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クモマサ。

新年早々から何やそれ!なタイトルであるが、わが家にやって来た小さな蜘蛛のお話を書こうと思う。

その小さな蜘蛛が現れたのは、昨年の11月頃。

キッチンで料理を作っていると冷蔵庫の壁面に黒い物を発見。ジッと見つめてみると、チョロチョロと動き始めたからギョッとした。

「蜘蛛やん!シッシッ‼︎」

手で追い払う仕草をしてみても、悠長にその場にとどまったまま動きを止めてしまったから、そのうちどっか移動するだろうと見逃した。

翌日、仕事に行こうと玄関の鍵を探していると、玄関の白い壁に昨日キッチンにいたあの小さな蜘蛛がいるではないか!

「え!あんたまだ居てたん⁈あぁ、もう時間がない!しゃーないなぁ。蜘蛛さん、いってきます‼︎」

なぜかわからないが、その小さな蜘蛛に挨拶までして出掛けたのだから自分でも笑いが込み上げてきた。

「なぁ、最近うちに蜘蛛が住み着いたみたいなんよ。」

夕飯時にそんなふうに長女ドカ弁と次女ちゃっかりに言ってみると。

「あ!ママ‼︎ここにいるよ‼︎」

食事しているダイニングテーブルの横の壁を娘たちが見上げている。

やはりまたあの蜘蛛なのだ。

「ねぇ、ママ!この蜘蛛っておじいちゃんじゃないの⁉︎」

ちょうど一年ちょっと前に亡くなった父のことが大好きだった次女ちゃっかりがそんなことを言い出し、父の名前を文字って「クモマサ!」などと呼び始めたから何が何やら。

「えー!生まれ変わるのが蜘蛛ってどうなの?
輪廻転生とか詳しくないから知らんけど。」

娘としては、複雑な気持ちになるじゃないか。

しかしこの「クモマサ」はどんどん行動的になり、父が好きだったおかずを調理していると火を怖れる様子もなく、コンロの近くに登場してみたり、わが家で食事をする時に必ず父が座っていた椅子の下にジッと身を置いたりする。

昨日なんていつも父がちゃっかりの足をマッサージしてやるために並んで座ってお喋りしていたリビングのソファーの下に登場した。

「いやいや、あんたいくらなんでも床は危険じゃないか?壁だったら踏み潰されたり、掃除機でうっかり吸い込まれたりすることないけどさぁ。」

いつのまにかわが家の家族全員が、「クモマサ」の身の安全にまで気を配りはじめ、床を注意しながら歩くようになっているのだからやれやれである。

父は今あちらの世界のどの辺りにいるんだろう。
まだこちらの世界に未練があるのか、それとも天国に無事到着し、蜘蛛の姿を借り、糸をつたいながらスルスルと降りてきて、私たちに会いに来て楽しんでいるのか。

謎は深まるばかりであるが、孫たちは喜びながら「クモマサー‼︎」と呼びかけては爆笑しているのだから、よしとするか。

それにしても。

「キャー‼︎虫‼︎ムリムリー‼︎」

普段なら悲鳴を上げて全力で殺生を要求する姉妹に受け入れられている「クモマサ」はわが家の福の神ならぬ、福の蜘蛛なのだろうか?

#エッセイ







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