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忘病記 第一章 ヤツがあらわれた

世の中コロナコロナで会社が決めたシフトで計画休業の真っ只中だった。
俺はまるでひと足先に定年退職を迎えたかの様に日々やりたい事をやっていた。
そもそも俺は群れる事が嫌いで、1人か少人数で行動するのが主だったので、コロナはとても都合が良かった。
ひとけの無い山の中を走り回っては、その動画を撮り、誰が観るねん!と妻にツッコミを入れられながらも、YouTubeにせっせと趣味のジョギングをアップしていた。

オヤジが山で走ってる動画なんて、今思っても恥ずかしい程需要ないよな。

その頃の俺は、定年後の予行演習ができて、コロナも捨てたもんじゃ無いなぁ、、などとまるで経済の危機など他人事の様に罰当たりな事を考えたりしていた。

そんなある日、妻の冷ややかな視線を背中に感じながらも、ジョギング用のザックにGoProを入れて、近所の山に行ったのだ。

そこで、、ヤツが現れたのだ。

人々から忘れ去られた様な狭隘な谷間の県道をランニングしていた。
県道のはるか上に、谷に掛かった新しい橋脚があり、今はこの道がメインの道路になっていた。

「どうですか?こんな狭い県道のはるか頭上に、ほら、立派な橋脚があり、、これが実は新道なんです。でもノンタイトルなんです。まるで係長という役職にしがみついているうだつの上がらない初老の社員が、めちゃくちゃ仕事のできる平社員に頭越しに仕事をされるみたいな、、そんな人生の悲哀を感じませんか?」
などと、たどたどしいしゃべりで動画を撮り、、撮れ高OK!などと1人で満足していた時、それは起こった。


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