期間工とマルチの勧誘─デンソーマンはマルチで一攫千金の夢を見るか─

──────株式会社デンソー
世界二位、国内一位の自動車部品メーカー。トヨタ系列のサプライヤーで、トヨタ自動車の電装部を前身に持つ。主な製品は車載エアコン、エンジン点火プラグ、燃料ポンプ、モータージェネレータ、車載インバータなど。売り上げは連結5.18兆円。デンソーに勤める人間を俗にデンソーマンと呼ぶ。────────────

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・はじめに

 みなさんはマルチ商法やそれに類するモノの勧誘を受けたことがあるだろうか?
「スマホ一台で空いた時間にできる副業」とか、「スマホ一台で簡単にできる投資でリッチニート」とか、誰が考えたのかもわからない謳い文句を繰り返してるアレである。
 自分もそうだったが、実は直接勧誘を受けたことがあるという人は少ないのではないだろうか?自分はオウム真理教とか極左暴力集団とか割りと好きなタイプで、そういう世間が忌避するモノに惹かれる性質である。そんなわけで、マルチ商法の勧誘を受けたくなるわけだが、自分は20代後半で彼女も友達もおらず、趣味もろくに持っていない人間であり、当然そういうちょっとアレな人達とリアルで繋がれる筈もない。しかし、時代は便利になったもので、リアルがダメならネットがあるじゃん!という訳でネットで勧誘を受ける事にした。

・実施方法


 自分は、00年代後半のニュース速報VIP板の影響で出会い系サイトでネカマをやったり、ネットで拾った人間の画像を使って普段の自分とは全く別の人格を演じたりすることをかれこれ10年ほど続けている。(本当に虚しい趣味だ……)その中で、出会い系サイトやマッチングアプリといったサービスの中には、かなりの人数のマルチ商法勧誘員が潜んでいることも体感として知っている。彼女(?)らは受け答えも自然で、意味のある会話が成り立つし、突然失礼な事を言えばブロックされたりとかなり人間らしい振る舞いをしており、botである可能性は低いと思われる。
 最近は無料でもそれなりに使えて、アクティブユーザーの数が多いという事で、Tinderを主に使っている。
 Tinderの使い方と流れとしては、ひたすら出てくる女の画像を右にスライドしまくる。10人に1人くらい顔面にピアスが20個くらい空いてそうな女も見かけるが気にせず右にスライドし続ける。(右にスライド→いいねの意味、相手からもいいねされるとマッチングとなり、チャット開始できる)
運よくマッチングすれば軽く挨拶をする。しかし、半分くらいは「よろしく!」と送っても何も返事が帰ってこない。挨拶も返さない根性で恋人ができたり、スマホ一台でリッチニートになれると思っているのか?

・実施結果

 今回はその中から印象に残っている事例を一例紹介したい。
普段のようにTinderでひたすら右スワイプしていると、海外の高級ホテル?のような場所を背景に、高そうな服を着た女とマッチングする。すると、いきなり、「Tinderあんまり開かないからLINE交換しない?」と言われる。おきまりのマルチ商法勧誘パターンである。
 言われるがまま、LINEを交換すると、挨拶もそこそこにスマホ一台で簡単にできる広告の仕事に興味ない?との決まりのセリフをぶっこんできたので、興味あると返信する。
すると、一回通話して話たいというので、通話して会話をする。

通話の内容は、
スマホ一台で簡単にできる仕事がある(マルチ)
→仕事とは具体的に何か?(ぼく)
→日本で展開されていないスマホゲームの宣伝をネットに書く(マルチ)
→ネットに書くとは具体的にどこに書くのか?レビューサイトなどか?(ぼく)
→概ねその通り(マルチ)

事業はそのスマホゲーム一本か、他のゲームを扱ったり、事業の多角化はしていないのか?(ぼく)
→他ゲームを扱ったり、事業は多角化されていない(マルチ)

正直要領を得ないので上役と話せないか?(ぼく)
→了解した(マルチ)

と要約するとこんな感じである。

 箇条書きで書いたので割りと纏まって見えるが、本来はかなり詰まったり、語彙が足りなかったりでめちゃくちゃだった。意図を汲み取ろうと努力した自分を褒めてほしい。
 レビューサイトでの宣伝ってそれステマじゃん…とか、景品表示法的にどうなんだ?とか思ったりするが、ツッコミ始めるとキリが無さそうなので置いておく。

・彼女がマルチになった理由について


 マルチの底の浅さにも辟易したので、彼女の個人的な話を聞くと、
・半年前までデンソーで期間工をしており、燃料ポンプの出荷検査の仕事をしていた。
・コロナ禍の下、いつ切られるか分からない期間工という不安定な身分に不安を感じたのでこの仕事を始めた
・両親はデンソーの正社員で、正社員になれと言われたがなんとなく断った。
・期間工時代の収入は多い時は手取り30万で正直今の仕事より多い。
・ツイステ(ディズニーツイステッドワンダーランド)が好き。多い時は月10万課金した。
などいろいろな話を聞き出した。
 話を聞き終わると、暗澹たる気分になる。彼女はまだ24歳らしいが、その若さで世間の。そして、マルチ商法にハマった人間というのは単なる被害者ではない。マルチ商法が会員数がねずみ講式に増大していくことを前提に金銭を得るシステムである限り、彼女は自分と同じ道に他人を引き込み続けなければならない。それは、彼女は単純な被害者でなく、同時に加害者でもあるということである。その果てにあるものを想像すると本当に哀しい。

・彼女の背景についての考察


 ここからは、彼女がマルチ商法をという生き方を選んだ理由を自分なりに考えてみたい。
 まず、このコロナ禍に期間工という不安定な身分であったことは確実に理由の一つだと考えられる。デンソーを始め、自動車部品メーカーはかなりの大打撃であり、期間従業員の延長契約は難しいだろう。
 第二に、彼女が担当していた燃料ポンプが、400万台を超えるメガリコールになり、その対策予算としてデンソーは2200億円を拠出した(詳しくは下記記事参照)

デンソー欠陥問題がホンダに波及、判断遅れ計479万台リコールへ https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/04446/?n_cid=nbpnxt_twbn

(余談だがデンソーはちゃんとDRBFMや工程FMEAをやっていたのだろうか?おそらくVAで生産性を向上するため金型余熱時間を短縮したのだろうが、実施していれば当然変化点として抽出されるべき項目である。抽出された項目に対して理屈付けやトライが行われるのが一連の手順であり、それを怠ったデンソーの代償は大きい)

当然、この規模のリコールとなれば、現場はてんやわんやだろう。彼女が職場や会社に大して不安やストレスを感じても不思議ではない

第三に、リコールの話が出る前になるが、デンソーとトヨタ系中堅部品メーカー、愛三工業の間で燃料ポンプ、電子スロットル等の一部事業を譲渡し、デンソーから愛三工業への出資割合を引き上げるという決定があった(下記記事参照)

デンソー、愛三工業の筆頭株主に CASE対応で効率化急ぐ: 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45019990Q9A520C1000000


 このような事業再編の背景として、デンソー等のメガサプライヤーは電動化や自動運転、コネクティッド(これらをまとめてCASEという)対応にリソースを当てるため、””枯れた技術””であるエンジン関係部品を再編する傾向にある。(他社の例として、アイシン精機とアイシンAWの統合など)
自らの職場の製品が、将来性がないから他所に売り飛ばすと言われば、正社員登用試験を受けようとは思えないだろう。
 以上の三つの理由から彼女はデンソーの正社員登用試験を受けなかったと推察される。デンソーに限らず、自動車メーカー、自動車部品メーカーの正社員登用試験は狭き門である。正社員登用されれば、不安定な身分から解放され、給料も上がるからだ。デンソーを始めとした自動車産業界の工場労働者の給料は、夜勤や残業ありきとはいえ高卒女性水準としてはかなり高水準であるろうし、福利厚生や年末年始や盆の長期休暇も充実している。
 昨今の女性登用の流れから、現場でも女性活用を推進しよう動きがあり、会社としては、女性社員を増加させたい思惑がある。本人が望めば上司や同僚もサポートしてくれるだろう。しかし、工場の仕事にやりがいを感じられなかったのか、会社や製品の将来性に希望を持てなかったのか、はたまた、能力的に正社員に推薦されるだけの能力を持たなかったのか、そうはならなかったのだが……

・マルチの上司?

 実施結果であったように、翌日には彼女の上役の女を紹介され、またLINEで面談をする。勧誘文句は似たようなものだったが、デンソー女をマルチの道に引き込んだだけあって、話し方は堂々としていた。中身は全くなかったが。
 一応、彼女がなぜマルチを始めたのか聞いておくと、もともとネイリストをしていたが、ネイリストはあまり収入が良くなく、副業を始めた。ネイルの仕事は好きだったが、副業が順調になってきたので、ネイルも辞めたらしい。デンソーマンに比べれば、背景に何一つ人間が社会で生きていく上での苦しみや葛藤の生々しさを感じられず、浅い人間に思えてしまう。人間的にあまり関心を持てそうにもない。
 そんな人間の相手をするのも飽き飽きしてきたので、具体的に何円稼いでいるのかを聞く、しかし「自分はプレーヤーとしてのステージを終えて、みんなにこの仕事を広めるフェーズに入ったので~」とはぐらかされる。しかし、そこで引き下がる自分ではない。必死に食い下がり、最終的に”プレーヤーとして”何円稼いでいたのかを聞く。またしても、「自分の給料に言える?嫌ちゃう?w」などとはぐらかそうとするので、「月収24万!」と絶叫する。相手は黙る。
 その後、相手は、「ビジネスパートナーは信用が大事なので直接会って話したい~場所は名古屋の栄でw」など言うが、さすがにマルチ商法の人間と会いたくはなかったし、この緊急事態宣言下で見ず知らずの人間と会いたくもない。(プルデンシャルゴリラみたいな人間が出てきたら気圧されて契約させられそうだし…)、適当に最近予定詰まってwみたいな事を言って、会う約束は逃れた。その後なにも連絡はないし、こちらから連絡もしていない。


・マルチ商法にハマる人間についての考察

 普段から、怪しい商売の勧誘を受けて、適当なコミュニケーションをとり暇を潰すという行為はしてきた。しかし、今回ほど、相手がその商売を始めた背景を知れたのは初めてだった。
 自分はマルチ商法のような怪しい商売の勧誘が好きなのは、そういう怪しい商売に走ってしまう人間の「スマホ一台でリッチ生活」の如き人生のワープゾーンが存在していると信じてしまう浅はかさが好きなのだろう。
 人間は何者かになりたいのではないかと思う。キンコン西野のオンラインサロンの映画、「えんとつ町のぺプル」の観客の異常さが一部インターネットで話題になっていますが、オンラインサロンに入っている人間は「人とは違う自分になりたい」「人より優れた存在になりたい」「特別になりたい」という思いがあるのではないかなと感じる。
 オンラインサロンしかり、マルチ商法しかり、そういう人たちは「何者かになりたいが、何も持たない人」が多いように見える。世間の人間はほとんどの人間がそうで、その気持ちと折り合いをつけて生きている。しかし、オンラインサロンやマルイ商法にハマる人たちはそういう自分が許せないのではないか?しかし、具体的に何になりたいのかビジョンや手段を持たないからどこのだれともわからない、怪しくて搾取の臭いがする商売に巻き込まれてしまうんだろうと思う。
 大概の人間にとって、人生はままならないものだろう。目の前にちらつかせれた希望を疑いもせずに飛びついてしまうのが人間の性だと思う、私もイギリスEU離脱の際に「イギリスが離脱するはずないし、為替ボーナスステージやんけw」と思って100万近く損したことがある(現実を直視するのが怖くて正確な数字は数えていない)。
 オンラインサロンやマルチ商法にハマった人たちは自分とかけ離れた存在ではない。私も自己顕示欲があるから、こんなくだらないNoteを書いてる。     
 また、本当に醜悪なのは、人生がままならないゆえにマルチ商法に手を出してしまった哀れな人間を馬鹿にして、娯楽として消費してる自分のほうなのかもれない。

 醜悪な自分への自戒と、自分の別の可能性だった期間工への祈りを込めて、このNoteを終わりにしたい。

 なかなか書き進められず、5日くらいかけた割にはおかしな文章になっていると思うが最後まで読んでくれた方には、心から感謝申し上げたい。