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特別支援学校のトイレで教えてもらったこと

今回は、特別支援学校のトイレについて紹介します。

トイレに一番大切なことは何ですか?

私は「トイレに一番大切なことは何ですか?」という質問を受けたことがあります。
みなさんなら、なんて答えますか?
たとえば、広さを重視する人もいれば、明るさや香りにこだわる人など、トイレに求めることはひとそれぞれで異なります。

ですが、大きく括ると共通な要素が浮かび上がってきます。
それは「安心」だと思います。
そもそも、うんちをするという排泄行為は、その大部分を自律神経が担っています。私たちが意識的にできるのは、うんちがしたくなったら肛門に力を入れて漏れないようにすること、そしてトイレで腹圧をかけていきむことぐらいです。
小腸や大腸で栄養や水分を吸収したり、不要なものをこねながら大腸の中を移動させてうんちを形作っていくなんてことを、もし意識的にできたとしても、そんなことやっていたら忙しくて生活できません。(笑)
これらの複雑な工程を自動で行ってくれるのが自律神経の役割で、なかでも消化吸収や排泄が行われるのは、副交感神経が優位のときです。
副交感神経が優位になるのはどんなときかというと、それはリラックスモードのときです。焦ったり、緊張していたりすると、腸だって動きにくくなります。
つまり、トイレには、安心してリラックスできる環境が必要なのです。

特別支援学校のトイレ

では、知的障害があったり、自閉症だったりする子どもたちが通う学校のトイレには、どんな工夫が必要なのでしょうか?

先日、特別支援学校に行く機会があったので、トイレを見させてもらいながら、先生にいろいろとお話をお聞きしました。

まずは、トイレの写真2枚を見てください。

この写真には、一般的なトイレと異なるものが2つあります。
何だか分かりますか?

それは、①小さな椅子、②壁に取り付けられたボックスです。

小さな椅子の役割

では、1つずつ説明しますね。
まずは①小さな椅子について。
この椅子に座るのは先生です。しかも便器に座っている子どもと向き合うように座ります。

先生:小学校1年生でトイレトレーニングが完了していない子もいます。まず、便座に座ることに慣れるために、正面に座って一緒に10数えて、座ることの経験を重ねます。

:そうなんですね。どのくらいの期間、練習するんですか?

先生:期間は、一人ひとりかなり異なりますね。おなかの下あたりに力を入れていきむという感覚が分からない子もいます。安心してトイレを使えるようになることが大事なので、そのためにはまず、子どもとの信頼関係をつくることが大切です。

:そうですよね。

先生:トイレに慣れてきたら、椅子の位置をちょっとずつ遠ざけていき、最後はトイレ室のそとにあるベンチから見守る感じにします。

:このベンチって、そうやって使うのですねー。

壁に取り付けられたボックス

次は、②壁に取り付けられたボックスです。

子どもたちにとって、トイレの捉え方はかなり多様で、便器に水が流れるのを見るのが大好きな子もいれば、一番手前のトイレ室じゃなきゃ排泄できないとか、手洗いを手順通りにこなさないと気が済まない、といった子もいます。
そんな中、わりと多いのが「ボタン好き」という点です。
ボタンを見るととにかく押したくなっちゃうようです。

壁に取り付けられたボックスは、緊急呼び出しボタンを隠すものだったのです!

:ボタンを隠すという意味は分かりましたが、あんなおっきなボックスだとバレバレですよね!

先生:ふつうはそのように考えちゃうと思うのですが、彼らにとっては「ボックスで隠す」=「そこにボタンは無い」なんです。実際に見えていなければ、その奥のことは気にならないようです。

:とってもピュアですね。

先生:そうですね。トイレトレーニングに必要なことは、一人ひとりの個性を理解すること、子どもの意思を受けとめること、そして子どもができるようになるまで根気よく待つこと、そして、できた時にすぐ「ほめる」ことです。

トイレに一番大切なことは安心

この他にも、手洗いの鏡に1~10の数字が書かれていて、10数え終わるまで手をあらうという視覚支援もありました。

今回、特別支援学校のトイレのお話をお聞きすることで、よりよいトイレ環境をつくるためには、人を理解することがとても大切であることを再認識しました。
そして、冒頭の問い「トイレに一番大切なことは何ですか?」の答えは、やはり安心だと思います。また、トイレトレーニングは、どうしても効率的かつ簡潔に済ませたいと思いがちですが、信頼関係の構築や心身の発達という大事な時間でもあるので、焦らずに取り組むことが必要ですね。

以前に「トイレトレーニングとは人格形成だった!」という記事を書きましたので、よろしければぜひ読んでみてください。


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