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生欲、あるんですか?(これはライナーノーツではない)

こんな時間にごめんね。

松永天馬「生欲」発表しました。今からセルフライナーのようなものを書いてみよう。
書いてみようとは言ったものの、作品を発表した本人がライナーを書くほど滑稽なものはないと思っている。作品づくりの答え合わせを自分でしているようなものだ。だからこの文章は、出来るだけ本質から、或いは事実からかけ離れたほうがいい。作者の意図からズレればズレるほど本質に近づく。松永天馬が意図しない方向に筆が進めば或いは正解だが、基本的には間違っている。では何故書くのかと問われれば、それを問い直すために書いているとも言えるかもしれない。
とまれ、書いていく。その必要を僕は感じる。
ちなみに今はとても眠たく、何杯か飲んでいるしリアルタイムで書いているので文章力には問題がある。だけど音楽同様、文章もライヴ感が大事であるかもしれないので、自動筆記で書き進めていく。

01.生欲
作詞・作曲:松永天馬 編曲:成田忍
タイトルチューン。曲名をそのままアルバムタイトルにするのは初めてだと思う。その方式同様、これまで避けていたストレートな表現が歌詞にもサウンドにも並んでいる。筋肉質なEDMは成田忍氏によるもの。サウンドが自然、MVのヴィジュアルも引き寄せた。

松永天馬 - 生欲 
Temma Matsunaga - SEIYOKU https://youtu.be/aEasDnWWkAs

承認欲求の10年代を経て、否定と肯定を抱えながら生きていく20年代が始まる。KAWAIIの時代は飽和して終わり、茫漠とした自己愛の砂漠をアイデンティティの幽霊たちは彷徨い続けるしかない。本当の事を言えば鞭打たれ、正しい言葉だけが許される時代には危機感を感じている。

人々は褒められたいし、肯定されたい。傷つけられたくないし、だけど死にたいと思っている。何もかもが茶番だし何もかもが下らない。笑い飛ばしたほうがいい。ユーモアが足りない。日々そう思っている。
人間はそんなに弱くないし、君はそんなに弱くないだろ?という気持ちで書いたが、きっと無視され目に留められても鞭打たれる。鞭打たれた方が面白いだろ?そのほうが道化だろ?という気持ちで歌っている。


02.ポルノグラファー
作詞:松永天馬 作曲:高慶智行 編曲:Noy Sirikullaya,杉山圭一
当初は「ラブハラスメント PART2」というタイトル案もあった。前作からテーマを引き継いだディスコチューン。誰が何と言おうと、CDが売れなくなり、音楽は品性を喪った。アーティストは作品ではなく自分を売るしかない。避けられないことだ。作品と本人が完全に一致した存在を「アイドル」というのかもしれない。その意味では2019年現在を生きるミュージシャンはすべからくアイドルだ。
我々ミュージシャンは消費されることを余儀なくされる。プライベートもアイデンティティも、自分を切り売りするかのように音楽を売っていくしかない。だけどそれによって、消耗する必要があるかな?必要以上に消耗してしまうのはきっと、自分ではなくて間接的に性を売っているからだろ。それは音楽じゃなくて接客であって、我々は作品を売ろうぜって思っている。だから僕はSNSでもステージの上でも音源でも演技しかしない。
という矜持を込めたつもりだが、そしてMVも非常にシニカルだったりするのだが、アイロニーだけが愛だってことは数百年前から言ってきたので今更繰り返さない。ミュージシャンはリスナーを救うような事言って自分が救われたいクソ野郎なんですよ。

松永天馬 - ポルノグラファーTemma Matsunaga - PORNOGRAPHER
https://youtu.be/pStDnhOy0GU

初回版ではこの楽曲を膨らませた短編映画「脱がない男」のDVDも収録されている。ヒロイン役の星美りかさんにとっては、最もドキュメント要素の強いフィクションかもしれない。

03.生転換
作詞・作曲:松永天馬 編曲:Noy Sirikullaya,杉山圭一
能町みね子さんの性転換についてのエッセイを読んだことがある。熱い国に行き、病院に一カ月近く入院し、手術し、術後数週間痛みと幻覚に悩まされ、性を改めてこの世界に戻ってくる。それって既に、生まれ変わってるのと同義じゃんと思いこれをすらすらと書いた。「一回死んだ」生き方とはどんなものだろうと興味を持った。性同一に悩む人がいるように、生同一に悩む人だって多いだろう。生まれてきたこの世界は何処か間違っているし、自分は生まれてくる世界を間違えてきたんじゃないかと。自分自身の命が間違いなんじゃないかと。
ちなみに音源はライヴと異なりギターレスのピアノロックとなっている。ギターというロックンロールにおける「命」が「切除」されているのは楽曲のテーマを暗に示しているかもしれないし、切り裂かれた片割れは聴覚から解き放たれた世界で轟音で鳴っているかもしれない。
なおこの曲は、映画「松永天馬殺人事件」でもオープニングを飾っている。


04.好きな男の名前 腕にコンパスの針でかいた
作詞:佐々木”ACKY”あきひ郎 作曲:Sinner-Yang,D.I.E. 編曲:高木祥太
面影ラッキーホール、現O.L.H.のカヴァー。ライヴでは何年も歌い続けてきた楽曲をようやく音源化することができた。腕に刻まれた名前の男はきっとどうしようもない。彼女の前からもふと消えてしまいそうな幽霊みたいな男だから、手首に名前を刻む。墓碑銘のように。聖痕のように。完全に彼を過去の男に変えて、彼女が「失恋」するために。
これまでライヴで演奏してきたのはどちらかというと「コピー」で、今回「カヴァー」するために、原曲とは異なるアプローチが必要となった。
高木祥太のサウンドデザインは、温かいようで突き放す、冷たいようで寄り添うような曲調を作り上げた。きっとこの曲は主人公の女を包み込みも蔑みもしない。ただじっと見つめている。監視カメラか神のように。今はもう乗り越えた、しかし一生消えないトラウマのようにそこに屹立している。

しかしいま思いついたことをかねてから考えていたかのようにつらつらとつづるのは楽しいなあ。SNSには嘘しかない。騙されちゃいけない。


05.プレイメイト
作詞・作曲:松永天馬 編曲:Noy Sirikullaya,杉山圭一
三十を越えてから海が好きになった。人気が無い海がいい。オフであればあるほどいい。そんな海辺の閉店間際の海の家でサングリアを片手にこの詞を書いた。
たまに、真面目に生きてきたことを後悔することがある。もっと不真面目に遊んでくれば良かった。聖書の世界では不道徳な生き方をしてきた人間ばかりが将来的には聖人として崇められる。汚れてこなかった人間に、本当の品位は分からない。
シティポップで歌われる都市は本物ではない。架空で虚構の東京だ。シティポップの空虚を込めてみたいと思い、曲のなかで罪を犯した。


06.T字架
作詩:松永天馬 作曲・編曲:大谷能生
前回同様、大谷さんが用意して下さったトラックに詩をつけた。繰り返される金属音は杭を打つ音を連想させ、磔刑のモチーフへと至りアートワークに繋がった。Tはレコード店の名前か、人名か、もっと下劣な名詞にもなりかねないが、いずれも僕が背負っているものだ。僕は僕を背負って歩いている。背負っているから振り返ることもできない。常に背後にある影のように。
ASMR的な意匠は、猥褻物を捏ねたり捩じったりしている。
次に出すアルバムは全編こんな朗読でいきたいが、これがポップスと認知されるようになるまでにはあと二百年ぐらいかかるだろう。


07.ナルシスト
作詞・作曲:松永天馬 編曲:杉山圭一
この曲についてはあなたが。


(Bonus track)
08.ピンクレッドⅦ
作詞・作曲・編曲:いまみちともたか
半ばライヴにおけるアンコールのような形で、いまみちさんに一曲提供して貰うことになった。2月のライヴがはねた夜、氏から送られてきたメールに歌詞が添付されていた。「昔書いた曲だけど、天馬が歌っているのが見えた」と。
レコーディングはいまみちさんの布陣で、ドラムス平山牧伸氏、ザ・キャプテンズからテッド氏がベース、傷彦氏もコーラスとして駆けつけてくれた。ヴォーカルもほぼ一発録りでエキサイトしながら歌っている。これまでのキャリアで最もロックンロール的なRECだったかもしれない。
いまみちさんの詞はバービーボーイズの頃から、男女のディスコミュニケーションを(言い換えれば「痴話喧嘩」を)テーマとしてきた。途切れ途切れに言葉はすれ違う。だけど交わさずにはいられない。そのコンセプトにシンパシーを感じる。赤い血と白い血が交じり合うなんて妄想、ピンク映画の妄想だ。
だけど歌のなかでなら或いは。そう問いかけてアルバムは終わる。やはり前作と同じように。身体と歌だけの関係。2時間弱の映画のなかだけで愛し合う関係。三分間の歌のなかだけで。数行のソネット詩のなかだけで。それが終わったら全て忘れて帰って頂きたい。だって嘘なんだから。


分かったような解説は作品の理解を遠ざける。自分の頭で考えることを諦めさせる。だからこんなライナーめいたものは今すぐ窓の外に投げ捨てて下さい。スマホ?叩き割って下さい。アーティストなんていないので、この一連の文章は誰かに書かされているだけなので、多分全部嘘でしょう。
生欲を叫ぶ男には最も生欲が足りていないので、こうしてしばしば作品という手段で自分自身に問いかけています。
生欲、あるんですか?
と。

これで文章はおしまい。アルバムのリピートボタンを押しながらおやすみなさい。夢で会いましょう。と、シャツを血で染めた男が言っていました。


追記1:
今回のアルバムは例の如く、自身でアートワークなども手掛けている訳だが、歌詞カードはこれまでで一番こだわったかも。
古き良きタイポグラフィ。初回、通常で全写真違い。いま失われつつある紙の時代のこだわりを無駄に詰め込んだのでそちらも御覧頂けたら。これはサブスクじゃ伝わらないので、CDで。

追記2:
一月にレコ発やります。ソロはアーバンギャルドに比べると演劇的要素の強いライヴを展開していて、映像や独り芝居、ダンスも織り交ぜながらやってます。サポート陣のバンドアンサンブルは勿論最高。
是非ともおいで下さい。

■松永天馬「生欲」RELEASE LIVE『2020年の生欲』
2020年1月26日(日)Shibuya WWW
開場:17:30 開演:18:00 前売:4500円
https://www.temma.club/post/2020seiyoku

松永天馬 https://www.temma.club/
生欲:特設 https://www.temma.club/seiyoku


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