鳴門

『鳴門秘帖』第9回「姉妹の契り」の感想

世界はW杯でオレオレしているようだが、それ以上に熱い展開をみせているのが『鳴門秘帖』である。もはや秘帖(箱の中身)のことなどそっちのけで、登場人物全員が色めき立ってわちゃわちゃと大騒動を繰り広げている。ごちゃごちゃとあれこれ詰め込まれているにもかかわらず、お十夜孫兵衛とお綱、法月弦之丞と千絵どののそれぞれの二人だけの語らいのシーンにはたっぷりと時間が割かれていたりして、何だかもう緩急のある展開を通り越して無駄に情緒的な演出(そしてカメラワーク)に逆に胸が高鳴ってくる。実際に弦之丞と千絵が二人だけの世界にどっぷりと入り込んでいる間に万吉とお綱は旅川周馬の配下の甲賀の忍びの者たちに囲まれてしまっていて、そこから一気にスペクタクルな殺陣のシーンに雪崩れ込んでゆくことになる(そのままあれよあれよという間に鳴門秘帖は奪われる)。そして、やはり何といってもそこここで強烈なインパクトを残してくれるのが早見あかり(千絵)である。甲賀世阿弥の娘なので実は武芸にも秀でていてめちゃくちゃ強いのだろうが、外見からはあまりそうとは思えない感じを見事に演じきっている。全員で大真面目に娯楽時代活劇をやっているところに、ひとりだけディズニー映画のお姫様が紛れ込んでしまっているような雰囲気も流石としか言いようがない。目鼻立ちのしっかりとした色白の美形なので日本髪の鬘も色鮮やかな着物もとてもよく似合うし、かっちりと整った姿形がいちいちどのシーンにおいてもよく映える。ちょっと前の「ちかえもん」の時もよかったが、今回はそれ以上である。早見あかりの千絵は、本当にすごくよいのだ。まあ、ドラマ自体はもうツッコミどころが満載で、それゆえに早見あかりの好演がよくもわるくも際立っているという部分もあるのかもしれないが。こぼれた酒に囲炉裏の炭火が引火して孫兵衛の実家が燃えそうになっていたが、いったい何を飲んでいたのかが気になるところだ。酒が買えないので灯し油を飲んでいたということであったのだろうか。何にしても燃え上がる炎に囲炉裏の灰をばしばしと投げつけてひとり必死に消火活動を行なう孫兵衛の姿は大いに泣き笑いを誘った。そして、あの上へ下への大騒ぎに参加することができなかった天堂一角が何とも不憫でならない(あの真新しい位牌も孫兵衛の実家の屋敷とともに灰になってしまったのだろうか。まさに踏んだり蹴ったりである)。次回は早くも最終回。もう一度ぐらい法月弦之丞には尺八を使って戦ってもらいたいところである。また、どのあたりで平賀源内が再登場するのかも見ものだ。とりあえず、弦之丞と千絵にはどこまでも結ばれることはなく、ずっとずっとどたばた(悲喜)劇の最中に身を置いていてもらいたいと思う。

(おまけ)

5月28日にフェイスブックに投稿した『鳴門秘帖』に関する記事

普段はクールな法月弦之丞がひとたび頭の中が千絵のことでいっぱいになると、我を忘れてうわ言のように「千絵どの、千絵どの…」と名前を連呼しながら脱兎のごとく激走してしまうシーンとか、最高におもしろくて参る。千絵とお綱が実は姉妹であることを、見る側がこれは臭い何かあるなと思った時点で何となく法月弦之丞も同じように勘づいていたとか、ありえないくらいにやっぱりそうかそうだったのかとなるベタな古典的時代劇の展開を何のアレンジもなくそっくりそのままなぞりまくっているところに妙にゾワソワさせられるものがある。そして、何といっても早見あかり(千絵)の顔芸ならぬ体当たりの表情豊かな演技が見ものである。喋ると息が白く見えるほどの寒い時期の撮影だったせいか千絵がむちゃくちゃ鼻声になっているなと思っていたら、その後に長旅の疲れで高熱を出してばたりと倒れる展開となり、どこからどこまでが役作りなのかまるで分からないミラクルな佇まいも魅力的だ。旅川周馬と千絵の異種格闘技戦的なジワジワくるやり取りやボルト並みに脚が速いお綱、エレキテルを武器に戦う平賀源内の一発ギャグ的なシーンなど、どこもかしこもおもしろポイントが満載なので一瞬たりとも見逃せない。ねっとりとした神田松之丞の語りにも存在感があり、なんかもういろいろとドラマのわざとらしさがとことんまで追求されていて、鳴門秘帖すごいぜ。

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