安藤優 Masaru Ando
2024年のうた第一期 冬・春 新年やまたふるさとが遠くなる二〇世紀は記憶のかなた 元日のポストはまるでオルゴールどこであけてもあけおめことよろ かためを買った歯ブラシがあんまりかたくなかったのこれも時代か 力尽き年を越せずに一一時一一分で止まった時計 ごま煎餅をもらったひととあげたひと因縁のあるあの二人 つぎつぎと地震津波の情報が画面のうえで白くまたたく 百万の顔なき顔の虚ろな笑顔理性の時代こえた先 ギャラリーにひしめくイメージの種牡馬たちが見やる恥辱の痕跡
花びらの開口部から艶やかにいざなう香り人喰いの薔薇
移動する川のみなもと廊下からあふれる水の夢の中まで
のろのろと潜るとそれはロージャイヴゆっくり潜ればスローダイヴ
メンフィスのトレーラーハウスにひきこもり純金をクロムに変える
すべる背骨とうねる腰からずれてゆくちびりちびりとスイカズラ
乾季の砂漠の日差しのした年ふりし灯台守のうめき声
目覚めるとそこは昨日でもう一度わたしは同じ夜を迎える
心のなかで泣いている声がする終わりなき眠りへのいざない
時間は凍てつき世界は泣き出してわたしは夜に所属している
大きな赤い風船を月に手が届くくらいに高く飛ばして
預言者が約束をした四千年も待ちわびた幸福なとき
想像力のない愚者が並びを変えて再配置しようとしてる
もう息をつく暇もないたった一度の呼吸で溶けゆく欲望
太陽の光も透かす青い羽根もつ鳥がいま地面に触れる
唇は封印されて息は熱いのぼせあがらずエレヴェーション