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通訳のノートテイキングを参考にした聴解授業

 日本語教育における通訳のトレーニングの活用というと、ディクテーションやシャドウイングが一般的ですが、メモを取って再表現する練習=ノートテイキングを聴解に取り入れたらおもしろいんじゃないかな、と思ったので実践してみました。前回授業の構成を箇条書きして力尽きてしまったので、もうちょっと詳しく書いていきます。

1.はじめに

 今回の「ノートテイキング」は、授業中のノートの作り方ではなく、逐次通訳のトレーニングとしてのノートテイキングを指します。 

 逐次通訳をするとき、通訳者は手元にメモをとっています。例えば「花子は学校へ行った」という話を聴いた場合。こんな感じに、聴いたことをそのままメモするのではなく、理解したことを再表現するためのメモをとります(あくまでも例なので、このメモがイイ!というわけではない…)。基本的には誰かに見せるものではなく、話が終わった時点で自分で思い出せればいいので、メモの取り方はひとそれぞれ違います。

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 ただ、ある程度共有されている法則もあります。例えば、「花子は学校へ行った。今日は友だちの太朗が休みだったので寂しかった」という場合。

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 まず、略語記号を用いて、できるだけ簡潔に話の流れを記録します。また、形式として、多くの人は、ノートを縦に区切って、縦にメモを書いていきます。そして話のまとまりごとに、横線で区切っていきます。こうすることで、一目で話の流れを捉えることができ、再表現するときの負担が少なくなります。 

 日本語の通訳養成コースでもないかぎり、細かく方法を指導したり練習したりということは多分必要ありません。今回は、聴解の時にメモがとれない、とってもディクテのように逐一聞こえる語を書いてしまって情報をもらしてしまう、という学生向けの授業(N1・JLPT対策)を考えてみました。


2.実際の授業の流れ(90分)

①導入 まず最初に導入で、今日の動機付けをします。この部分は間延びしてしまってあんまり上手くできなかったので改善が必要ですが、聴解試験や大学の講義でメモをとることの大切さ、語学のプロである通訳の人はこんなトレーニングをしていて、まねできる部分がある…など。

②実際の通訳ノートに触れる その後は、イメージをもってもらうため、通訳養成講座のサンプル動画で通訳の様子や、メモの内容、よいメモよくないメモなどを確認しました。また、実際のメモを見せて、どんな特徴があるかをみんなで確認しました。
 そのうえで、あらためて注意して欲しいことを伝えます。今回は、固有名詞・数字(単位含む)を逃さないこと、話の流れを縦に書いていくこと、分からない語彙があったらとりあえず音だけはメモすることなど。

③練習 ここまできたら、練習です。基本的には、例文を見て残すべき情報を確認する、音声を聞いて各自手元にメモをとる、ホワイトボードにメモを書いてもらい、それを見ながら再話してもらう、という流れになります。基本的には単文からはじめて、すこしずつ文章を長くしていきます。ここから下でくわしく見ていきましょう。

3.練習Lv.1「単文」

 最初に、白紙のコピー用紙を配布して真ん中に線を引いてもらい、通訳のノートを再現してもらいます。準備ができたら、まずは例文を見て、残すべき情報を考えましょう。

例:日本の三大都市といえば、東京、大阪、名古屋である。

 あくまでも例文なので、三大都市がどこかというのは置いておきましょう。この中で大切なのは、三大都市、東京、大阪、名古屋あたりです。その後は講師が読み上げて、それを聞きながらメモをとってもらいます。そして2〜3人WBに書いてもらって、メモの取り方が皆違う、でも残すべき情報は同じということを確認。

 確認が終わったら、練習問題を4問ほどしてみます。文は、できるだけいろんな表現(例えば疑問形で終わる、など)が入っているほどいいと思います。ディクテではないので繰り返すことはしません。すべて読み上げたら、WBに書いてもらいます。たぶんここまではすごく簡単そうにしているので、単文ではあまり時間を取らなくていいのかもしれません。

4.練習Lv.2「少し長い文」

 単文が終わったら、次は2〜3文から成る文にチャレンジ。ここから楽しくなってきます。

例: 台風18号が午前5時過ぎに大阪へ上陸しました。最大瞬間風速は55メートルで、現在、時速およそ50キロで北東に進んでいます。この影響で、交通機関には朝から大きな乱れが出ています。十分に注意して下さい。

 例題ではやっぱり残すべき情報を確認して、読み上げ、メモしてもらい、それを共有します。 例題の後は練習問題ですが、単文で余裕だった学生もここは若干苦戦します。結構そのままメモをとろうとする人が多かった。わたしは『ニュースの日本語』に出て来た文章(単元の初めの段落)をちょっと改造して使いました。

5.練習Lv.3「長めの文で、ペアワーク」

 少し長い文のノートテイキングになれたら、つぎはJLPTの概要理解やポイント理解程度の長さの文のノートテイキングにチャレンジ。ここではCDの音声を使用しました。また、ここからは個人作業ではなくペアワークにしてみます。

①ペア作り まずは二人ペア(A・B)を作り、片方だけ(今回はA)にスクリプトを配布して、隣の人には見せないでねと伝えます。

②聴く 音声を流します。この間、Aはスクリプトを見ながら聞き、Bはメモをとります。

②ペアで再話 音声終了後、Bはメモを見ながら今聴いた話の内容をAに伝えます。Aはスクリプトの内容と話に含まれていた情報が合っているか、などを教えます。これは一回やってみたところ、苦戦しているペアも多かったのでもう一度音声を流すことにしました。メモは一度目の内容を補うようにしてもらいます。

③全体で再話 音声を聞き終わったら、だれかに皆の前でメモを見ながら再話してもらいました。というか、ほんとはもう一度ペアで話して欲しかったけど、みんなやり始めなかったので当てることに。やっぱりメモも見れた方が楽しいと思うし、この辺の流れはまた考えてみたい。

④確認 最後、Aが持っているスクリプトをBに渡して終了。

6.試験対策「JLPT聴解・統合理解」

 この授業はJLPT対策の聴解だったので、最後に試験問題を解いてみることにしました。選んだのはメモする力が必要なJLPTの「統合理解」。さっきまでの練習を意識してメモをするように伝えます。

7.おわりに

 全体を通じてのポイントは、途中途中にクラスメイトのメモを見る時間を挟んで(ホワイトボードに書いてもらうとか隣の人のを見るとか)、こんな工夫があっていいね、という話をすること。最初は聞こえたまま全部メモしていた学生も、再表現が上手な他の学生のメモを見て、意識的に短く全体を書けるようにしようとします。単語ではなくもう少し大きな塊で書ける&聞けることに少しは繋がったかな。

 改善点はまだまだありますが、この冬メモをとりながら聴くことを定着させて、年明けからは長めのニュースや講義動画の授業につなげていけたらいいなあと思っています。全体の流れや練習方法など、もしもこの記事を参考にやってみたよ!という方がいらっしゃいましたら、また改善点など教えて頂けたらとっても嬉しいです。

 

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