母の人生を想う

母が入院している病院とは、すでに3年以上の付き合いになる。緩和ケア科はあるのに、緩和病棟はなく、今後のために実際に探してみると、意外にも都内にある緩和病棟は少ない。しかも、どこもいっぱいで、まずは初診面談の予約をする。面談が終わってから、保険の範囲内のベッドがすぐ空くことはなく、差額ベッド代がかかるベッドからなら入れるということもよくあるそう。ちなみに、初診面談費用は保険外で、都内の某病院は24000円。そして差額ベッド代が、30000円台。

第一希望の病院は、近所でよく知っているところだけど、それ以外は馴染みもないし、どちらにしても、また一から医師や看護師と新しい関係を築くのも大変だし、人見知りの母にはかわいそうかと思い、家に連れて帰ることにした。

退院前に、病院のベッドに近い仕様の新しい介護ベッドを部屋に準備するため、何十年も捨てられネーゼで、モノにあふれる母の部屋を、この数日ひたすら断捨離している。

一応、母には断っておこうと思い、介護ベッドくるからたくさん捨てるよ、と言うと、いつもは、あれは捨てないで、これは捨てないでと言う母が、今回はすんなり、いいよ、と言った。それはそれで、少しさみしくなった。

断捨離中に、母の若いころの写真が出てきた。これまで、見たことがなかった写真ばかりで、私が気がつかなかったのか、興味がなくて見過ごしていたのかわからないけど、美しくて、まばゆい笑顔の写真ばかり。

父と出会ったころの写真もあり、あんなふうに二人で笑い合う仲の良さそうな恋人同士の二人は、実際には見たことがなかったような気がしたので、知らないカップルに思えてしまうぐらい不思議な感じ。

でもあの笑顔を見る限り、母はあのころ、父と出会って幸せだったんだろう。

エイミーアダムス主演の映画「Arrival」では、もし将来自分に辛い出来事が起こると知っていても、その人生を選ぶかどうかを問われる。

母の若いころの写真を見ながら、映画のことを思い出して、今こうして寝たきりになって、激しい痛みと戦いながら、毎日をなんとか乗り切るという将来を知っても、母は同じ人生を生きたいと思っただろうか、と考えた。



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