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2019/2/12-2/18 自分を愛せぬ僕なのに誰かを愛せるわけないよ

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 最近、写真を撮るようにしている。撮るように「している」という言い方は適当ではないのかもしれない。写真を撮りたいと思っている。もっといえば、写真を趣味にできたらとすら思っている。だけど、一眼レフは重いし、嵩張るし、いつでも何処でも持ち歩くわけにはいかない。そこで無理して持ち歩くと、肩ひじ張って趣味にならないし、気軽な気持ちが吹き飛んでしまいそうで怖い。だからスマホで、思い付きのように、適当に撮る。上手くなってはダメなんだ。上手くなろうとして、仕事になった途端、趣味が別の色合いを持ってきてしまったじゃないかこれまでだって。書くことも、歌うことも、演じることも仕事になって、下手なりに上手くなることを要求されるようになった。写真はいつまでもそうしたくはない。幸い、現代の通信機器の技術はどんどん進歩している。iPhoneで撮る上で問題になるのはレンズのサイズぐらいなもので(人物を撮るときなど、やや魚眼のように中心に寄った映りになってしまう。これはこの機器の特性だ)画質も、フラッシュも、なかなかのものだ。だからこの機器でしばらくは片手間に撮り続ける。その習慣が続くようであれば、本格的なカメラを手に入れてもいいかもしれない。あくまで趣味の延長で。

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 何故撮るように「している」のか。撮らなければ「いけない」わけではない。勿論、僕のような仕事の場合撮らなければ「いけない」写真は山ほどある。ライヴやイベントのレポート、アーティスト写真やそれに準ずるもの、商品着用写真、自撮りなんかも。だけどここで趣味とした写真は仕事上マストなものだけではない。SNSに載せるものだけが写真ではないし、いいねを集める目的だけが写真でもない。たわいもない日常を、ただ記録していきたいのだと思う。近い将来、それを思い返すために?振り返るために?もしくは、今ここを、この感情をとどめておくために。別に派手派手しくもない、「映え」もしない何かにこそ、大事にしたいものがあると何処かで気づいているのかもしれない。僕はもっと、僕のことが知りたい。こんな年齢になってもなお、世界の在りようを、自分の目から見る世界の在りようを探している。

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 小倉トーストにゆで卵という名古屋らしいモーニングを食べてから、チェックアウトして新幹線で東京に戻る。帰りはようやく車内でビールが飲める。帰宅して泥のように眠り、深夜、髭面の巨男が海底で暴れまわる映画を観る。水責め、風責めの4DX。座席は揺れに揺れ、映画館が難破船になる瞬間。

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 明日のソロワンマンライヴの準備。原宿にてダンサー用のウィッグを購入し(なんて地味な作業もやるのです、株式会社松永天馬は社員も社長も独りだから)代官山にてALiさんと映像編集。諸々の楽曲VJをチェックし、天馬テマというブイチューバーを受肉させる。特に録音機器も使わず録っているためマイクも割れているが、面白いので採用。思い付きを大事にしたい。
開場時に投影するための、巨大な遺影用の素材も撮影。遺影はやがてゆっくりと口元を動かし始め、無音で語りかけるだろう。「こんなところでごめんね」と。

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 松永天馬ソロツアー”NARCIST”ツアーファイナル東京”VALENTINE HARASSMENT”渋谷WWW当日。遂にこの日が来てしまった。折しもこの日はバレンタイン。或る意味大事な日にこのライヴを選んで足をお運び下さった皆様に、改めてお礼を申し上げたい。そしてサブタイトルの通り、こんな日に一方的な愛の押し付けを、ハラスメントを行ってしまったことに関してはお詫び申し上げたい。だけど僕はもう知ってしまったから。人生は独り芝居であり、自らスポットライトに向かっていかなくては、ステージに立とうとしなくては始まらないものだということを。そしてその独り芝居が、誰かと創り上げる大きな芝居になる可能性をも孕んでいるのだということを。


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 名阪でのワンマンは、いわば僕の完全なる独り芝居だった。サポートのバンドメンバーはいたものの、ステージで語り、歌い、演じるのは僕ただひとり。僕は小さなステージで(特に難波ベアーズなんかは、その寂れ具合もライヴの演出に一役買っていたはずだ)暗闇に向かって語りかけ、カクテルを飲み、自分と結婚し、カメラを回した。対して、今回はゲストヴォーカルの塚本舞やダンサー神田初音ファレル、ALiさんの映像もあって、いっけん華やかな印象だったかもしれない。衣装チェンジも四回(四回!)あった。

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 これまで四度のソロワンマンをこなしてきて、次のステージに上がる必要を感じていた。それは言うなれば、独り言から対話を希望することだ。デタッチメントからコミットメントへ、ということかもしれない。何度ステージ上で服を脱いでも、僕はなにひとつ言葉を脱いではいなかったかもしれない。それがスタイルになり、ファッション化すればするほど、裸にはなり得ないのかもしれないと悩み続けてきて、見つけた答えが「ナルシスト」になることだった。残念ながら、僕はナルシストではなく、ナルシストになりたいと願う、よくいる、弱弱しい中年男の一人でしかない。しかし自分を愛するというのはどんな仕草のことだろう。そこには過剰な自信や、独善的な思想はいらない。傲慢さも、驕りも不必要だ。多くのナルシストを称する人たちは、ただ強がっているだけではないか? 本当に自分を愛するのなら、弱い自分も晒すことができる、違うだろうか。僕は改めて、自然に鏡を見つめるように詩を書き、歌いたかった。そこを突き詰めるのがこの度のツアーの課題であったが、その結果はどうだったろう。

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 写真を撮ることも、日記を書くことも、すべてはステージに向かっている。ステージの上に立っている自分が、もっと自分らしくあればいい。自分の弱さまでを晒しきった表現だけが、きっと誰かの心の、柔らかいところにまで触れるはずだ。僕は君の心の奥の奥の、柔らかいところにもっと触れたい。さわりたい。なんて言ったらハラスメントになるだろうか、バレンタインの夜に。


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ライヴが終わればすぐ次だ。ということで今度はアーバンギャルドの春ツアーのためのリハーサル初回。今回は裏ベストからの選曲だけに我々も久々にやる曲ばかり。アレンジもよりフィジカルな方法を模索していきたいと思っているうちに五時間が過ぎて終了。最後の曲は瀬々さんに選んでもらった。

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渋谷のホテル街のはずれにあるカフェにて、マッシュ、O-NESTのS店長とランチ。疲れが溜まっていて寝坊。ごめんなさい。S店長はライヴハウスの既定路線で「回している」現状を打破していきたいとのことで、最近は音楽ライヴのみならず、ハコで怪談イベントやマッチョイベントも開催しているらしい。マッチョイベントとは何ぞや?と訊ねると、ゴールドジムに集うマッチョを集めてマッチョダンスをさせたり、マッチョコントをさせたりするそうな。マッチョコントとは……。
話ははずみまくり、夏あたりにO-NESTにて一つ花火を打ち上げることに。あのSSWと、ノリで話していた企画が現実のものに……。

夜はアップリンク渋谷にて「見逃したムーラボ2018」。東京でのムーラボ企画はこれで最後? 今回も無事に4DIEXシステムを稼働させ、これで最後となる「内回りの二人」柴野監督とのコンビでのアフタートーク。正統派の短編と異形の長編という組み合わせのプログラムではあったものの、二作品とも都市を彷徨う男女のダイアローグ、というジャンルとしては似通っている。都市生活者の孤独を天使になぞらえ、モノローグからダイアローグの可能性を示した作品として世界的に評価されたのが「ベルリン天使の詩」だったが、この映画で天使を演じたブルーノ・ガンツも今夜、地上から旅立ってしまったとのこと。本当の意味で天使になってしまった彼にも我々生者の言葉が届くよう、映写機はルーメンを上げていくべきだし、スクリーンはより大きくあるべきかもしれない。

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 ツアーパンフレットのデザインに次ぐデザイン。瀬々ラストツアーということもあり、現体制の写真を浜崎容子から選抜してもらい、配置、調整、自作曲の解説なども添える。という作業の合間を縫って、某所にて松永家の会合。親不孝者の天馬君はこれが年始初、親族への挨拶になる。兄も姉も結婚し子があり、姉の子のN君は四月には小学一年生とのこと。N君はお調子者でよく喋り、何処となく在りし日の誰かに似ていないこともない。

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 事務所TKブロスにてバンドミーティング。六時間。目が回る。この日記を通読されている方はお判りのことだろうが、年始より我々は何度も話し合いを重ね、四月以降の動きを模索し続けている。新曲デモの〆切も決まり、年間のライヴも定まりつつある。個人的にはもっと冒険したいと思っている。これまでだって、道なき道を歩んできたバンドだろう?

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