嬉野対談

「正義」から脱線し続けよう。一生ものづくりをするために、ぼくらは同じ仲間と同じ場所に留まり続ける。

2014年、ビル・ゲイツはちょうど「味わい深い言葉」だった。

T木:
では、第二部も始めてまいりましょう!

上田:
どうぞよろしくお願いいたします。

嬉野:
机にチーズがありますね。

T木:
先ほどの藤村さんの残骸が。

嬉野:
多少、藤村感を感じつつ。

T木:
第一部も相当盛り上がっていただきまして。

嬉野:
第二部は盛り上がりませんよ。ここからどんどん深まっていくというね。

T木:
毎度そういう構成になっております。

上田:
あ、そうなんですね。

嬉野:
適当に言ってますけどもね。それだけのお客さんだと思ってますから。途中でわかんなくなっても付いてきてくれるだろうと。信頼だけはあるので。

嬉野:
第一部の中でも『ビルのゲーツ』の話が出てましたよね。オレが妙に印象に残ってるのは中身もそうなんですけど、発想の話で。

楽屋で「『ビルのゲーツ』ってどうやって発想したんですか?」って聞いたら、「今一番のトレンドは何やろう?って考えてたら、思い浮かんだのがビル・ゲイツだったんですよ」って上田くんが話してくれたのよ。覚えてない?

上田:
んー、覚えてないかもしれないです。

嬉野:
ビル・ゲイツの中に、ビルとゲートの複数形であるゲーツが並んでいるから、ビルの中にゲートがあってそれを一個ずつクリアしていくって話にすればいいんだっていう順番で考えたって言ってたんです。

そこで私が一番面白かったのは、物語の発想の入り口を自分の外に置いているっていうことなんだよね。

上田:
なるほど。ビル・ゲイツという、他人ですよね。

嬉野:
そうそう。

嬉野:
さっき「デザイナーかアーティストか」っていう話があったけど、上田くんはきっとやりたいことはあると。やりたいことはきっとあるんだけども、じゃあ今回どういう話をしようかっていうところで、そこを自分で考えるんじゃなくて、発想の出発点が完全に外にある。ビル・ゲイツっていう人がポンと浮かんで、そこから考え始めるっていうところが面白いなって。

『ギョエー!旧校舎の77不思議』のチラシにも「僕はそもそも理数系で怪異や怪奇現象へは懐疑的です」って書いてあるんですけど、物事を考え込む最初のきっかけを自分の外に置いてしまえるのは面白いなと思いました。

上田:
今のお話を聞いて思い出しました。ビル・ゲイツは、たぶん丁度いい時期やったんでしょうね。2014年ですかね。ビル・ゲイツが全盛の時期という意味ではなくて。

上田:
僕がすごい好きなのは、システムと人との関わりみたいなところなんです。虚像であり、なおかつ、ちょっとタイムリーなトレンドとはいえないくらいの立ち位置だったビル・ゲイツって、今お芝居にするには丁度いいなぁみたいな感覚があって。

その時に「ビル・ゲイツ。あっ、ビルのゲートの複数形!『ビルのゲーツ』だ!」ってタイトルを思いついたんですよ。もちろん、そのタイミングでは芝居の中身は何もないんですけど、「これは十年に一度しかひらめかないタイトルや!」と思いました。だから、もう絶対お芝居にすべきだって。

会場:(笑)

上田:
僕、お芝居を作る時って、タイトルから
なんですよ。基本的に。

本線さえはっきりさせておけば、どこへ脱線したって面白い。

嬉野:
『ロベルトの操縦』っていうお芝居もあったよね。なんか、いきなり走ってるっていう。

上田:
はい。『ロベルトの操縦』って移動コメディがあって、物語の舞台は砂漠の駐屯地なんです。ロベルトっていうのは、バイクというか、巨大な謎の SF 的な乗り物やと思ってください。

で、駐屯地には兵士たちがいて、ラッパが鳴ったら出動しなきゃいけないっていう状態なんです。そういう任務で2週間キャンプ地にいるんですけど、延々とキャッチボールしてるだけで、暇なんです。だけど、いつラッパが鳴るかわからなくて、でも鳴らないだろうって思っているような時に、砂漠の2㎞先にコーラの自販機があるらしいという噂を聞いて……。

嬉野:
あんまり勝手に駐屯地を離れちゃいけない状況なんですよね。

上田:
そうです。でも、ロベルトに乗って、ちょっと自販機でコーラを買って帰ってくるぐらいいいんじゃないか?っていうところから始まる劇で。
舞台には大きな乗り物があって、それが走り出すと背景が動くんです。サボテンが通り過ぎたりとかする。

嬉野:
仕組みとしては古典的
だよね。背景が動いて走ってるように見えるっていう。

上田:
そうですね。

嬉野:
その演劇でオレが感心したのは、駐屯地をそんなに離れちゃいけないっていう前提があって移動してる時に、離れちゃいけないって場所をお客も意識してしまうってことなんだよ。

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