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しげやん

淡路島の伯母の家「みやこ旅館」での合宿中の楽しみのひとつに、あてもんをしに駄菓子屋に通うことがあげられる。

夏は、各自おこづかいを親戚のおっちゃんやおばちゃん、おばあちゃんからたんまり貰えたので、みな、気が大きくなっていたのだった。

駄菓子屋に行くと、どうしても当てたいあてもんの数々が並んでいた。

一等はガンダムの人形とか、りかちゃん人形のドレスとかでそれはもう子供にとってはむちゃくちゃ欲しいものが店の棚の一番奥の一番高い場所に飾られていたのだった。

1回100円。良く考えたら高い。
それでも札束を何枚も持っているという心の余裕が、

「ふん、100円か!まだまだいけるー!」

そんな錯覚を起こさせていたのだろう。しかし、皆が一人1,000円つぎ込んでもあたりは出ないのである。いかくんとか、フーセンガムとか10円くらいのもんしか当たらない。

いとこ7人で7,000円ばかり使って、”あてもん”をしたが10円のカスがそれぞれ10個ずつしかもらえない。

確率で考えると70回やって一回も当りが出ない駄菓子屋のくじなどあるわけがない。

そんな中でも一番にこの”あてもん”が好きだった自分は、次は当たる!絶対当たる!と躍起になってやり続けようとしたのであった。

一人1,000円までしか持って行ったらあかん!と言われていたので、とりあえず一度みやこ旅館に戻り、もっかい行くねん!と言ったところ、みやこおばちゃんが猛烈に怒り出したのである。

「えーから!しげやんとこやろ!!店に文句ゆーたる!!」

おばちゃんが怒るので皆、ビビってしまったが、一緒について駄菓子屋のしげやんの店に再び行くことになった。

ガラガラガラ!と引き戸を引いて店に入ると、店主のしげやんが登場した。

「あぁ、みやちゃん、どないしたん?」

こういうしげやんに向かって、おばちゃんは猛烈にキレだしたのだ。

「ちょっとしげやん!あんたウチの子らなんぼあてもんしたとおもとるんや!一人1000円もつこて7人ともカスしか当たらんあてもんなんか聞いたことないわ!あんた上(かみ)の子らやおもて、あたりを抜いとるんやろ!!」

いやいや、みやこおばちゃん恐いわぁ・・・ほんま怖いわぁ。いつも怖いけど今日は特別怖いわぁ。

そんなことを思いながら、怒られ続けるしげやんをまともに見ることができずに、ビーチサンダルの先ばっかり見て下を向いていた。

ところが。
しげやんは気まずそうにゴソゴソくじの箱を触り、こう言ったのだ。

「もういっぺんずつお金いらんさーかい引いておくれ。」

7人が順番に引いていくと、2等、3等、3等、3等、2等、3等、2等!

なんと全員が3等以上の当りである。

これが田舎のよそもんに対してのやり方なんやなと子ども心に思ったのである。てか、いかさま、詐欺やんか!

2等は箱が日に焼けて褪せてしまったプラモデル、3等は白地に赤の丸が二つついた正月の売れ残りの凧であった。

ここまで追い詰められても1等を出さない”しげやん”なのであった。


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