スピリチュアル父さん/まぐろ
父とパソコン
休みの日、父はパソコンにイヤホンを繋いでパソコンと繋がれている。
運命共同体のような一体感。
どこで見つけてきたのか、おそらく2mくらいのコードのイヤホンを使っている。
そのコードが長めのイヤホンにより、動画を聴きながら部屋をうろつけるという技ができるらしい。
父はいつも動画サイトで旅やキャンプ、歴史や政治などの動画を見ている。片足をベットにかけながら横になり、足をYの字に開くという不思議な格好で。
見慣れているが、なかなか面白い光景だと思う。
まぐろ
動画を見終えたのか、リビングに出てきて父が午前中に買ってきたものを冷蔵庫から取り出した。
わざわざパッケージに書いてある文を丁寧に、
「まぐろ切り落とし熟成、まぐろ切落し(生食用)」
と文字を初めて読むかのように読み上げて、食べるかと聞いてきた。
「食べる」とわたしが答えて間も無く
なんだこれは?とわたしが買ってきたロールケーキを手にとって包装を剥がしながら
「俺はこれを食べることにする。直感でそう思ったから、食べるんだ。」とひとりで言いながら
そのまま一切れ口に入れた。
「これ美味しいねぇ。クリームが美味しいな。うん。これは栗だな!」
と言った。
わたしは「いや、それ安納芋だよ。安納芋。」と教えた。
栗が芋だったことはどうでもいいのだ。ただ、父はたまにズレているのだ。
そのまま父が自室に戻っていってしまったあと、スマホでnoteの文を作成していると、またしばらくして父がリビングに戻ってきた。
何か調べ終えたか、見終えたのだろう。
そして、再び一切れだけロールケーキを食べた。気に入ったというのだけはわかった。食べたら、また自室に帰っていった。
ところで、とわたしは思う。
まぐろの話はどこにいったのだ。
父はまぐろのことはさておき、動画の世界に戻っていってしまった。
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