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【ラジオ】フリーフォークを中心に考えるゼロ年代のサイケデリック感覚特集.mp3 <後編>

*ポッドキャスト番組「アーバンぱるNEW」の文字起こし記事です。

前編はこちら

<メンバー>
店長 / ダモリ / ファグ







<V.A / The Golden Apples of The Sunの話>


ファグ「まあ、フリーフォーク・フェスティバルに出てたアーティストっていうのは狭義の、狭い意味でのフリーフォークっていう扱いに今ではなっている、っていう感じですね。」

店長「うん、そうですね。」

ファグ「これが03年で、もう一段階フリーフォークっていう名前を、もうちょっと広い範囲の人たちに伝える為の役割を担ったアルバムっていうのがある、と。」

店長「うん。それがデヴェンドラ・バンハートがキュレーションしたコンピレーション、"The Golden Apples of The Sun"、だという事ですよね。これが04年にリリースされて。で、まあ当時雑誌とかでざっくり紹介されてたフリーフォークのイメージっていうのが、割とこっちの方が強かったので。まあ、デヴェンドラ・バンハートが代表格に挙がってくる感じ、っていうのが。」

Various / The Golden Apples Of The Sun (2004)

ダモリ「これに参加してたのは、誰でしたっけ?」

ファグ「ジョアンナ・ニューサム!」

店長「ココロージー!」

ダモリ「うん、ジョアンナ・ニューサムで。シックス・オルガンズ・オブ・アドミッタンス、エスパーズ。で、(ヴァシュティ)バニヤンとデヴェンドラ・バンハートのデュオで。マット・ヴァレンタイン、ジャック・ローズ。まあ、そういうラインナップか。」

ファグ「そうね。ちょっと特殊なところで言うと、ココロージーとアントニー(アンド・ザ・ジョンソンズ)とかも入ってて、割と幅広さも感じつつ、って感じですね。」

ダモリ「あー、はいはい。」

ファグ「で、まあなんか昔からやってた人っていうか、ブラトルボロ系の人と言えばマット・ヴァレンタインが入ってて。あと、シックス・オルガンズ・オブ・アドミッタンスとかも入ってる。だから、なんか結構北東アメリカに限定されず、割と広い範囲からアーティストが選出されて。まあ、なんていうか若手のパッケージみたいな感じになったような気もするね。」

店長「うんうん。」

ファグ「これで有名になった人っていうと、ジャック・ローズがこれで結構売れたっていう記述を見ましたね。」

ダモリ「あー、ジャック・ローズが結構有名になってたんやね。まあ、一番有名やったんは、ジョアンナ・ニューサムとかなんやねんけどね。」

店長「そうですね。」

ファグ「で、なんか個人的にちょっとおもしろいなぁ、と思った事があってですね。ちょっと読みたいんで、いいっすかね?これ、コンピレーションのタイトルが"The Golden Apples of The Sun"、と。"The Golden Apples of The Sun"ってイェイツっていう詩人の詩なんですね。"The Song Of Wandering Aengus"、放浪するアンガスの歌っていう。で、これって太陽の黄金の林檎っていうのの前に、月の銀の林檎っていう言葉が入ってるんですね。月の銀の林檎…、なんか来ませんか?」

店長「シルヴァー・アップルズや。」

ファグ「そうそう、シルヴァー・アップル・オブ・ザ・ムーン。」

店長「えーと、あれや…」

ダモリ「サボトニックや!」

店長「モートン・サボトニックや!」

ファグ「そう、モートン・サボトニックのアルバムがシルヴァー・アップル・オブ・ザ・ムーンっていう。このゴールデン・アップル~の一個前の節から取られとる、という訳なんですね。これがだから、電子音楽の方はシルヴァー・アップル~から取られてて。シルヴァー・アップルズもそこから取ってるじゃないですか?」

店長「うんうん。」

Morton Subotnick / Silver Apples Of The Moon (1967)

ファグ「で、まあこれは偶然やと思うねんけど、アニマル・コレクティブのWikiなんかを見てると、シルヴァー・アップルズのファンでっていう記載が出てくるぐらい、初期の頃はシルヴァー・アップルズが好きだよ、っていうのを公言してたらしい、と。で、まあフォーキーな流れの人たちっていうのは、"The Golden Apples of The Sun"っていうアルバムに集まってて。もう一個の別の支脈として、フォークトロニカ的な方向に対するアンサーとしてのフリーフォーク、っていう流れがあると思っていて。で、まあそれがちょっとこじつけやけど、シルヴァー・アップルズのファンを公言していたアニコレっていうのがやっていく。で、フリーフォークっていう大きな枠、売れた枠って言ってもいいかもしれんけど、でデヴェンドラ(バンハート)っていう翼が片方にあって、もう片翼がアニマル・コレクティブっていう。これが、ちょっと興味深いなと思った話です。」

ダモリ「確かに、アニコレもちょっとそっち寄りって感じはするからね。」

ファグ「そうそう。だから、フォーク・リバイバル派が黄金の林檎を追求して、シルヴァー・アップルズの伝統はエレクトロニカを通過して、アニマル・コレクティブの流れに到達する、という見方ですね。」

店長「うんうん。」




<アニマル・コレクティブ / ブルックリン・シーンの話>


ファグ「で、アニマル・コレクティブ自体は、自分たちをフリーフォークとは言ってなかったんやけど。まあ、remixの表紙がアニマル・コレクティブやったりしたから。フリーフォークっていうとやっぱりアニコレって出てくるよね、っていう感じ。で、アニコレにとって結構重要やったんが、同時代のシーンが重要やったんじゃないかなっていう所で、ブルックリンのシーンっていうのが出てくる。」

店長「うんうん。まあ、(当時)いっぱいいたもんね。」

ファグ「ね。ブルックリンのシーン、まあ、結構ブラトルボロから南に下って行くとニューヨークなんで、地理的には近いからそっちのアーティストも出入りしてたりとかする。で、ブラトルボロのフェスにもグリニッチ・ビレッジでやってた、えーと、なんとかかんとか…っていうおじいちゃん」

ダモリ「なんとかかんとか (笑)」

店長「マイケル・ハーレーじゃないの?」

ファグ「あー、そうそうそう!マイケル・ハーレーがね、出てたりとかする、みたいな。っていうので、結構シーン的な繋がりとしてブルックリンとフリーフォークっていうは近かったりする。まあ、当時のブルックリンは地価が上がる前で、結構インディー・アーティスト達がいっぱい集まって、溜まってた場所になっとりまして。まあ、アニコレ以外にも…、アニコレと仲良かったんがブラック・ダイスとかザ・ラプチャーとかが、一緒にこう無名な時から頑張ってきたバンド的なので取り上げられたりするけど。まあ、音楽的系統は近いようで結構遠くて。アニコレが、毎回結構やってる音楽が変わんねんけど、フォーク的な要素も入れつつエレクトロニカ的な要素も入れつつ、ポップなものって感じやとすると、ブラック・ダイスはもうちょっとノイズ・ロックっぽい側面があったりとか。エレクトロニクスの取り入れ方もかなりコラージュな感じの取り入れ方をしてたりとか。まあ、ザ・ラプチャーとかはどっちかっていうと、ディスコ・パンクの文脈の方が語りやすい、みたいな。まあ、シーンの中でも結構ぐちゃぐちゃしてて、折衷的な音楽が多かったようなシーンやったのかなと、思いますね。」

店長「うんうん。なるほどね。」

Michael Hurley / First Songs (1964)


<フリーフォークの区分け>


店長「まあ、フリーフォークっていう言葉自体は昔からあったんですよね、確か。」

ファグ「まあ、なんかジャンルとしてっていうか、そういう風に呼んだりっていう事はあったみたいですね。で、フリーフォークと近接する呼び名として、フリークフォークっていうのがあったりした、と。」

店長「その辺の区分けは、あんまよく分からないですね。」

ファグ「分からんね。なんか、商業的なやつに対してフリークフォークって言ったり、フリーフォークとほぼ同じ使われ方でフリークフォークって言ってる人がいたり。」

店長「うんうん。ね。」

ダモリ「なんかWiki見たら、そういう感じやった。商業的な流れが、成功した流れがフリークフォーク、みたいな。ジョアンナ・ニューサムとか。」

ファグ「まあ、分けやすいからじゃないかなぁ、と思うよね。なんか商業的なのをフリークフォークって、とりあえず呼ぶっていうのは。だから、フリーフォーク・フェスの面々と、ゴールデン・アップル~の面々っていうのを分ける時に、やっぱり違う記号を付けとくと区別しやすいっていうので。」

ダモリ「はいはい。」

ファグ「だから、デヴェンドラ(バンハート)、ジョアンナ・ニューサム、あとなんやったっけな?やり玉に挙げられるヤツがおんねんな。ヴェティヴァーや!ヴェティヴァーは、デヴェンドラ(バンハート)とかジョアンナ・ニューサムの前座とかをやってたバンドやねんけど。」

ダモリ「あー、はいはいはい。」

ファグ「やっぱり微妙に質感が違うなって思ってた人はいたみたいやね。だから、狭義のフリーフォークと広義のフリーフォーク、みたいな差があるというか。」

ダモリ「やっぱ色んなもんがブチ込まれてるとそういう反発もある、みたいな。」

店長「うん。だし、デヴェンドラ・バンハート自体ルーツが割と多国籍やったりするから。その辺の、フォークか?みたいなところも微妙にあるっちゃ、あるけどね。」

ファグ「うん、確かにね。デヴェンドラ(バンハート)は、かなりリイシュー・カルチャーなんじゃないかな、と思うところがあって。やっぱりメチャメチャ音楽をディグって、そこで好きになった60年代~70年代の音楽ていうのを再現しようとしてた、って感じはするし。」

ダモリ「それは結構ある。なんか、細野(晴臣)さんを取り上げたりしてような…。」

ファグ「あー、そうそう!なんかその後にね、日本の音楽とかを結構掘るようになって。で、まあ時代的な潮流としてテン年代以降の環境音楽リバイバルみたいな、そういうとこにも薄っすら繋がってる、みたいな。」

店長「デヴェンドラ・バンハートの"クリップル・クロウ"のライナーノーツ、岡村詩野さんが書いてるけど、そのような事が書いてるな。なんか、デヴェンドラ・バンハートが狂ったディガーみたいな側面がある、っていうのは。」

ファグ「うんうん。やっぱね、シーンっていう感じじゃなくて個っていう感じが強いよね、デヴェンドラ・バンハートは。」

ダモリ「まあ、そうっすね。」

Devendra Banhart / Cripple Crow (2005)


<まとめ>


ファグ「で、まあなんか社会状況的に言うと、やっぱりゼロ年代の極めて大きなトピックとしては9.11があって。やっぱりそういう危機の時代っていうのは、アメリカとは何ぞや?みたいな空気がどうしても出てくる、と。まあ、そういう時代っていうのはフォーク的なものであるとか、トラディショナルなもの、っていうのがフォーカスされやすい時代になってきた、と。まあ、その流れの中のひとつとしてフリークフォークっていうのも出てきたんじゃないかな、っていう風に考える事も出来るかな、と。」

店長「なんか色々調べててちょっと思ったのは、割とアメリカ再発見的な事をやってきた代表的な人って、ヴァン・ダイク・パークスとかライ・クーダーとかやと思っててんけど。なんか、ヴァン・ダイク・パークスはジョアンナ・ニューサムのプロデュースとかしたりして多少関わってるけど、ライ・クーダーは全く関わってないねんな、っていう。」

ダモリ「それ、メッチャ重要な視点やと思う多分。」

店長「なんでやろうな?キューバで忙しかったのかな?とかって思ったりはしました。ブエナビスタ~やってた頃やしな、多分。まあ、あとブルースやからなぁ、ライ・クーダーとかは。フォークじゃなくて。」

ファグ「あー、でも確かにね、フリーフォークって黒人が全然出てこうへんムーブメントやったな、っていうのは思うね。主要アーティストにも参加してる人っていうのは、調べた範囲ではあんま分からへんかった。なんか、フォークってなるとやっぱ急にアメリカ・イギリスの力学になりやすい、というか。そういうストーリーラインが多かったような気がしますね。」

店長「うんうん、確かに。」

ファグ「ただ、まあ調べていくとフォークの成立っていうのに、黒人が果たした役割っていうのは凄く大きいし。それこそジョン・フェイヒーとかも凄いいっぱい聴いてるのも、ブルースマンも聴いてるし、1920年代とかのフォークも聴いてるし、白人のフォークとかも聴いてるし、ヒリビリーとかも聴いてるし、っていうのがあって。ちょっと不思議ではあるよね、そこが欠落してるっていうのは。」

ダモリ「なんかジョン・フェイヒーが、ライ・クーダーに対してそこまで良い印象を持ってなかった、みたいな。」

ファグ「あー、ジョン・フェイヒーってなんか嫌いなもんが多くない?なんか、グリニッチ・ビレッジの系統の人たちの事もあんまり好きじゃなかった、みたいな。同列に並べられたくなかったみたいな感じの事を…」

ダモリ「結構そういう感じよな、フェイヒー。」

店長「ややこしい人や!」

ダモリ「そう。ヒッピーバンドもバカにしてたしな、結構 (笑)」

ファグ「そうそうそう。ヒッピー嫌いやねんな。」

ダモリ「そうそう。」

ファグ「ねえ、やっぱかなり奇妙な人で。まあ、ジョン・フェイヒーはフリーフォークにかなり大きい影響を与えたけどさ。アメリカの変な人ラインみたいなのが、あって。」

ダモリ「そう、割と変な人ラインにいた感じなんやな。ジム・オルークのフェイヒーとのエピソードとかもね、結構聞いてると変な人やなぁ、みたいな。」

ファグ「なんかね、ギターロバーツことローレン・マザケイン・コナーズとかさ、ヤン・デックとかさ。アメリカだけに限らず、なんかロック史の中で位置付けるのが困難なオッドな人達、みたいな。っていうのがあって。それこそフリーフォーク・フェスに出てた、ドレッド・フールとかもそうやねんけど。まあ、そういうのを位置付けなおそうっていう意志は凄いあったような気はしますね、フリーフォーク。」

ダモリ「うんうん。」

ファグ「まあ、そこでオミットされてるものは何か?っていうのを考えるのはかなり重要やなぁ。」

ダモリ「結構重要やね、それ。ライ・クーダーは何故いないのか?とかね。店長が言ってたような。」

店長「何故、黒人がいないの?とか、そういう事ですね。」

ファグ「まあ、それってやっぱりテン年代以降の音楽地図、みたいなのを考える時も結構重要な問題かもしれへんな、と思うよね。だから、ロックが後退していく流れの中のひとつの現象ではあったから、フリーフォークって。」

店長「うん、そうね。ちょっとトランプ的なものも、感じてしまうところはあるよね。」

ファグ「あー、ナショナリズムね。でも、なんかフリーフォークに関しては、やっぱりインテリ左翼的な人が多かったような気はしてて。」

店長「うん。」

ファグ「やっぱりナショナリズムっていうのを、柔らかく捉えるための方法として、変人もアメリカ人やろっていう意味での<New Weird>かなぁ、っていう風に個人的には思ってるけどね。」

ダモリ「あー、はいはいはい。」




【REFERENCE】

〇ディスカホリックによる音楽夜話
https://hiroshi-gong.hatenablog.com/

世界のインディ、アンダーグラウンド音楽を掘り続けているhiroshi-gongさんのブログ。日本語でフリーフォークについて調べようとすると避けては通れない。お世話になります!

〇英米フリーフォークの幽霊的地図
https://note.com/hirayamakun/n/n7593d0a23a3b

『ナース・ウィズ・ウーンド評伝』でお馴染み、平山悠さんによるフリーフォーク評。フリーフォークをネオフォークの流れと絡めて読み解く視点は氏ならでは。主催のFEECO別冊『MUSIC + GHOST』では憑在論の流れの中にフリーフォークを位置づける関連記事あり。必見。

〇It Still Moves
https://pitchfork.com/features/article/7174-it-still-moves/

Pitchfolkのフリーフォーク関連記事。Amanda Petrusich『It Still Moves』からの抜粋。The Golden Apples of the Sun以前のフリーフォークがどのようなものだったかを伝えている。

〇New Weird America
http://new-weird-america.aawilson.co.uk/index.php

Andrei Sfetcuによる個人サイト。フリーフォークの全体像を把握するのに最適。図が見やすい。

〇r/freefolk
https://www.reddit.com/r/LetsTalkMusic/comments/tekb9f/lets_talk_free_folk_or_new_weird_america/

redditのフリーフォークスレッド。現地でリアルタイムで聴いていた人たちのコメントが希少。

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アーバンぱるNEWとは、ゼロ年代に培われたサイケデリック感覚のフィルターを通し、音楽にまつわる様々な事象を語り合う、精神の旅番組です。


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