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歴37年のエンジニアが若手に求める3つのスキル~エンジニア解体新書Vol.1

組み込み設計から完成品開発までこなすモノづくり企業ユー・エス・イー(USE Inc.)。ベテランエンジニアにインタビューし、エンジニアの魅力、仕事の流儀や、若手エンジニアへのメッセージをお届けします。


最初は、代表取締役社長の市川のインタビューをお届けします。

株式会社ユー・エス・イー 市川正司社長

プロフィール:市川正司
エンジニア歴:37年
USE歴:31年


設立時のUSE Inc.と当時の仕事

設立時のUSEと当時の仕事
年間で100以上の製品に携わった設立当初の仕事内容

―平成4年(1992年)設立、昨年2022年に設立30周年を迎えた株式会社ユー・エス・イー(USE Inc.)。市川社長は、USE歴が31年ということは、設立メンバーということですね。

「そうですね。設立当初から籍はありましたが、実際に参加したのは設立1年後くらいでしょうか。USE Inc.を設立した現会長とは前職が同じで、その縁で入社させていただくことになりました。」

―当時のUSE Inc.は、組み込み設計・マイコン開発~完成品開発までこなす今のUSE Inc.の形とはだいぶ違っていたと聞いております。

「前職がNEC製品の拡販会社で、NEC製のマイコンを使ったソフト開発をしていました。NEC製マイコンは非常に優秀でしたが、USE Inc.に入社してからNEC以外のマイコンを開発する機会が各段に増えました。

当時は、国内メーカーのカーオーディオ(※1)のソフト開発を中心に行っていました。カーオーディオのアフターマーケット品が全盛期だったこともあり、年間で30マスク以上、仕向け違いを入れると100以上の製品を出しておりました。

当時は仕様書や資料が不十分な製品開発もありましたが、使用しているソフトの設計が全て頭に入っているからこそ、可能だった開発スピードです。」

※1 当時、社外品のカーオーディオを別途購入して取り付けるユーザーも多かった。

―そのスピード感で仕事をしてきた市川さんのエンジニアとしてのこだわりは、なにかありますか?

お客様の要望にはなるべく早く応えることですね。『1週間で』と、リクエストされても、可能であればその日のうち、遅くとも2、3日で完成させてきました。そうすればお客さんは喜びますよね。

それに、再度仕様変更があるかもしれないし、別のリクエストが来るかもしれません。そうやって時間に余裕を持った行動をしておけば、更なるリクエストにも応えられるし、品質を上げることに時間を使うこともできます。

ソフト開発において、時間の余裕は心の余裕です。」


仕事の流儀とその背景

仕事の流儀とその背景
ソフトへのこだわりとその作り方

―その日じゅうに仕上げるというのはすごいですね。エンジニア歴37年の市川さんの仕事の流儀のようなものはありますか?

とにかくソフトにこだわることですね。一度作ったソフトでも、気に入らないなと思ったら、作り替えてしまいます。1回で満足のいくソフトが出来上がるなんて、まずありません。作ってみて、このままではメンテナンスに時間がかかりそうだなとか、品質に問題が出るかもしれないと思った瞬間に1から作り替えます。

また、作り方にも流儀があります。私の場合は、先にソフトの一番太い幹を仕上げてしまいます。安定した土台があれば、品質はピラミッドのようにだんだんと積み上がっていくものです。太い幹を先にしっかりと作っておくことで品質を積み上げつつ、そこに細かい仕様を追加していきます。この順番で作っていくと、変なソフトにはなりにくいものです。

また、シンプルな作りのソフトにしておくと、実はバグも出やすくなります。市場に出回ってから不具合(バグ)が出るのは困りますが、逆に開発中に不具合をしっかり出しておけば、開発段階で対処することができるわけです。」

―その流儀が出来上がったきっかけなどはありますか?

データフロー作成を勉強したことですね。1年間ほど、データフロー作成にこだわって勉強した時期があります。

ソフトは目に見えないものですよね。目に見えないものを作るためには、まず絵で描いて、五つのプロセス(入力、変換、出力、状態遷移、貯蔵)全体を見える化しておくことがとても大切なんです。この経験は、技術者として一番のベースになっていると思います。」


若手エンジニアに身に着けてほしい三つのスキル

要求通りに動くソフトを作るために必要な心構え

―なるほど。市川さんのおっしゃっていることは、どれもとてもシンプルに聞こえますね。今USE Inc.には若手のエンジニアがたくさんいますが、若手に身に着けてほしいスキルなどはありますか?

「身に着けてほしいスキルですか……(しばし考える)。そうですね、三つあります。

一つめは、自分なりの作法を身に着けて確立することです。エンジニアの仕事の最終ゴールは、要求通りに動くソフトを作ることです。けれど、その表現方法は人それぞれ違います。だからこそ、いろいろな表現方法に手を出す前に、一つのやり方で習熟度を徹底的に上げてほしいですね。入社後3年間は、一つのやり方を極めるくらいで良いです。

それから、二つめが、人の作ったソフトを理解しながら、徐々にいろいろなやり方を学んで、引き出しを増やしていくことですね。」

―3年間も一つのやり方で仕事をしていけるものですか? いろいろな表現方法があるのなら、逆に焦ってしまいそうですが……。

「その気持ちはわかります。けれど、まずは自転車の乗り方を習得して、それさえあれば日本全国どこへでも行けるようにしておくことが大事です。その中で方向や、道、天気などを読む力もついていきます。自分のやり方を確立した上で、電車や車、飛行機でも行けるようになる=引き出しを増やしていくと、スピードが加わったり、対応できることが広がっていきます。

自分のやり方が中途半端な状態で、引き出しだけを増やしていくと、あれこれ迷って結局ゴールにたどり着かない=ソフトが完成しないという状態になってしまいます。」

―作ること自体も学びも、基礎をまず作るという事が大事なんですね。では、三つめを教えてください。

「三つめは、ソフトを1回で完成させようと思わないことです。どんなベテランであっても、満足のいくソフトが1回で出来上がることはありません。一般的に『①仕様書理解→②設計→③コーディング→④評価』という流れで仕事をすると思われていますが、実際は『②→③→④』を何度も繰り返します。

というのも、作ってみての気づきや評価してみて見えてくるものが必ずありますから。その気づきを取り入れて手を加えることで、完成度の高いものを仕上げていきます。

悪いソフトをごまかしたままで作り続けていくと、どこかで必ず限界がきます。この先ソフトが使われていくこと、つまり新たな機能がプラスされたり、関連するソフトが増えることを念頭において、『今動けば良い』ではなくて、無駄がないものを作り上げる心構えを皆に持っていてもらいたいと思っています。」


この先のソフトウェア業界とUSE Inc.の未来

二極化するソフトウェア技術とそこでの使命

―この業界を走り続けてきた市川さんは、この先業界はどのようになっていくと思われますか?

「そうですね、ソフトの作り方が簡単になっていくと思っています。」

―え? 簡単になってしまうんですか?

「今はゼロからソフトを作っていますが、それを組合せた部品がこれからできてくると思います。そして、その部品をいくつか組み合わせて、ソフトをつくることができるようになると思います。『部品=おもちゃのブロック』『ソフト=ブロックで作った家』をイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。今はブロックの原材料から作っているので、非常に時間と手間がかかります。

なにか製品を作りたいと考えたら、おもちゃのブロックを組み合わせて、簡単に短時間でソフトを作る時代が、いずれやってくると思っています。

そうなると、ソフトの技術者は二極化していきます。一つは、組み合わせる部品(先ほどの例でいうと、おもちゃのブロック)自体を作る人、技術を持った職人です。二つめは、職人が作った部品を組み合わせてソフト(先ほどの例でいうと、家)を作る人です。

USE Inc.にもおそらく二つめのような家を作るタイプのエンジニアが出てくると思いますが、真髄は一つめです。おもちゃのブロックを作る職人です。ここにUSE Inc.の絶対的価値があります。

今ソフト会社はどんどん減っているし、組み込み技術者は本当にいませんが、必要とされています。世の中が成り立っていくためには、組み込み設計の技術は絶対に必要です。アプリを作っても、アプリを動かす機械そのものがなければ、何の役にも立ちませんからね。

技術を持つ会社が、その技術を守り伝えていかなければならないと思っていますし、USE Inc.の使命だと思っています。10年後USE Inc.は、そういった意味で存在感を発揮する企業になるはずです。」

―では、USE Inc.のモノづくりについての未来はどうでしょうか?

「今のUSE Inc.は二つのモノづくり(製品づくり) をしています。一つは、お客様から頼まれて作っているもの(市場に出回る製品)。二つめは、お客様の製品の中に入る小さな部品(モジュール)として提供しているもの。

そして、これから強化していきたいのは、要素技術を応用して、製品のソリューションを作り上げることです。ちょっとわかりにくいけれど、bluetooth という技術を使って今開発を進めているヘッドフォンみたいなものです。自社ブランドとしてだけ展開していくのか、メーカーさんのOEMとして完成品として納めるのかは、完成品によって展開は変わると思いますが、それでも、そこまでできる技術や力をつけていきたいと考えています。」

―これまで30年かけて、モノづくりのベースを支える組み込み設計を極めてきたUSE Inc.。これからは、そのベースの上に自社ブランド/製品ソリューションを加えて、モノづくりに携われる範囲を広げていくということなんですね。

市川社長、長い時間ありがとうございました。


編集後記

『歴37年のベテランが若手に求める3つのスキル~エンジニア解体新書Vol.1』はいかがでしたでしょうか。

例を交えながらわかりやすい説明をする市川社長。市川社長が見ている業界の未来には正直驚きましたが、そんな未来が来てもUSE Inc.の持つ組み込み設計技術は貴重な職人技として残っていくのだと感じました。

また、その技術に安心することなく、自ら力をつけて道を切り拓いていくことにも取り組んでいるUSE Inc.。会長から受け継がれたパイオニア精神は、今は自社ブランド/製品ソリューションという分野に受け継がれています。


USE Inc. お問合せ先
https://www.use-inc.co.jp/contact/

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https://www.use-inc.co.jp/recruit/

インタビュー実施:2023年3月 
Interview & Text 渡部美里

USE Inc.の多種多様なエンジニアを紹介



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