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「多機能トイレ」は減っていく? バリアフリーの新たな課題

今回は、多機能トイレが抱える課題と新たな挑戦について説明します。

「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(以下、バリアフリー法)」では、特別特定建築物の床面積の合計が2000平方メートル以上(公衆便所は50平方メートル以上)の建物に関して、新築、増築、改築および用途変更する場合、車いす使用者が使えるトイレやオストメイト用設備(※注)があるかなど、バリアフリー法への適合が義務付けられています。

特別特定建築物というのは、不特定かつ多数の人が利用、または主に高齢者や障害者等が利用する建物のうち、移動などをスムーズに行えるようにすることが特に必要な建物のことです。

ん~、分かりにくいので、具体例を示しますね。

例えば下表の建築物のことです。

「あれっ、駅は?」と思いますよね。

旅客施設に関しては、別のところで整備目標が掲げられています。

どのような目標かと言うと、バリアフリー法の基本方針において、1日の乗降客数が3,000人以上の旅客施設(鉄道駅、バスターミナル、旅客船ターミナル、航空旅客ターミナル等)は、2020年度までに原則100%バリアフリー化する、という内容です。

詳しい内容は「公共交通機関の旅客施設に関する移動等円滑化整備ガイドライン(平成30年3月30日版)を参考にしてください。

というように、日本ではだれもが安心して使えるトイレを街中に整備する取り組みを行ってきました。ちょっと古いデータですが、下図は旅客施設における障害者用トイレの割合です。

建築面積にゆとりがない日本では、限られたスペースの中で多くのトイレニーズに応えようと努力した結果、オールインワンの多機能トイレが出来上がったのです。こういうのって日本の得意分野ですよね。


多機能トイレの大きな問題

ですが、最近になってオールインワンの多機能トイレに大きな課題が浮かび上がってきました。

それは「利用集中」です。

そもそも多機能トイレは、車いす使用者が使えることが必要なので、他の一般トイレの個室に比べて広い面積が必要となり、設置数が少ないのが現状です。

その多機能トイレに、車いす使用者、肢体不自由者、高齢者、オストメイト、視覚障害者、知的・精神・発達障害者、子ども連れ(ベビーカー含む)、異性の介助が必要な人、トランスジェンダーなど、様々な方の利用が集中してしまったのです。

このように利用が集中した結果、「多機能トイレが空いてなくて使えない!」という事態を招いてしまいました。

一般財団法人国土技術研究センターのアンケート調査によると、車いす使用者で「待たされたことがよくある」と回答したのは52.4%で、「たまにある」まで含めると94.3%になります。

同様に、オストメイトで「待たされたことがよくある」と「たまにある」は57.4%、子ども連れは 74.3%でした。

車いす使用者や大型のベッドを使用する人等は、多くの場合、他の一般トイレを使うことができません。

つまり、使用できるのは多機能トイレのみで、他の選択肢がないのです。しかも、近隣のトイレに移動するのも容易ではありません。

そこで、このような状況を解決するため、国土交通省は「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」の改正を行いました。

ポイントは、「多機能トイレへの利用者の集中を避けるため、個別機能の分散配置を促進」です。分かりやすく言うと、多機能トイレに集中していた機能を、他のトイレの個室に分散配置しようというものです。

具体的には、例えば男女それぞれのトイレに「オストメイト用設備を有するトイレブースを設ける」「乳幼児連れに配慮した設備を有するトイレブースを設ける」などです。

そうすることで、利用集中を解消しようというものです。


トイレの機能分散に必要なことは?

個別機能の分散配置を推進していくためには取り組まなければならないことがあります。

まず、この場所にはこのような機能をもつトイレがある、という情報をユーザーに届ける必要があります。

トイレに行ってみたら「自分が使えるトイレじゃなかった!」なんてことになったら、大惨事になりますからね。トイレニーズとトイレ機能のマッチングが必要ということです。

次に、行政が設置するトイレだけで、すべてのニーズに応えるのは困難ですので、行政と民間が協力して、面的に対応していくことが必要です。

つまり、公衆トイレだけでなく、コンビニやカフェ、レストランのトイレなど、みんなで力を合わせてトイレニーズを満たすということです。

最後に、トイレ整備に一生懸命に取り組む街を評価する仕組みが必要です。だれもが安心して使用できるトイレ環境を整えることは、多様性社会に不可欠な要素です。トイレ整備を推進して魅力的な街を増やしていくためにも、そのインセンティブとなるような仕掛けが必要だと思います。

日本のトイレは、これまで試行錯誤を重ねながら多機能トイレの完成度を高めてきました。この知見を踏まえて、機能を分散しながら全体で最適化するという次の段階に進むことが求められているのです。

(※注)オストメイトとは、大腸ガンによる消化管や、尿路の疾患などにより、腹壁に造設されたストーマ(人工肛門・人工膀胱)から、排泄を行う排泄機能障害を持つ方のことで、多機能トイレ内に設置されている「オストメイト用汚物流し」などを使用します。


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