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「ほっとする町」嬉野さんの言葉の切れはし#270

観光地ではなく、普通の生活を営みながら普通に古びてしまった町だからこそ落ち着いた生活感が漂っていて、ぼくは、ほっとするのです。
--嬉野雅道

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ある時、うちの奥さんと二泊三日でバイク旅に出かけたことがありました。
ちょっと遅い夏休みをね、いただいたのでありますよ。
で、カミさんは、ぼくに聞きました。
「どこに行きたい?」
「久しぶりだからあんたの行きたいところに連れてってあげる」
って。
でもね、ぼくには、とくに行きたいところは無いのですよ。
そう言いましたらね、
「行きたくないなら別に無理して行かなくていいよ」
そう言って、不機嫌になりましたが、そうではないのです。
行きたくないのではけしてない。とても行きたいのです。
ただ、行きたいと強く思う場所がとくに無いだけなのです。
おかしなことを言うようですが、ぼくが見たいのは、どこかへ向けて走る途中、不意に目の前に広がる風景の中にあるのです。
カミさんの運転するバイクの後で、これまでもそんな風景をたくさん見てきました。それはどれも、けして有名な観光地などではないのです。
ただただ普通にさりげなく古びてしまった町なのです。
「あぁ、こんな町が今でもあるんだ」
そう思える町に、移動中、不意に出くわすことがあるのです。
そんな町は有名な観光地ではないから「行ってみたい」目的地には、なかなか挙がらないのです。
でも、観光地ではなく、普通の生活を営みながら普通に古びてしまった町だからこそ落ち着いた生活感が漂っていて、ぼくは、ほっとするのです。
そういうほっとする町に不意に出くわす度に、ぼくはワクワクするのです。ぼくが感じる旅の醍醐味は、どうやらそんな瞬間にあるらしいのですよ。
--嬉野雅道(水曜どうでしょうディレクター)

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