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老いる。

昨日は伯母の三回忌であった。

一回忌が昨年であったから、一年ぶりの親戚との再会であった。

和やかに法要の日を迎えた、というわけではなく、数ヶ月前からゴタゴタしていて、故人を偲び静かに冥福を祈るという精神で執り行われるはずのものが、何が何やらな状況になってしまった。

伯母は私の母の姉である。
母の兄弟は4人で、2人の姉は他界、残すは兄である長男と末っ子の母になっている。

伯父である長男一家は、生前この伯母たちにかなりの世話になっていたのだ。

伯父が破天荒な飲んだくれのダメ男なのが原因で、従兄弟たちも奥さんも苦労していたのはよくわかっている。

伯父には息子である長男、長女、次女がいて、私にとっては従兄弟、母にとっては甥っ子、姪っ子にあたる彼ら。

亡くなった伯母2人は生涯独身で、子どももいない。ゆえに、本家の墓に入っている。

姓も変わらず、本家のまま生涯を終えたのであるから、ご先祖様が皆やってきたことである仏まつりは、伯父が引き受ける、伯父亡き後は、息子である従兄弟が引き継ぐという話し合いのもと、金銭的に厳しい伯父一家の代わりに、末っ子夫婦である、私の母と父が葬儀や法事の費用を出し、収まるところに収まるよう心を砕き、納骨までを済ませ、ようやく伯母の供養は一段落したというわけであったのだ。

ところがである。

没後2年目を迎える三回忌法要を前に、私の従兄弟である伯父の長女が、

『法要はこれを最後にしたい。今後はやらない。』

そんなことを言い出し、伯父一家はまたもや揉めに揉め、それを母や私にぶつけてきたのだ。

母は何度もこの姪っ子である長女に対して、言っていたのだ。

『お布施は、皆が少しずつ出しあえば、出来る仕組みになっているから全面的に本家が費用を出さなくても大丈夫。位牌がある限りは法要だけはしていかないとね。』

しかし。

伯父と従兄弟である長女は、
『法要はこれで最後にしたい』と、菩提寺でも墓前でも口にし続けた。

故人を偲ぶ法要の直後に、ご先祖様が眠る墓前でする会話ではない。

お墓を綺麗に掃除しながら、無性に悲しくなり、思わずひとこと言った。

『今法要を終えたばかりでそんなこと言うのってあまりに罰当たりじゃないの…。お墓の前なんよ。』

伯父と従兄弟の長女はようやく口をつぐんだ。

従兄弟の長女にしてみれば、自分は嫁いだ身であり、弟である長男と父親がやるべきこと。嫁いだ自分と妹は関係ないではないかということを誰もに納得させようと躍起になっているようであった。

それを言ってしまえば、嫁いだ母も、さらにその母の子である私や妹は、果てしなく遠い関係になってしまうのだ。

そんな私たちの夫、スナフキンや妹の旦那さんにしてみれば伯母はまったくの他人であるが、彼らは、伯母には大切にしてもらったと、入院中から葬儀、法要まで伯母のためによく動いてくれた。

金は出さぬが口は出すとは、よく聞く話であるが、血縁ってなんだろうと考えさせられた。

そんなやり場のない哀しみを抱えながらの帰り道、道の駅に立ち寄った。

1人のおばあちゃんがおぼつかない足取りで私の横を歩いている。

トイレを探していたようで、目の前にあるトイレの案内板を見つけ、自分の足で目的地に行こうとしているようだった。

もし、足元を崩して転びそうになったら支えてあげようとゆっくり斜め後ろを歩いていた私。

もう少しでトイレの入り口に着くという時になって、後ろからすごい大声で走ってきた娘さんと思われる、私の母くらいの女性がいきなりおばあちゃんを大声で叱りつけた。

『おばあちゃん!なんで勝手に行くの‼︎』

『私かてトイレくらい行けます。』

『言っておくけどね!勝手に行かれて探す方が迷惑やの‼︎みんな迷惑するの‼︎』

鬼みたいな顔でおばあちゃんを怒鳴りつける娘さんを思わずチラッと見ると、ものすごくバツの悪そうな顔をして私から視線を逸らした。

身内であれ他人であれ、気持ちに余裕がないと人は本来の自分を見失うものなのか。

一回り小さくなったような、我が母の背中をなんとも言えない気持ちで見つめ直した一日になった。

たいした親孝行は出来ないが、この先、両親がさらに年老いていったとしても、本人が自分でやれると思っていることはなるべく自由にさせてあげる気持ちだけは忘れないようにしたい。

生きている間も、死んだ後も。

人は自分以外の誰かの力を借りなければならない時がある。

一時的な自分の負の感情だけで、大切にしてくれた人を踏みつけることは、自らの慰めにはけしてならないはずなのだ。

大寺さんが唱えてくださった有難いお経『回向文』が、私たち生きる者に対しての深い慰めとなり、明日からの力になってくれると信じたい。

『願わくばこの功徳をもって遍く一切に及ぼし、我らと衆生と皆ともに仏道を成ぜんことを』

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