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3. ビットインスタントとシルクロード

チャーリー・シュレム

ビットインスタントは、2011年に、チャーリー・シュレムが立ち上げた、米国ドルなどの法定通貨でビットコインを買うためのサービスを行っていた会社です。同社は、米国のニューヨーク州で活動していました。ビットインスタントの「売り」は、その名前が示すように、ビットコインを瞬時に手に入れることのできるサービスでした。当時、マウントゴックスでビットコインを買うためには、数日を要したため、ビットインスタントのサービスは、ビットコインを初めて買う顧客層に、好意的に受け止められたようです。また、同社は、ウォルマートやマネーグラムで米国ドルを払うことで、ビットコインを買えるサービスを提供することで、ビットコインを買うルートを増やしていました。

このように、初期のビットコインの普及に貢献していたビットインスタントですが、同社は、2014年2月に、チャーリーの資金洗浄の容疑で逮捕されたことを受けて閉鎖されました。チャーリーは、2014年12月に懲役2年の刑を宣告されました。チャーリーの資金洗浄の容疑は、シルクロードで違法薬物等の取引が行われていることを知りながら、そこでビットコインを売って違法薬物等の取引を促進する可能性を理解して、通称ビットコイン・キング(ロバート・ファイエラ)に対してビットコインを売ったことでした。この他、疑わしい取引の届出を行わなかったことなども糾弾されています。

シルクロード

シルクロードとは、ビットコインのみで決済することのできるメルカリと考えていただけると分かりやすいと思います。具体的なサービス内容をFATF(金融活動作業部会)の2015年6月付報告書(Guidance for a Risk-Based Approach - Virtual Currencies)から要約のうえ引用します。

・シルクロードは2011年1月に開設された。
・シルクロードには、売主が商品・サービスを出品し、買主がビットコインを使ってこれらの商品・サービスを買う機能が提供されていた。出品された商品・サービスは違法なものであった。
・シルクロード運営者の手数料は取引額の8%から15%に設定されていた。
・シルクロードにアクセスするためには、TOR(The Onion Router)を使って匿名性を維持しないとアクセスできなかった。
・決済手段をビットコインに限定することで、売主と買主の匿名性を維持することができた。また、ビットコインのアドレスは取引ごとに別のアドレスを使うことで、より一層の匿名性を確保できた。
・シルクロードで商品・サービスの売買をしようとする場合、シルクロードが、秘密鍵を管理するビットコインのアドレスを作成しなければならなかった。
・売買契約が締結されると、買主のアドレスからビットコインが別のアドレス(エスクロウ・アドレス)に移転され、売主から買主への商品の引渡しまたはサービスの提供が確認された段階で、ビットコインは、エスクロウ・アドレスから売主のアドレスに入庫された。
・売主が、そのアドレスからビットコインを取り出す際は、タンブラーを通して送付されるようになっており、売主とビットコインの紐付けが困難となる仕組みが装備されていた。
・違法な物品・サービスを10万人以上の買主(3分の1は米国居住者であったとされる)に提供するために利用された。
・開設以降の売上は、約12億米国ドル(950万ビットコイン超)で、シルクロードの手数料は8千万米国ドル(60万ビットコイン超)であった。
・2013年10月に運営者は逮捕され、閉鎖された。

ビットコインには、シルクロードで違法物品・サービスの提供を受ける対価として利用できるという側面も存在していました。(現在も、シルクロードと同様の機能を提供するウェブサイトは存在するようです。)

チャーリーとシルクロード

資金洗浄・テロ資金供与を防止するための枠組みを遵守すると、本人確認手続きにより、口座開設する顧客を特定でき、その取引をモニタリングすることで疑わしい取引を行っている顧客を洗い出すことが可能となり、疑わしい取引を行う顧客については当局に届出たうえで、口座閉鎖を行うことが期待されています。しかし、チャーリーに対する訴追書によると、チャーリーは、資金洗浄・テロ資金供与の防止に対する意識が低かったためか、以下のような行動を取ってしまい、訴追されるに至りました。

・チャーリーは、シルクロードで違法薬物の取引が行なわれていること、及び、ビットコイン・キング(ロバート・ファイエラ)がシルクロードでビットコインの取引所を運営していることを知りながら、ビットインスタントにもたらされる利益に照らし、ファイエラの取引所運営を支援した。

・チャーリーは、ビットインスタントを通じてファイエラのために、シルクロードに供給されるビットコインを売却しただけでなく、彼は個人的にファイエラのために取引を処理し、大規模取引については割引を適用し、意図的にファイエラの取引に関する疑わしい取引報告を行わず、かつ、ビットインスタントの資金洗浄等防止のための制限を遵守する立場にあったにもかかわらず、ファイエラをしてすり抜けさせた。

違法取引に利用されることを知りながら、それを促進するような行動をとった、という点が悪質と評価できます。

技術革新 対 資金洗浄等の防止

このような事件が発生したのは、ビットコイン業界関係者の犯罪防止等への意識の低さに起因しているように思われます。チャーリーが逮捕された日に行なわれたニューヨーク州の公聴会において、技術革新と資金洗浄等の防止との関係が議論となり、当時のニューヨーク州のSuperintendent of Financial Servicesであったベンジャミン・ラウスキーの以下の発言が心に残ったので引用させていただきます。

"If the choice is ultimately is between preventing money laundering on the one hand and I probably should not use the word money laundering cause it is too nicer word frankly, money laundering is the facilitation of all kinds of horrific crimes that I think everyone in this room never wants to see happen, narco trafficking, being one but acts of terrorism funding rogue nations etc. all takes place through massive money laundering and we have it in our system right now.  If the choice for the regulators is to permit money laundering on the one hand and permit innovation on the other we are always going to choose squelching the money laundering first its simple its not worth it to society to allow money laundering in all of the things to persist in order to permit thousand flowers to bloom on the innovation side I think the question is whether we can get somewhere in between where we are comfortable, very comfortable that we are preventing the money laundering but still allowing innovation."

当局としては、良いバランスを探すものの、はっきりしているのは、資金洗浄等のリスクを冒して、技術革新を優先するということは無いと、はっきり言っているところに、ビットコインの開発者・事業家と、規制当局の価値観に大きな隔たりを感じました。このような隔たりは、現在でも存在し、FATF勧告の全面適用にあたってのトラベル・ルールの議論でも、このような価値観の違いは顕著に顕れています。

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うさぎとかめ

新技術による金融業の変化に対して、どのように規制・行政が対応するのか興味を持っています。日米の暗号資産法制を中心に研究しています。ここでは、研究の励みとなるよう、日々、思ったことを発表しています。
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