見出し画像

Nouns DAOのフォークとは? 3.フォークから考えるDAOの課題と解決策

Unyte Intern 田伏です。

最終回となる今回は、Nouns DAOのフォークから考えるDAO組織の問題点をあげ、それらに対する解決策を提案していきたいと思います。

第1回、第2回と追っていただいている皆さん、ありがとうございます!この記事からご覧いただいている方は、Nouns DAOとはどのようなものか、そしてフォークの詳細は第1回第2回で説明しているので、チェックしていただけると嬉しいです!

DAO史に残るであろうフォークから考える、DAO組織の課題と対策について見ていきます。



フォークとは、DAOの分裂で、メンバーが脱退して新しいDAOを形成することでした。

Nouns DAOのフォークの原因として
1. 内部での意見の相違 (ミーム派 VS 慎重派 )
2. 外部からの投機家の参入 
が挙げられます。(前回のnote)
しかしこれらに関して考察をする前に、そもそもなぜフォーク対策をしていなかったのか。そこにはNouns DAOがどのような考え方から生まれたプロジェクトかという背景が深く関係しています。

なぜフォーク対策をしていなかったのか

Nouns DAOの設立背景

 Nouns DAOは、Nounderの1人である@4156が、CryptoPunksに対するある種の改善案としてアイデアをX(旧Twitter)に書いたことがきっかけで始まったプロジェクトです。

CryptoPunksとは、2017年にLarva Labs社が手がけた世界最古のNFTアートと言われていて、Noun同様フルオンチェーンのジェネラティブNFTを販売ます。2017年6月のある火曜日、たまたまオンラインでアクセスできた限られたユーザーに対して、10000個のピクセルアートが無料配布されました。これ以上の追加発行がないこともあり、最高で8000ETHで落札(当時の価格で27億円!)でされたものも含めて、平均して約50ETHで売買されています。この価格の高騰は、市場が盛り上がっていた時期に有名人が購入したことが挙げられます。具体的には、ラッパーのスヌープドッグ、DJのスティーブアオキ、テニス選手のセリーナウィリアムズなどです。このようにして価格が高騰していったCryptoPunksは、主にコレクションとして扱われ、レアリティに焦点が当てられることが多かったと言えます[参照]。
これに対して@4156は、
・コレクションとしてだけではなくNFTに機能を持たせる(オンチェーン活動にNFTを絡ませる)
(1次流通の)落札機会を公平に提供する
・Nounのキャラクターをパブリックドメインにする
といった考えから、Nouns DAOの元となるアイデアを考えました。以下にそのアイデアとCryptoPunksの対比をまとめています。

このような背景で設計されたNouns DAOは、市場が盛り上がっていたこともあり、2021年8月に最初のNoun(#1)が約613ETH(当時のレートで約2億1000万円!)で落札され、その後も70~100ETHで取引されていました。この段階では「オークション価格が(Noun落札)平均価格を大きく下回ることはない
という暗黙の了解のようなものが、メンバーや落札者の中で共有されていました[参照]。しかし、2022年11月のFTX破綻をきっかけに暗号通貨自体の価格が大きく冷え込み、NFTの取引もその影響を大きく受けると、話が変わっていきます。暗黙の了解が崩れ始め、ついには最大で30%も平均価格を下回る価格でNounが落札されるようになりました。そして第2回のnoteの通り、2023年8月にrage quitを含むフォークの提案#356が可決され、約56%のメンバーがフォークに参加しました。(第2回のnoteを参照)

Noundersの状況

ここで、冒頭の「なぜフォーク対策をしていなかったのか」という疑問に立ち返ります。これにあたり、実はフォーク自体は#247(1度目)と#248(2度目)で提案されていて(どちらも2023年3月)、#247はNoundersによる強制拒否、#248は投票の末に反対多数で否決されているということを考慮する必要があります。

ここからは推測でしかありませんが、Noundersの状況として以下の2つが考えられます。
仮説1.
ローンチ当初は市場が盛り上がっていたこともあり、オークション価格が(Noun落札)平均価格を大きく割ることは当初現実的ではなく、レイジクイット対策をしていなかった。後手に回ったため、強制拒否権を2度も使用した。

仮説2.
設計段階からフォークやレイジクイットは想定済みで、「オンチェーン・アバターコミュニティの形成を改善するための実験的な試み」とプロジェクトを定義している通り、コミュニティに任せようという方針だった。しかし価格の下がり方までは想定外で、トレジャリー目当てのフォークが何度でもできるという予想していない状況になってしまった。そのため、今後の方向性を話し合うために強制拒否権を使用した。
素晴らしいアイデアと実行力を兼ね備えたNoundersがレイジクイット自体を想定していなかったとは考えにくいため、仮説2が妥当ではないでしょうか

結果論ではありますが、Noundersは資金の流出を防ぐことよりも

1. あくまで非営利団体であること
2. CryptoPunks2.0を実現するため、落札機会は公平に提供する(最低価格を設定せず、毎日オークションを続ける)
3. トレジャリーの使い道はコミュニティに委ねるという方針

という当初の思想に重点をおいて運営していくと決め、#354には使用した強制拒否権を#356には使用することなく、フォークが実行されることになりました。特に2.の部分は、Noundersの1人である@4156インタビューで強調していて、「長期間にわたって参加機会を提供することは、Nouns DAOが信頼できる中立性を持ち、真に公平であることにつながるし、組織の永続的な収入になりうる」
と言及しています。Nouns DAOのミッションである「One Noun, every day, forever」にも繋がってきますね。

ここまで、Nouns DAOができた背景と、そこから考える(レイジクイットを含んだ)フォークを容認した理由について考察しました。
予想外の事態で大問題のように見えたフォークですが、実は何回も提案されていて新しい内容ではなく、いつか起こるであろうことがついに起こったというようなイメージです。また設立当初の背景やNouns DAOのスタンスも理解することで、なぜ対策をとらなかったのかについて、自分なりに整理し推測してみました。(いつか直接インタビューしたいです!)


ここからは、「フォーク」から考えるDAO組織の問題と解決策について見ていきます。

フォークから考えるDAO組織の問題

 今回は、フォークが起こる原因である「方向性の違い」を、内部 or 外部で発生するものに大きく分けて考えていきます。

1. 不満に起因するexit

 主に積極的にコミットしていたメンバーが、投票で自分の意見が反映されずに不満がたまるという観点から、可決の基準を考慮する必要があります。Nouns DAOの例では、10%(最大で15%)の賛成票という提案の可決の基準が少し低いと考えられます。というのも実際に組織票を集めることで提案が通ってしまったり(実際に何人かが結託してというケースがあった[参照])、大口保有者が数人集まれば可決のしきい値を超える状態になっていたり(第2回)、積極的に活動していた個人の意見が反映されにくい状態にあったと考えられます。
以上から、可決のしきい値の変更 / 票の重み付け などが考えられます。

2. 投機家の参入

 アービトラージが得られる機会があると参入してきて、DAOのガバナンスまで投機家の影響力を受け、DAO本来の活動がやりにくくなる可能性があります。一方で、NFTやトークンなどが高値で取引されるのは投資家の存在が大きく寄与しているということも無視できない事実です。またそのような投資家/投機家がいることで健全なオークションが成り立っているという側面もあるため、一概に悪とは言えません。
以上から、アービトラージを減少させる設計の導入が考えられます。

1&2. 運営の影響力の残し方

 初期段階でDAOが崩壊しないように、初期の段階はFounderがリーダーシップをとり、ある程度の年月でFounderはDAOを去る or 影響力を無くすという考えが現在主流であり、Nouns DAOもその通りです。しかし今回のようにFounderが10%の投票権を有するだけでなく、強制拒否権を行使したとなると、自律分散型組織と言って良いのか。DAOの中での運営の影響力をどう設計するかは難しいところです。

考えられる対策や解決策

上記で見た課題に対してどのような解決策が挙げられるでしょうか。
問題を以下の2つに絞り、それぞれの対策を考えます。

・投票権に関係するもの … 貢献の可視化、票の制限
・投票権に関係しないもの … アービトラージの消化、一時停止機能の追加

1. 投票権に関係するもの

(1) 貢献の可視化

 DAO内での提案や投票など、どの程度アクティブに活動しているかを可視化し、投票に重みづけするという方法が考えられます。真面目に提案や投票に取り組んでいるが意見が反映されにくいと感じているメンバーに対するモチベーションになります。PocketDAOでは、ガバナンストークンの発行にProof of Participationを採用しており[参照]、ゲームのクリアに応じてもらえるトロフィーをもとに票が配布される形になっています。投票率が50%を超えている珍しいDAOとして注目されている一方、これはトロフィー獲得のため時間をかけてコミットする必要があるというProof of Participationのおかげではなく、単に投票権を持つメンバーが55人しかいないという母数の少なさに起因するものだという見方もあります。

(2) 票の制限

 生体認証を導入したintmaxのようなウォレットと、Quadric Votingのような仕組みを合わせて、同一人物からの大量の投票に対して制限をかける方法が考えられます。
 Quadric Votingでは、投票者は複数票配られ、複数の提案に対して投票する際、同じ提案にn票投じる際にn^2の票を消化するというものです(同じ提案に2票入れると持分が4票消化)。これを応用して、同じ生体情報を持つウォレットからの投票数を制限できないでしょうか。2乗のままだと複数購入するインセンティブがなくなるため、この値の設計は考え所ですが、資金力のあるメンバーからの(運営方針に対する)影響を抑えることにつながる可能性があります。


2. 投票権に関係しないもの

(1) アービトラージを無くす方向性 (Nouns DAOの場合)

 そもそもの原因を辿ると、トレジャリーの緑の部分が狙われることにあります。これを(1)バーンする方法と、(2)そもそも生まれないようにするという2つのアプローチが考えられます。

図1

1. “The burn” by Wilson[参照]

この提案には、ベースとなる考え方があります。それは

(トレジャリー/Noun総発行枚数)<(オークション価格)の場合はブランドが
保たれているという価値基準
・トレジャリーは貯めておくものではなく使ってなんぼ

という2つです。過去N日のオークション平均価格から算出したトレジャリーの時価総額と実際のトレジャリーを比較し、差額(図1の(1))をバーンするという方法で、トレジャリーを積極的に使用するモチベーションが生まれ、提案もより活発になることが想定されます。一方で、よく吟味することなくトレジャリーを使用することに繋がりかねないという見方もでき、Nounderからも賛成と心配の両方の声がありました。
実際この提案は、かなりの反対票を押し切り可決されました!

この投票結果の66もの反対票のうち、実際は1/3にあたる22票が同一人物によるものだと考えられます。大口ホルダーはフォークに参加してレイジクイットしているものだと思っていましたが、残ったオリジナルDAOにもまだこのような大口保有者が残っていることは、懸念要素でもあります。

2. 最低入札価格の設定

過去N日のオークション平均価格が帳簿価格になれば、そもそも緑の部分が生まれないという考え(図1の(2))のもと、オークションの最低価格を設定するというものです。アービトラージの原因は取り除ける一方で、価格が上がることで参入障壁も高くなることや、健全なオークションが行えるかなどの懸念点があります。

(2) 一時停止機能の追加

 DAOに深刻な影響を与える想定外のことが起こった場合に、DAO全体の方向性を考えたり対応策を考える時間を設けるため、一時停止機能の追加が考えられます。しかしそもそもこれはFounderの影響力を認めているうえに、一時停止が明けた途端に価格に大幅な変動があったりオークションが成り立たなくなる可能性もあり、奥の手として考慮する必要があります。


(Nouns DAOの続報から追加)
Nounの売上以外の収入源を作る

 実は、#356の提案ではフォークを実行するためのしきい値が20%(の賛成票)でしたが、#384の提案により10%でフォークが可能になりました。これにより、更なるトレジャリーの流出が考えられます。これは、中島さんがtwitter spaceでお話しされていた通り、「フォーク後に元のNouns DAOに残ったメンバーの中に、どれくらい複数票持っている人がいるかわからない」という部分が顕在化している問題です。というのも、メンバーが減った元のDAOでは可決のしきい値が小さくなるため、複数票持っている人がいれば少人数で、提案から可決まで出来レースのような形で実現できてしまいます。

実際今回賛成に投票しているメンバーの内訳を見ると、
・20票 × 1 つのアドレス (#356では15票入れていた)
・16票 × 1 つのアドレス (#356では16票入れていた)
・8票 × 1 つのアドレス
・7票 × 1 つのアドレス
と、51票(しきい値は53票)が大口保有者によるものです。
注目すべきは、#356で複数票入れていたアドレスからの投票数です。
このように、元のDAOに残ったメンバーの票の保有率がかなり偏っていることは、トレジャリーがなくなるまでフォーク&レイジクイットを繰り返される可能性を示唆しています。
トレジャリーがNounの売上のみで構成されていることのリスクを考え、Nouns DAO以外のDAOでも複数の収入源を用意することが求められていると感じました。

まとめ

 Nouns DAOのフォークとはそもそもなぜ起こってしまったのか、そしてフォークから考えたDAO組織の問題を整理し、解決策を考察してきました。ここで紹介したものは、あくまで起こったフォークから考えたもので、まだまだ熟考する必要があると思っています。是非これを機会に様々なDAOの事例からガバナンスを考察してみてください!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!3回にわたってNouns DAOの詳細を紹介しました。不正確な部分のご指摘やご質問があればUnyte Intern 田伏にご連絡いただけると嬉しいです!今後も様々なDAOについて考察していくので、是非チェックしてください!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?