今にして思うと、かつてのぼくはかなり頑迷だった。「唐突な自分語りどうした？」といわれそうだが、確かに自分語りである。ちょっと二次創作にも関係するような話。

　かなりのおじさんとなったぼくだが、若い頃にはふつうにおたくで、TRC時代からコミックマーケットに参戦していた。もちろんその頃にはまだ格ゲーらしい格ゲーもNEOGEOも存在しなかったわけだが、とりあえずこの方面でのカップリングの意味は理解しているつもりである。
　そしてやってきた90年代後半の格ゲー全盛期、NEOGEO格ゲーはもちろん同人界隈でも最高に盛り上がっていた。たぶんその頃の人気カプではやはり京✕庵がトップに来ていたのではないかと思う。いや、別に統計を取ったことがないので確証はないが、会場に並んでいる本の表紙を見るかぎり、そんな感じではあった。
　というような王道カップリングに対し、当時のぼくがどう感じていたかというと、

「え？　こいつらの場合、少なくとも庵は京の存在を許せないくらい憎んでるんだよ？　チャンスがあれば殺すんだよ？　そんなふたりがくっつくわけないだろ？　こいつらがいちゃつくとか同棲するとか、オロチが復活して人類が滅んでもありえねえし！　ふたりのこの関係性がなかったら、そもそも『KOF』が成り立たないだろ！　京✕ユキこそ至高！」

　とか思っていた。口にこそしなかったが、心の中では本当にそう思っていた。これはぼくが男だからだとか、対象が男と男の同性カップリングだからというわけではなく、たとえそれがヘテロなカップリングであっても、許容できないものは許容できなかった。
　たとえば、「リョウとくっつくのはキングか香澄か？」問題であれば、キングはうっすら許せても香澄は許せない。なぜなら、当時の公式が考えていた両者の関係性は、「香澄はリョウに対して激しいライバル心と同時にほのかなあこがれをいだいているが、リョウは香澄を藤堂の娘、将来性のある格闘家のひとりとしか見ていない」だと、ぼく個人はそう受け取っていたからである。だからリョウ✕キングはアリだがリョウ✕香澄は許容できないし、ユリの場合もロバ✕ユリしか認めない。
　公式こそが最大手、公式が提示したものから大きくはずれた関係性は認めない――つまり、昔のぼくはそういう頑迷さの塊だった。もちろん、趣味嗜好の違う人たちを否定したりはしないが、公式以外のカプを推す人たちとはちょっと判り合えないな、と感じていたのは事実である。

　が、それもあくまで90年代の話。
　2000年代に入ってすぐ、旧SNKの倒産というたとえようもない悲劇があり、NEOGEOの隆盛期は終わりを告げた。格ゲーブームも去り、数あるゲームジャンルのうちのひとつとして命脈をたもつばかりとなった惨状を見た時に、ぼくは思ったのである。自分の趣味に合わないカプがあろうがなかろうが、公式そのものがなくなるよりはよっぽどましだ、と。
　何だろう？　もともとすごく頑固だったジジイが病気で生死の淵をさまよって生還してきたら、何だか急におだやかで寛容なおじいさんになったみたいな感じ？　ぼくの心持ちはそのくらい変化した。
　いったんは絶滅したかと思われていた古代NEOGEO民が実は生きていた！　だったら多少の主義主張の違いなんかにこだわらず、みんなでこの先も生き延びていこうよ！　新規参入者？　OKOK、どんなカプが好きでもいいし、カプ好きじゃなくてもいい、対戦勢でもコスプレ勢でもとにかくSNKのゲームやキャラが好きなら大歓迎！　みんなまとめてSNKファン、そこに何の違いもねえだろうが！　……という具合に、今は思っている。
　たぶんこれは、旧SNK倒産からの復活＆NEOGEOの終焉というあたりから、ぼく自身が単にノベライズを書くだけではなく、外部スタッフとしてゲームの製作やイベントにかかわり、どうにかまたファンを増やしていこう、離れていった人たちをまた呼び戻そう、みたいなことを強く意識するようになっていたこととも関係していると思う。
　当時の偉い人たちも、アッシュ編や『MI』シリーズの認知度を上げようと積極的にイベントを開いたりしていた。そして、そういうイベントに熱心に足を運んでくれる人々の中には、かつてのぼくとは明らかに趣味が合わなかったであろう強火のファンたちがかなりの数いたと思う。
　以前の記事でも触れたが、あの時期ですらすでに20年も前のことなので、最近のお若いファンのかたがたには通じないのかもしれないが、とにかく、『KOF』に代表されるSNKの各シリーズは、ここへ来るまでに天国と地獄を味わってきている。それを経験してきたぼくからすると、どんな嗜好であろうと、ファンがいてくれるというのはありがたいことだし、まあ要するに、古参も新参も、対戦勢もキャラ萌え勢も関係なく、うまく融合して界隈を盛り上げていってくれたらいいな、と思う次第。

　あ、ちなみに、ジョー✕リリィは公式が認めてもビリーが認めない。