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うんちとおしっこを検知するにおいセンサー

2019年6月21日、Internet of Toilet フォーラムを富士通の協力を得て開催しました。
ここでのメインスピーカーは宇井さん(株式会社aba 代表取締役)です。
お話しいただいた内容は、うんちとおしっこを検知するにおいセンサーでおむつ交換を最適化するという取り組みです。
今回は、宇井さんのお話をダイジェストでご紹介します。

まずは、なぜ、宇井さんは「うんちとおしっこを検知するにおいセンサー」の開発に取り組んだのかを説明しますね。
超高齢社会を突き進む日本では、介護の方々が担う役割はとても重要です。そんな介護の中でもとても大変なのが排泄ケアです。うんちとおしっこのお世話のことです。
病気や身体能力の低下などが原因で、私たちは自分でトイレに行くことが難しくなっていきます。以前に「うんちをするための7つのアクション」を書きました。一言でうんちをするって言っても、トイレでうんちをするには、いろいろな身体感覚や運動能力が必要になります。自分でトイレに行けるって、本当にありがたいことですね。

オムツ交換の空振りとは?

それはさておき、トイレに行けなくなった時の対応方法の1つにオムツですることがあげあられます。最近のオムツは性能が向上しているので大変ありがたい部分もありますが、一方で、オムツ交換の負担は非常に大きいことが課題になっています。
宇井さんの資料によると、仮に50人の要介護者がいる施設の場合、1日のうちオムツ交換に要する時間は「1回3分×6回×50人=15時間」ということになります。そして、約8割が精神的負担を感じているそうです。

うんちやおしっこをするタイミングというのは、かなり個人差があります。たとえば、食事であれば、12時になったら一緒に食事をしましょう、というようなことが出来ますが、〇時に一緒にうんちをしましょう!なんてことは、ありえないのです。
つまり、オムツ交換をタイミングよく実施することは、メチャクチャ難しいです。
そのため、そろそろ交換かなと思って、オムツを開いても何もなかった...ということは珍しくありません。これを宇井さんはオムツ交換の「空振り」と言っていました。データによると2~3割の割合で空振りがあるそうです。

介護未経験者を支援したい!

では、空振りしないように出来るだけ時間をあければよいかと言えば、そうではありません。タイミングが遅れてしまうと漏れてしまうこともありますし、肌あれにもつながります。
もちろん、ベテランの介護者であれば、長年の経験でうまくこなせることも多々あると思うのですが、介護職は3年以内に離職する割合が7割を超えています。しかし、介護を必要とする人は増えるので、現実は介護未経験者で対応せざるを得ない状況です。

そこで、宇井さんは「介護未経験者でも介護できるような支援システムをつくりたい!」と思い立ったのです。

具体的な技術は、「うんちとおしっこを検知するにおいセンサー」で、これをベッドシーツ型の製品として開発しました。このシーツを敷いておけば、オムツ交換のタイミングを知らせることができるので、適切なタイミングで対応ができるというものです。肌につける必要もないので、不安もないし、面倒くさくもないのがポイントです。

このセンサーは、空気清浄機等で用いられているものを応用しているとのことです。
なぜかというと、世の中に必要とされている電気製品に使われているため、大量生産によるコストダウンが図れていること、そして、すでに市場ができているため急な生産中止にもなりにくいから、このセンサーを採用したそうです。
すでにある技術を活用して、新たな価値を生み出すってすばらしいですね。

ですが、もともとこのセンサーは、うんちやおしっこを検知するためのものではないので、うんちそのものを高精度で検知する能力を備えているものではありません。
では、どうするの???、と思いますよね。

一人ひとりの排泄をパターン化する

宇井さんの取り組みの本質は、一人ひとりの排泄をパターン化することです。
うんちやおしっこから出る臭気の有無や強さを把握して、たくさんの検知データを蓄積することでその人なりの排泄リズムをつかむことを目指しています。

とはいえ、開発当時はこれらのデータを集めること、つまり、オムツでうんちやおしっこをした、という状態を繰り返し発生させることが必要になります。
みなさんなら、どうします?

病院や介護施設の協力を得られればよいのですが、実績もないし、開発中の何だかわからない装置を実験させてくれるなんてことは、ふつうありませんよね。
ですが、この程度のことでめげないのが宇井さんです。
なんと、1Kの部屋を借りて、技術開発者と2人でそこに通い、1人はオムツをはいて日々うんちとおしっこをし続ける、もう1人はそのデータを分析し続けるという日々を送りました。うんちをするために、積極的に食事をとり、定期的に運動して、出来るだけ頻度多くうんちをするように努めたそうです。それ以外にも人形を買って実験したりと試行錯誤の連続です。(汗)

すごい……凄すぎます!!!

このようなすさまじい努力の結果、ベッドに敷くだけの排泄センサー「Helppad(ヘルプパッド)」が生まれました。現在は、夜間就眠中や寝たきりの患者さん向けの製品として販売されています。

排泄を軸に生活イベントを考える

ここで宇井さんの印象的な言葉をご紹介します。
「センサーの感度を上げると、当たることもあるけど同時に誤報(空振り)も増えてしまいます。そうなるとまた誤報かも?という意識が芽生えてしまいます。これでは意味がありません。そのため、排泄を検知してから最短15分後に連絡がいくようしています。」

もちろん、排泄検知の精度はもっともっと上げてほしいですが、それをセンサー感度だけに頼らず、データによる排泄のパターン化を含めて精度を上げることに取り組んでいるのです。排泄パターンができれば、それに合わせて日々の食事やレクリエーションなどの生活イベントを考えることが出来ます。

技術を駆使してデータを取得し、介護者がそれらを活用することで、排泄に振り回されない生活を手に入れることが可能になります。
宇井さんの今後にさらに期待したいと思います。


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