私が鍼を打たなくなった理由・・・

私は「仕事は何をしているの?」と聞かれるといつも、「I am an acupuncturist!(私は鍼灸師だ)」と答えます。本当は鍼灸・あん摩マッサージ指圧師(+ピラティスのインストラクター)ですが、「I am an acupuncturist and shiatsu practitioner」と答えると長ったらしいのと、「acupuncturist」と答えたほうが、なんか偉いような気がするので(笑)、いつもそう答えています。

そのacupuncturistである私が、ここ数年、特にここ2年くらい”ほとんど”鍼を使っていません。”ほとんど”と書いたのは特殊なケースを除いて、です。それに気付いたのは、今回(2015年度)、確定申告をした時、鍼を購入した領収書がなかったとわかったからです。ではなぜ鍼を使わなくなったか?

1,一番大きな理由

それはズバリ、私自身が鍼治療を受けて良くなった(痛みが軽くなった、良くなった、治った)ためしが一度もないこと。いわゆる「東洋医学系」と呼ばれる浅く刺す方法や、「中医系」と呼ばれる太い鍼を深く刺す方法、また「西洋医学系」と呼ばれるトリガーポイントや神経根を狙って太い鍼を深く刺す方法、それこそいろいろ試しましたが、一度も私自身が満足したことがありません。もっというと、鍼治療の後の刺された部位の”不快感”をいつも自分でマッサージをして和らげていました。で、結局他の部位まで自分でマッサージをするはめになったことがよくありました!(笑)

2、時間配分が難しい

私は治療する時、できるだけその一回の治療で楽になってもらうように努力しています。鍼治療だと、できれば鍼を入れてから最低10分、できれば20分以上そのままにしておきたい(置鍼)のですが、例えば、鍼を刺して、置鍼して、20分後鍼を抜く。そして患者さんに楽になったかどうかを聞いて、楽になっていなかったら・・・・。でももう治療時間終了・・・。じゃあ、また来てください、というのか・・・?あるいは、「治療効果は翌日から48時間後くらいに現れます!」と根拠のないことを垂れ流すのか・・・?

手技だと体の変化を随時感じ取れるし、患者さんの感覚も言葉でいつでも聞けるというメリットがあります。

3,内出血と刺鍼時の痛み

これは治療過誤とか、鍼の副作用というわけではないのですが、内出血はどれだけ上手い鍼灸師でも時々作ってしまいます。患者さんの中には、治療前にそのことを同意はしていたものの、やはり嬉しいものでもないのです。そしてもっと気をつけなければならないのは、鍼治療中とその後に起こる痛み。これは大抵(自分の経験上)鍼が神経壁や血管壁を貫いた時におこる「チクッと」した痛みで、その場合は大抵すぐに鍼を抜けば、その後の不快感もほとんどないのですが、問題なのは、その「チクッと」した時に同時に鍼の響きが起こった場合。これは十分にありえることで、なぜならトリガーポイントがある場所には、血管壁や神経壁の”肥厚”も多々あり、鍼がそれらを貫いた時に、響きと同時にチクッとした感覚がでます。患者さんのなかには、鍼の響きが好きな人がいて、そういう人達は、そのチクッとした感じも響きの一つとして”我慢”(受け入れる)、ことがよくあります。しかしこのチクッとした感覚が大きければ、その後痛みが倍増することがあり(動けなくなるほどの痛みがでたりもする)、鍼をよく打っていた数年前までは、年に1〜2回はありました。もしそうなったらそうなったで、ケアは簡単ですが、やはり患者さんにとっては嬉しいものではありません。

4,やっぱりほとんどの患者さんは鍼が怖い

私の感覚と経験上、7対3の割合で、鍼が怖いという人がいます。(本当は9対1と書きたいところですが、控えめに書いています。)ではなぜ鍼治療を受ける患者さんが、ある程度の割合でいるのか?それは「思ったほど痛くない」ということ、「鍼の響きが心地良い」と、そして「症状が楽になる」ということだと思います。では、鍼をしなくても、マッサージの気持ちよさ+症状が楽になる治療ができれば、どうでしょうか?

私が独立した当時は、よくイギリス人の患者さんから、「あなたは鍼とマッサージがとても上手いと聞いたわ。」と言って問い合わせがありました。しかし治療回数が進むとともに、「もし鍼をしなくても良いのなら、マッサージだけにして!」と言われるようになりました。

それは「お前が鍼が下手なんじゃないのか?」と思われるかもしれませんが、決して痛い鍼もしてきていないはずだし、鍼は鍼でしっかり”効かせた”つもりです。でも患者さんに治療者が「怖くなくて、気持ちよくて、痛みや症状が楽になる」という方法を提示できれば、まず8割から9割の人は、手技のみ(マッサージのみ)を選ぶと思います。ただ問題は我々の業界では、「鍼灸>>>マッサージ」という認識が浸透しており、マッサージを軽視する傾向にあります。「マッサージ=慰安=誰でもできる、プロの仕事ではない!」という”舐めた”考えが浸透しています。だからよく治療者が「鍼のほうが効きますよ!」とか、「鍼じゃないと治らないよ!」と患者さんに説明する傾向にあるのです。(マッサージなどの手技がどのように体に作用していくかは、本家ブログで詳細に紹介していく予定です。)

5,解剖実習での反省

我々鍼灸師は、鍼を打つ時、ほとんどの人が「経穴(ツボ)」か「筋肉(筋肉の凝り、筋硬結)」を意識して鍼をうちます。私もそうでした。しかし私が毎年参加している解剖実習で、私は「筋肉の上の層」にある結合組織(特に浅層ファシア、詳しくは本家ブログで)と血管、神経、リンパの存在を目の当たりにし、経穴や筋肉だけを想定して鍼を刺すことに疑問を持ち始めました。なぜなら、鍼灸界では、「血管、神経、リンパに鍼をさしたらどうなるか」という研究がまともに行われてきていないからです。特に「美容鍼」のように顔面に大量に鍼を刺す手法は疑問を呈さざるをえないです。「美容鍼」「美顔マッサージ」なるものの真実(トリック)については、多くの人が興味があると思うので、近日とりあげます。

6,自分に鍼を打って大悪化(笑)

2015年9月初旬、いつものスイミング帰りに突然左の膝の内側の痛みを感じだしました。私は「よっしゃ!いろいろな治療を試したる!」といろいろなセラピストに見てもらいました。でも全く治らず、そこで自分でなんとかしなければ!と思い、膝周りの筋肉に鍼を20本くらい刺しました。で、次の日は膝がパンパンに腫れて、その痛みが大悪化。しかも歩くのも辛いくらいになったので、初心に帰って、マッサージをし続け、また自分でのリハビリプログラムを組み、実行し、1ヶ月もしないうちに完治させました(詳しくは本家ブログ「プロセスアプローチ」を参照)。これでわかったのは、「太い鍼>>細い鍼」ではないし、「患部に多くの鍼>>少ない本数の鍼」という西洋医学系というか、トリガーポイント系の鍼師が考えていることが必ずしも正しくはないということ。(要は、大体この辺が悪いだろう、といって、無闇矢鱈に太い鍼を多く刺すのは意味がないということ。日本の有名な鍼師でもそういう人がいますね。)

では、今私がどんな時、どのような理由で鍼を使って治療しているか?それは一応企業秘密ということで(笑。一応、ちゃんとした理由があります。

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