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【カルデア猫食堂】大きな大きなパンケーキ

 カルデアの食堂は今日も大繁盛。でも、その日その時、誰がいるかは運次第。
 赤い弓兵は大当たり。栄養満点母の味。
 黒い弓兵はSSR。出現率も味も五つ星。
 狂気のケモノはサブチーフ。料理の腕は確かだが……?
 
 
 なんだか夜中に目が覚めて、なんだかそのまま眠れなくって、わたしはなんとなく部屋を出た。どこもかしこもまっくらで、廊下をうろうろさまよって、灯りを見つけて扉を開けると、出迎えたのは猫の人。
「おや、どこの夜ふかしガールかと思ったらバニヤンではないか。いらっしゃいませだワン」
「あの、なんだか眠れなくって」
「ふんふん、わかるわかる。今宵は満月だからな!」
「?」
「そんな日もあるということだよ、ガール。そうだろう? そこな三色ガール?」
 ガタガタッと音がして、わたしが入ってきた扉から、今度は白いヴェールのお姉さん、アルテラさんが現れた。
「……夜更かしは悪い文明では?」
「……」
 なんだか怒られているようで、私は小さくなってしまう。
「そうとも限らぬ。二人とも座るがよい」
 わたし達は同じテーブルに並んで座る。わたし、アルテラさんは少し怖くて少し苦手。
「ふむ、ふーむ。ではおやつにしよう」
 キャットさんはわたしたち二人を見渡して、突然そんなこと言い出した。
「夜中におやつ⁉︎」
「悪い文明か⁉︎」
「そうとも、真夜中のおやつは悪い文明。だが、たまには悪い文明が良い時もある。つまり、今夜のおやつは良い文明だ」
 思わずアルテラさんを見ると目が合った。そして、二人揃って首を傾げて、二人揃ってキャットさんに視線を戻す。
「よくわかんない」
「悪い文明が……良い……⁉︎」
 二人分の困惑を向けられても、キャットさんは涼しい顔。
「だが、この良い文明は悪い文明なので他の者には内緒だぞ。特に赤い人にはな」
「よくわかんない……けど、おやつ食べたい! 内緒にする!」
 わたしはおやつが食べられるなら何でもいいけど、アルテラさんはまだ混乱してるみたい。なんだかちょっとかわいいかも。
「さてガールズよ、好きなおやつは何かな?」
「パンケーキ!」
「パンケーキ。知っているぞ。あれは美味しくて良い文明だ」
「よーし、ではパンケーキを作るぞ!皆でな!」
「わーい!作ろう!」
 キッチンへと向かうキャットさんについて行こうとしたけれど、アルテラさんは座ったまま。
「アルテラさん?」
「いや、私は遠慮しておく。その……多分壊してしまうからな……」
「アルテラさん……?」
「すまない。私のことは気にせず二人で作るといい」
 そう言ってアルテラさんは背を向ける。どうしようどうしよう。事情はさっぱり分からないけど、このままアルテラさんが行っちゃうのは何だか嫌だ。
 何て声をかけたらいいか分からなくて、キャットさんに視線で助けを求めると、キャットさんはにっこり笑って、後ろからアルテラさんに抱きついた。
「大丈夫だアルテラよ! 一緒にチョコも作ったろう? 今日も猫の手はここにあるぞ!」
「そ、そうだよ! 一緒に作ろう? わたし、アルテラさんの言う文明の良いとか悪いとかよく分からないけど、一緒におやつを作って食べるのは、きっと楽しいから、きっと良い文明だよ!」
「……」
 アルテラさんは悩んでいたけど、二人で励まして、結局三人で作ることになった。あんなに怖かったアルテラさんにも怖いものがあるなんて何だか不思議。
 
「そう、いいぞ。さっくりと混ぜるのだぞ」
「こう?」
GOODキャット! アルテラよ。ホットプレートの準備は万端か?」
「ああ、言われたとおりにしておいた。温まっているはずだ」
「わあ、このホットプレートおおきいね!」
「エミヤが錬成した巨大ホットプレートだぞ。一度にたくさん焼けて便利なのだワン! さあ、まずはアタシのお手本を見るが良い!」
 キャットさんがぽたあんと生地を落とすと、綺麗な丸がホットプレートに描かれる。
「次はわたし!よい、しょ」
 わたしがぽたあんと生地を落とすと、どうにかぐにゃっとした丸になる。
「よ、よし。やるぞ……ふぅ……」
 アルテラさんがぽたあんと生地を落とすと……うん……。
「ど、どんな形でも美味しくなるから、パンケーキって良いよね!」
「バニヤン……その……ううん……あり、がとう」
「!」
 すごい! アルテラさんにお礼を言われちゃった!
「うんうん、ではキャットはトッピングを用意する故、二人は見張りを頼んだぞ。ぷつぷつと穴が増えてきたら、しゅっとひっくり返す合図だワン」
 キャットさんが離れて、アルテラさんと二人きり。でもなんでだろう。今はちっとも怖くない。
「なあ、バニヤン」
「うん」
「まだ生地はたくさんあるし、もう一枚焼いてみてもいいだろうか。練習は良い文明と聞いた」
「いいんじゃないかな! たくさん焼こうよ!」
「よし、今度こそ」
 ぷるぷる震える手でおたまを掴むアルテラさん。力加減が難しいみたい。わかるなあ。わたしもよくやりすぎちゃうから。
「あっ!」
「あっ!」
 
 ガシャン‼︎
 
「どうしたガールズ! 猫の手が必要か⁉︎」
 大きな音を聞きつけて、キャットさんが飛んできた。
「……」
「……あのね」
 項垂れているアルテラさんに代わって、わたしはキャットさんに説明した。アルテラさんががんばっていたこと。右手のおたまに集中し過ぎて左手のボウルをひっくり返してしまったこと。そのせいでホットプレート全体が生地で埋まってしまったこと。
「すまない。やはり、私は……」
「ちがうよ! アルテラさんはわるくなくて……!」
 アルテラさんはわるくない。でも、どうしたらいいのだろう。
「二人とも」
 キャットさんはホットプレートから目を離さないまま、真面目な声で言った。
「これを見るがよい」
「……」
「……」
「二人には仕事を頼んだはずだが?」
「……? ……あっ! そうだよアルテラさん! 見張り!」
「ぷつぷつしている! 猫の人よ! ぷつぷつしているぞ!」
 キャットさんはにっこり笑って
「よーし! 全員でひっくり返すぞ!」
 
「「「せーの!」」」
 
 巨大ホットプレートいっぱいのパンケーキを三人で無理やりひっくり返す。もちろんは上手くいくはずもなく、パンケーキはちぎれてボロボロだ。
「あははは! めちゃくちゃだね! あははは!」
「あははは! キャットのハンドを以てしてもこれは無理があったな!」
「……ふふっ」
 大笑いするわたしとキャットさんに釣られて、アルテラさんも笑い出す。
「アルテラよ、バニヤンの言葉を覚えているか?」
「どんな形でもパンケーキは美味しい」
「そうだよ! 形はめちゃくちゃだけど、美味しいパンケーキがたくさんだよ! 楽しみだね!」
「ふ、ふふふ。そうだな、私も楽しみだ」
 そう言って微笑んだアルテラさんはすっごくキレイなお姉さんで、わたしはこの人の何が怖かったのか、もうすっかり忘れてしまった。
 
「「「いただきます!」」」
 
 大きな大きなパンケーキ。みんなでちぎって生クリームとフルーツを乗せて。
「良かろう!」
「トレビアーン!」
「これは良い文明」
 深夜のおやつはきっと悪いことだけど、今日だけはとっても良い文明。だって、ここにはわたしの好きなものが揃ってる。みんなの笑顔とパンケーキ。それに、新しい友達も!
 
「ところで二人はこんな言葉を知っているか? 『大きいことは良いことだ』!」
「すてき!」
「良い言葉だ」
「ジョン・レノンの言葉だ」
「いいぞジョン!」
「ジョンは良い文明だ」

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