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聴くのが怖い

音楽はタイムカプセルだ。

わたしはそのとき気に入った曲を、繰り返し聴き続けるクセがある。ヒット曲とは限らない。たとえば、映画「グレイテスト・ショーマン」を観たあとには映画のサントラを、「ボヘミアン・ラプソディ」を観たあとには、ひたすらQueenの曲を聴き続けていた。(後者は今もなお。今もSomebody To Loveを聴いている)

聴いている曲は、そのときの感情や空気のにおいや見ていた情景とともに記憶される。そうして、いつしかリピートされる曲が別のものに移り変わったあと、何かの折に再び耳にしたときにまざまざと甦る。

過去を振り返ること自体がセンチメンタルな気持ちにさせるうえ、思い出されるものはたいていが感情が揺れ動いていたときのことだ。聴くたび、心がぐらつく。足元が揺らいで、正体の見えない不安感が押し寄せてきてしまう。

曲の雰囲気による影響の違いはあまりない。アップテンポの明るい曲なのに、しんみりしてしまったり。そうしてから、「ああ、あの頃よく聴いていたからだ」と思い出すのだ。

好きな曲が増えるたび、再び聴くのが怖くなる曲が増えていく。心を曲に寄せてしまうと、その曲はたちまちタイムカプセルになってしまうから。センチメンタルに浸るのは悪いものではないのだけれど、わたしは過剰に引きずられてしまうのが厄介なのだ。

「あの頃にしつこいほど聴いていた好きな曲」を、だからわたしはなかなか聴けない。今もなお好きだからこそ、聴きたいのに聴けない。タイムカプセルはパンドラの箱。甦る感情が怖いのだ。

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