ロック)を修正しテキストの整備後、完成とさせた。

 この記事を書いているつい先週にも、別の展示会に行ってきた。それは学生時代の付き合いでデジタルゲームや絵などを展示するもので、あまりアナログゲームの展示は想定されているものではなく、遊ばれない前提で箱だけ置いて帰った。
 片付けのために来たら最強議論が白熱していた。その展示会では感想カードという文化があり、それがたった2日で山になっていた。
 一度案内人が遊んだ後、それを教える形でやっていたらしく、その結果かなり遊ばれてたようだ。感想カードの中には子供らしい字もあった。



好きなカードデザイン

一番これが書きたかった

 これを書くためにデザイナーズノートを書いているといっても過言ではない。この記事ではボトムアップデザインの印象が強いが、個人的にはフレーバー再現をかなり頑張った。いくつか好きなカードを紹介したい。

玉子の王子

 元ネタはハンプティダンプティ(マザーグース、鏡の国のアリスなど)である。山札の一番上(高いところ)にいるならば場に出せるカードであり、出すとダメージを与えて壊れてしまう。体力も1で簡単に壊れてしまう。
 ちなみに第一回目のテストプレイまでフレーバーテキスト(世界観の表現のための効果ではないテキスト)というものが存在していた。このカードのフレーバーテキストは以下の通りである。
「誰にも彼を元には戻せない」

めでたしめでたし

 このゲーム唯一の特殊勝利カードである。山札が無くなると負けであるゲームにおいて勝利するというカードである。
 このゲームのメタゲームはこれを中心にして回っていると言っても良い。これを意識しすぎると負け、これを通すために無理をすると負け、これに無対策であると勝利されてしまう。全部で5デッキあり、使わないデッキは1つのみ。大体登場してくると思うので、強くなりたい人はこれの対応策や通すためのカードだけでも追うとよいかもしれない

進化デッキの三枚

 名無しの実験体→第二段階→完全体と進化していく。全体的にアメコミ調にしてみた。BOOOOMBみたいな効果音やThe Completeなどの英訳も入れたかったが枠の都合で断念した。ちなみに没カードで「失敗作」もいる。
 このデッキを使用したとき、理論値は3ターンキルであり、「ゲームの最速定義する」というタイプでメタの一角である。大体阻止されるが、これの存在により相手は悠長な動きが出来なくなる。

大量絶滅とクリーチャー

 大量絶滅という敵味方関係なく2ダメージを与えるカードと同じデッキのカードである。これを使用したとき、三角竜(トリケラトプス)と暴君竜(ティラノサウルス)は死ぬが始祖鳥は生き残る
 フレーバーを再現するためにかなり苦労した。デッキコンセプト的に巨大クリーチャーでなければならないのに2ダメージで死ぬ。ダメージを上げると巻き込まれる別クリーチャーが多い。そこで三角竜は死ぬことを得に、暴君竜は攻撃中無敵にして無限攻撃能力を得た。これもかなり案を出して没にした結果である。

シバルバーの少女

 元ネタを知っている者は少ないと思うが、これもれっきとした神話モチーフのカードである。マヤ文明は生贄文化があり、その生贄に捧げる洞窟がシバルバー(冥界)に近いとされているらしい。ちなみに周りにある瓶は酒瓶であり、その洞窟はとても寒いらしい。
 元々、墓地デッキは自分クリーチャーを破壊するカードが多く、その時に効果を発揮するカードだったが「破壊時」という効果にして生贄らしい効果に落ち着いた。

ダストジャック

 この記事の中盤でボツにしたデッキの代わりに「手札を捨てて戦う」デッキが誕生した。
 これはそのデッキの中核を担うカード、手札を捨ててコスト軽減するカードである。別のゲームだが、1枚の即時効果で1マナを生み出すカードがある。言い換えるとこれは手札の好きなカードをそれに変えるカードである。他のデッキ次第だが、このゲームはかなり手札が潤沢に余る。それを利用してこのデッキが生まれた。

コージョー

 前編でも話したが、このゲームはクリーチャーの位置がライフである。これはそのライフを自ら減らすカードとしてデザインした。1ターン中に1回である制限はあるが、これは相手のライフが減るのと同義であるためこの制限が入った。

ジャンクキング

 カードを3枚も引けるが、これ自体は手札が無い時に効果を発揮するカードである。
 このゲームでクリーチャーを倒す手段はダメージまたは「破壊する」という効果だが、後述の破壊効果はハデスしか持っていない。そのため墓地の枚数が潤沢であればこのカードはほぼ無敵である。手札のカードが1枚だけであれば使用する、マナに置くなどで0枚を維持するのは比較的容易であるためかなり圧がかかるであろう。

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 このゲームはゲームマーケット2023秋にて頒布予定である。両日参加のため気が向いたらぜひ立ち寄ってもらいたい。


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