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営業用と悪魔

近所の某チェーン経営のスーパーで日々の買い物をしている。

昨年オープンしたばかりのお店である。

近所には古びたスーパーがあった。年輩のおばちゃんたちが楽しくお客さんと軽口をたたけるような、あったかい雰囲気が漂うお店だった。

しかし、この新しいスーパーが近くに出店したことで、いよいよ経営が苦しくなったようで昨年末に閉店してしまったものだから、この新しいスーパーしかご近所でお安いお店がなくなってしまったのである。

この新しいスーパーにはスーパーレジ店員がいる。

おたふくのような顔立ちに制服のベレー帽をかぶり、キンキンした高い声と満面の笑みできびきびとレジを高速で済ませていく。経営者としては絶対離したくない人材なのだろうと思わせる神業ぶりで、彼女のレジだけはいくら行列が長くても瞬時に渋滞がみるみる解消していくのがはっきりわかる。

自分も結構イラチなほうだし、さっさとレジを済ませてくれるのはありがたい。そう思い、いつも彼女のレジに並んでいたのだ。

ところが先日、このスーパーレジ店員の彼女の悪魔の姿をまともに見てしまったのである。

彼女が立つレジに行こうとすると、鎖がかかっている。
仕方ないので隣のレジに並んで会計の順番を待っていたのだ。

すると、隣のレジから聞いたこともないようなスーパーレジ店員の彼女の声が聞こえてきたのだ。

「これでお客様の返金レシートの出し方わかりましたか!?え?だからぁ!一枚はこちらで保存、一枚はお客様にお返ししてくださいってこと!」

こっそり見てみると、隣のレジには自分の母親とそう変りない年齢の女性が新人さんや学生さんが着ている色と同じ色の制服を着て、レジのやり方を指導してもらっているようであった。

メモ帳と鉛筆を持ち、早口で言われることを懸命に聴き取り、メモしているのだった。自慢ではないが、自分もメモを取ることならわりと自信がある。

でも、そのスーパーレジ店員の威嚇したような、バカにしたような早口の説明ではメモは取れそうにない。速記の資格者しか無理なんじゃないのっていうスピードでまくし立てているのだ。

「すみません、もう一度お願いします・・・。」

消え入りそうな、泣き出しそうな表情でその年輩の新人さんは、もう一度説明をきちんとメモしようと、スーパーレジ店員にお願いしたのだ。

するとスーパーレジ店員の顔はみるみる般若のようになり、

「だからー!こうやってここ押してここやるとレシート!一枚はこっちが保管、一枚はお客様に返す!わかりますかーーーー!!!!」

なんだか無性に腹が立ってきたのだ。

この態度はなんじゃこらー!店の表側で年下の人間が母親のような年齢の人間をつかまえて、ぎゃんぎゃんと指導という名目で、いじめをやってるとしか思えんやないの!

新人教育するなら閉店後や開店前にやるか、偉そうに新人をこき下ろしたいならバックヤードでやれよと思ったのである。

するとスーパーレジ店員は、アホになんぼゆーても無駄!仕事できない人ってホントに嫌になっちゃうわ!この件はこれで終了いたします!!という態度で指導を強制終了した。

とりあえず一旦説明は終わります。わからないことは追々覚えていきましょう!混んできたのでレジに戻りますね!

こう言って新人指導の時間を終わりにしても良かったじゃないか。

ところがスーパーレジ店員は、その縦にも横にもデカい体で小さな年輩新人のおばちゃんの体にドンとぶつかりながら、どけ!と言わんばかりに、突き飛ばし、イライラがマックスの眉間のしわを深く刻んだ般若顔のまま、掛けてあったレジ中止を知らせる鎖をガタン!ドン!と乱暴に取り外し、声高に叫んだのだ。

「大変長らくお待たせして申し訳ございませんでした!!こちらのレジにどうぞー!!!」

おー!いつもの満面のおたふくのような顔立ちに戻ってる!声も3オクターブくらい高くなっている!

「128円が一点~!おビール350mlでお間違いございませんか~?はぁい!ありがとうございまーす!」

神業プレーを華麗に披露し、満足そうな表情のスーパーレジ店員。

営業用のスマイルは完璧でも、自分はあの悪魔のような般若顔が彼女の本性だと気づいて以来、いくらすばらしい芸を見せてくれようとも二度と彼女のレジには並ばなくなった。

それともうひとつ付け加えておく。

レジが終了して、買い物を袋に詰めようと台にかごを載せたところ、大量のチラシが積まれていた。

求む!レジ店員募集中!とあり、時給は870円、休日は100円アップの970円。

都会の方では普通の時給かもしれないが、自分の住む街ではスーパーのレジの時給なら850円くらいが妥当である。

970円のレジのパートなんて聞いたことがない。

破格の時給は、人が居つかないことの証であろう。

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