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技術が代名詞になるほど専門性の高いエンジニアになる方法とは?~エンジニア解体新書vol.4

組み込み設計から完成品開発までこなすモノづくり企業ユー・エス・イー(USE Inc.)。ベテランエンジニアにインタビューし、エンジニアの魅力や、エンジニアとしての仕事の流儀、今の若手エンジニアへのメッセージをお届けします。


4回目は、「Apple CarPlayといえば河野さん」と社内で代名詞になるほどの専門性を持ったエンジニアのインタビューをお届けします。

プロフィール:河野博之
エンジニア歴:36年
USE歴:25年


専門性を極める第一歩 CarPlayとの出会い

専門分野となる技術とはどのように出会ったのか

―河野さん、お忙しい中お時間ありがとうございます。本日はよろしくお願いいたします。まず、エンジニア歴、USE歴からお伺いできますでしょうか?

「よろしくお願いいたします。エンジニア歴は36年、USE歴は25年ですね。」

―前回インタビューの鳥井さん「日本のモノづくりを支えてきたエンジニアが語る35年のエンジニア人生|USE Inc. Technical Lab. / ユー・エス・イー テクニカルラボ (note.com)」と同時期の入社とお聞きしております。

「そうですね、鳥井さんの半年後くらいの入社ですね。

鳥井さんとは前職が同じで、USE Inc.の大阪支社立ち上げをきっかけに入社しました。前職でもUSE Inc.と同様にマイコン開発に携わっていて、VTR(※1)、ラジカセ、ミニコンポ(※2)などを開発していました。USE入社後も、同じようにオーディオ関係の開発を行っていましたよ。ただUSE東京(本社)では、車載オーディオ開発がメインだったのに対し、大阪支社ではいわゆる国内メーカーのホームオーディオ開発をメインに行っていました。

※1 ビデオテープに映像信号を記録するもの ビデオテープレコーダーの略
※2 小型かつ据置型でスピーカーが分離できるオーディオ・システム

―東京と大阪では、そんな棲み分けがあったのですね。USE Inc.は、本当に幅広くオーディオ関係の開発を行っていたのですね。河野さんは、もともとエンジニア志望だったのでしょうか?

「エンジニア志望と言えばそうですが、こだわりはあまりなくて、『これからはソフトウェアが良いと聞いた』とか『時代の流れ』とか漠然とした理由で志望していました。前職でマイコン開発をするようになって、開発の面白さに目覚めた遅咲きタイプです。」

―そうなんですね、それは意外です。今は社内で「CarPlay(※3)といえば河野さん」と言われるほどですが、CarPlayに携わるようになった経緯を教えていただけますか?

※3 Appleが開発した車載用のソフトウェアプラットフォーム。CarPlayを使用することで、運転中にハンズフリー通話やテキストメッセージ、音楽やメディアの再生といったiPhoneの機能やアプリケーションをSiri や車のディスプレイ上で操作することができる。

「それはちょっと長い話になります。もともと2010年の中国・シンセン支社の立ち上げに関わっていて、シンセンではMFiライセンス(※4)を取得してAppleのラジオ関係の開発を行っていました。その後日本でもCarPlay開発をしていこうということになり、Apple関連の開発経験者ということで、私が担当するようになりました。それが最初ですね。」

※4 Apple関連製品を開発するための公式ライセンス。ソフト会社でこのライセンスを取得しているところは少ない。

―河野さんはシンセン支社立ち上げも経験されているのですね。その後、CarPlayに関わるようになってからのことを教えてください。

最初はソリューションという形で開始しました。RENESAS社のチップボードを購入してきて、『音を出すにはどうしたら良いか?』とか『画面表示させるためには、なにが必要か?』といったことをチームで研究していました。1年程度でソリューションが完成したので、従来から付き合いのあった国内の車載機メーカーからCarPlayとして出すことになりました。その後、他の国内車両メーカーからも声がかかり、結局国内車両メーカーの純正CarPlayには、ほぼ関わってきましたね。」

―そうなんですね。鳥井さんは国内の「音の鳴るもの開発」網羅で、河野さんは「純正CarPlay開発」網羅なんですね。開発は今も行っているのでしょうか?

「現在の開発はほぼ海外で行っているので、メインは保守ですね。iOSのアップデートがあると、影響を受けておかしな動きをするものも出てくるので、その調整などを行っています。」

エンジニアとしての専門性を築いていく方法は?

専門性を持つエンジニアになる、に答えはあるのか?

―なるほど、仕事内容も変化してきているのですね。河野さんのような専門性を持ちたいと考える若手エンジニアも多いと思いますが、エンジニアとしての専門性や強みはどのように作っていくのでしょうか?

「インタビューの依頼をもらってからずっと考えていたんですが……、とても難しい質問です。まず前提として、私自身『専門性を持とう』と思って仕事をしてきたわけではないのです。与えられた仕事をしっかりこなす、会社と顧客の信頼を得られるように求められたことを120%で返すということを意識し続けてきた結果が、今の『CarPlayに長く関わっている』という状況を作っていると思っています。長く関わると自然と経験も積みますし、知識も増えていきます。それが『専門性』という言葉になるんでしょうね。」

―信頼される仕事をし続けてきた結果、その仕事がずっと続いているという状態なんですね。

「そうです。エンジニア志望ではありましたが、それ以上の細かいこだわりは持っていませんでした。だからこそ、与えられた仕事に対してしっかり応えようという気持ちが強かったのかもしれません。」

―なるほど。河野さんの今の専門性は『専門性を求めた結果』ではなくて、『要求にしっかり応えることで同じ仕事を長く続けることができた結果』としてあるということなんですね。それはちょっと驚きました。

自分が求めた専門性ではない場合、なにか別の技術に目移りしたり、興味が出ることもあったと思うのですが、そういう時はどう気持ちを切り替えていましたか?

「そうですね~、そういう気持ちがあったとしても本業は本業(CarPlay)ですし、そこをきっちりこなすというスタンスに変わりはありません。なにか手伝ってと声をかけられて手伝うとか、そういうことはありましたね。」

ベテランが考える新人教育のゴールとは?

新人教育も時代と共に変化している

―そうですか、そういう考え方のエンジニアさんだと、仕事を任せる方は安心しますよね。河野さんの良い意味での間口の広さは、若い方には参考になりそうです。今は「自分のやりたいことを仕事に」という考え方が主流になっていますが、『エンジニアになる』という大枠を叶えたあとは、流れに身を任せて、与えられた仕事で花を咲かせ続けるというイメージなんですね。

今年から新人教育にも携わっていると聞いておりますが、具体的にどんなことをされていますか?

「はい、新人教育といっても私自身が先生として直接教えるわけではなく、教育プランを考えたり、開発の機会を与えたりということをしています。実際に教えているのは、もう少し年齢の近いエンジニアです。

私がエンジニアになりたての頃は、今よりも早い段階で開発案件を担当していました。1件目は先輩と一緒にやっていましたが、2件目からは自分で担当するというのが主流でしたね。簡単にいうと、自分がPL(プロジェクトリーダー)です。全体も把握して、細かいところも考えて、わからなければ先輩に聞いたり、調べたり……、そういう中でソフトウェアや製品への理解度などもどんどん上がっていきました。『新人』という意識を持っていたのも1年目だけで、2年目以降は自分自身も周囲もそんな意識は持っていませんでした

今は作るソフトウェアの規模が大きくなっているので、部分ごとの分担制が主流で、PLに指示されたものを作るというスタイルに変わってきています。これだと、なかなか全体を見る力がついていかないし、どうしても習得できることが限られてしまいます。『教育(座学や講習として教える)』というよりも、『成長するためのネタ』を与えるということをしていく必要があるのかなと思います。やっぱり『ネタ』がない状態で勉強しても、なかなか頭に入らないし、定着していかないですよね。」

―確かにそうですね。業務に関連しているからこそ、疑問が湧くし、積極的に解決しようとするし、知識も自分のものになっていくということですね。河野さんが思う新人教育のゴールはどんな状態でしょうか?

「そうですねえ……、要求されたものを作りあげることができて、間違っていたとしても、それを人に説明することができる状態ですね。間違っていても良いというのがポイントです。正しいものを作るよりも、大事なのは自分なりの考えをもって作ることと、それを人に説明できるということです。その状態にまでなれれば、あとは実践の中で経験を積んで知識を増やしていけば良いと思います。」

誰もが認める専門性を持つエンジニアから若手へ伝えたいこと

これからも成長したいエンジニアに伝えたいこと

―そのためにも、会社としてはそのネタ提供を行っていくということなんですね。では、最後に今成長過程にあるエンジニアに向けて、アドバイスをお願いします。

「わかりました。
1つめは、どんな開発であっても、組み込みエッセンスを大事にしてほしいということです。メモリーや処理時間を気にして最小限のソフトウェアを作るというのは、なにを作る際にも根底にあるべき考えだと思っています。今はマイコンのサイズが大きくなっているので昔ほど意識しなくなってはいますが、それでも共通して必要な考えだと思います。コンピューターの基本的な仕組みを意識した上で、開発を行っていくということですね。
2つめは、1つめとニュアンスとしては似ていますが、ソフトウェアは単純に作るということです。作りが単純であれば不具合は出づらくなりますし、誰か別の人が手を入れるときにもわかりやすいですね。

3つめは、不具合修正をするのは、原因追及をしてからということですね。なんとなく修正してみたらうまく行ったということもありますが、これはダメです。正しく原因をつかんで、その不具合の原因の対策を考えて実行するというスタンスが大事です。」

―河野さん、本日はありがとうございました。

編集後記

とてもシャイで、『専門性を求めたわけじゃない』『教育には向いていないタイプ』など一見ネガティブにも聞こえる発言が多かったのですが、よくよくお話を聞いてみると、一貫して見えてきたのはとても真面目で誠実なエンジニアとしての姿でした。本人からこういった面が語られることはないと思うので、じっくりとインタビューをした甲斐があった!と心の中でガッツポーズでした。

数年前に社内で後輩へのメッセージとしてこんなユニークな発表をしたそうです。
『私みたいなエンジニアにならなければ大丈夫。』
その心は……、『私は仕事に命をかけてきました。仕事に命をかけてはいけません、命は自分のものだから大事にしてください。』というメッセージだったそうです。ここにも真面目なキャラクターが表れていますよね。

Vol.3に続き、ユニークなベテランエンジニアのインタビューをお届けしました。9月入社以降の新人エンジニアは、この2名の作ったテキストで初期教育を行うそうです。知識・マインド共に、エンジニアとしてのどんな基礎が伝えられるのか楽しみです。

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インタビュー実施:2023年8月 
Interview & Text 渡部美里

USE Inc.の多種多様なエンジニアを紹介

vol.1 歴37年のエンジニアが若手に求める3つのスキル
vol2. 子どもの頃からの夢を叶えた生粋のエンジニアが薦める”興味を広げる”勉強法
vol.3 日本のモノづくりを支えてきたエンジニアが語る35年のエンジニア人生


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