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中野雄介の魔力 written by 中野雄介 #EXODUS

みなさん、おはこんばんちは。ピエール中野こと中野雄介(@y0uth_K)です。前回のnote更新から実に4ヶ月ぶり。どうも、お下劣様です。


先日、チャラン・ポ・ランタンなノリで、「EXODUS」という企画に応募をしてみたわけです。

応募しておきながら詳細がよくわかってないのですが、「EXODUS」は幻冬舎さんとCAMPFIREさんという夢のタッグによる企画です。
例えるならば、幻冬舎さんが桑田佳祐で、CAMPFIREさんがMr.Children、その間に生まれた「EXODUS」は『奇跡の地球』ってところですかね。たぶん。

で、適当に次ぐ適当なその応募が、なんとびっくり、通ってしまったわけです。次の二次審査を通れば、出版化に向けたクラウドファンディング開始ということで、二次審査の課題である序章を執筆してみました。5,037文字。

しかしながら、これがまたとんでもない駄作なわけです。5,037文字中、「中野雄介」の出現回数が98回。つまり、392文字が「中」「野」「雄」「介」のどれか。もうこの時点で気持ち悪い以外の何物でもない。書籍化なんかしたら、全世界のゴキブリの数くらい、「中野雄介」が出てくるんじゃないかと思います。

先ほど作品提出はしましたが、審査にはしっかり落選したと思います。記念として一応noteに残しておきます。中野雄介のうざさ、しつこさ、まどろっこしさを堪能して、大いなる吐き気を催してください。それではどうぞ。




『中野雄介の魔力』


<序章>

『中野雄介の魔力』がこの世界に広がり、一人でも多くの中野雄介と出会い、一人でも多くの中野雄介が集まり、一人でも多くの中野雄介と笑いあえることを願って―――

 私の名前は、中野雄介。中野の姓を持つ両親のもとに生まれた私は、「たくさんの友達が集まりますように」という両親の想いを受けて、雄介と名付けられた。誰だってそうだが、自ら希望して生まれながらに自分で好きな名前を選べることは、基本的には有り得ない。人間というのは、両親から授かった名前を一生背負って生きていくのが普通だ。「吾輩は人である。名前はまだない。」と主張する夏目漱石まがいの奇妙な人物は、この世に一人として存在しない。

 そもそも名前は、人間社会において特定の個人を弁別するために使われる言語的表現であり、いわば記号のようなものだ。名前のない人間は、個人としての存在を認知することができない。生誕した直後に子どもの意思を確認することもなく、両親が名前をつけるのはそのためだ。

 そうして私はずっと、中野雄介として人生を過ごしてきた。試験の回答用紙には中野雄介と書き込み、運転免許証の氏名欄には中野雄介の印字を彫り、仕事では中野雄介と書いてある名刺を相手に渡す。それらはすべて、自分の存在を相手に伝えるための記号が、中野雄介だからである。

 では、個人を個人たらしめる名前がまったく同じで、字面だけでは個人が判別できないとしたら、一体どうなるのだろう。何を言っている、そんな馬鹿なことなんてあるはずがない。愚問だと吐き捨てるほど非現実的な妄想であり、思考を巡らせる必要すらないことだと、私も思っていた。そう、『中野雄介の魔力』に取り憑かれる、あの日が訪れるまでは。


 2016年7月。都内の中小企業で働くサラリーマンである私は、朝から一日中外出をしていて、その日オフィスに戻ったのは夕暮れ時だった。本格化してきた暑さも重なって、疲労感を覚える身体に鞭を打ちながらも、日中に商談をした企業への提案書をまとめ、溜まったメールを処理していた。ひと通り作業が終わり、集中の糸が切れる時には、すっかり陽も暮れていた。

 さて、そろそろ帰ろうかな。そう思った瞬間、一本のメールが私のメールボックスに届いた。

 差出人の名前は、中野雄介。中野雄介、誰だ。いや、私だ。思わず目を見開き、再度差出人の名前を一文字ずつ読んでみても、中野雄介であることに変わりはない。

 私はひどく困惑した。今、このパソコンの画面上では何が起こっているというのだ。まったく分からない。神からの思し召しか?それにしては、同じ名前とは芸がなさすぎる。もしくは今日の猛暑に冒されて、気がつかぬうちに自分にメールを送っていたとでもいうのか。よもやそんなヘマをやらかすほど、這々の体でないことは、自分でもよく分かっている。

 私は、恐る恐る、そのメールを開いた。冒頭にはこのように書かれていた。

「中野雄介様、株式会社M社の中野雄介と申します。ついにご連絡できたことに感動しております。」

 会社名を見て、ようやく私は合点を得ることができた。その会社名が、以前契約をいただいた企業だったからだ。それと同時に、商談をした担当者との会話が頭の中をよぎった。定刻になって会議室に入り、相手と名刺交換をした時のことだった。

「え、中野雄介、っていう名前なんですね。うちの会社にもまったく同じ字のナカノユウスケがいるんですよ。」
「へえぇ、そんなこともあるんですね、アハハハハ。」

 特に気にも留めない、商談前の他愛もない会話だった。担当者から話を聞いただけに過ぎないし、実際に存在してるかどうかもわからない。そして何より、自分以外に中野雄介が存在するなんて思ってもみなかった。

 しかし、現実は違った。私と同姓同名で、別の個人としての中野雄介が、この世に存在していたのである。同姓同名とは、姓名が同じ表記で同じ読み方をする一対の名前のことを指す。星の数ほどある姓と名、それらが掛け合わさって生まれる無限に等しい名前の可能性の中で、完全一致していて名前だけではもはや区別をつけられない人間が現れてしまった。なんという事実。なんという奇跡。同年に大ヒットした『君の名は。』に照らし合わせると、主人公の我々二人がある日突然入れ替わったとしても、生活になんら支障が起きることはなく、「名前が思い出せない」ではなく「名前が忘れられない」という、ストーリーの根底を覆す事態が発生することになる。

 脳みそが温まる感覚と、指先が冷えていく感覚を同時に感じながら、私はそのメールに返信をした。

「中野雄介様、突然のご連絡だったので、おかげさまで5秒ほど脳みそがストップしました(笑)どこかでお会いできることを楽しみにしてます!」

 この返信には、私の葛藤が詰まっている。自分とは違う中野雄介に会ってみたい。会って、この目でどんな人物なのかを確認してみたい。ただ、会ってしまったら、どんな反応をしたらいいのだろうか。なんて呼べばいいのだろうか。そんな葛藤である。その結果、「どこかでお会いできることを楽しみにしている」という、茶を濁したような文面となってしまった。これが中野雄介と中野雄介の、初めてのやり取りである。


 不意に襲われた激しい夕立のようなこの出来事から、4ヶ月が経った。季節はすっかり秋めいてきており、木枯らしに吹き飛ばされるように、私の記憶からもその事件は消え去りかけていた。そんな時、またしても稲妻が走る瞬間に出くわすこととなる。

 その某日もあの日と同じ、夕刻時だった。日中の仕事を終え、オフィスでぼーっとFacebookのタイムラインを眺めていたところ、契約をいただいたM社の担当者の投稿が目に入ってきた。会社が順調そうな様子が綴られており、嬉しくもその投稿を読み込んだ。自分のお客さんが事業成長していく過程を少なからずサポートできるのは、サービス提供者冥利に尽きるものだ。

 その投稿に、いいねを押している人物が一人だけいた。中野雄介だった。その当時のFacebookは、友達ではなくともいいねを押した人物名が、最初の2人程度表示される仕様だった。間違いなく、中野雄介がその投稿にいいねを押している。しかしながら、自分はいいねを押していないし、Facebook上でもいいねボタンは点灯していない。伝わるだろうか、この奇天烈な状況が。数えられるだろうか、私の頭に止めどなく浮かんでくる疑問符の量が。

「お、おかしい…。Facebookがバグってる…。」

 あまりの可笑しさに、インターネットの巨人であるFacebookを思わず疑ってしまうほどだった。もしや、以前やり取りをした、あの中野雄介、かもしれない。忘れかけていた記憶が、葛藤が、衝撃が、蘇ってくる。

 カーソルをFacebook上の中野雄介の文字に合わせてみる。その文字をクリックし、中野雄介のプロフィールを開く。中野雄介のタイムラインを見る。偽造でも虚構でもない自分とは異なる人間が、中野雄介として過ごしてきた人生の時間が、そこには刻まれていた。感じていた胸の高鳴りは、まるで目覚まし時計のスヌーズかのように何度も響き、その周期が短くなっていくのを感じた。

 私はメッセージを送った。中野雄介に、会いに行くために。


******


 中野雄介。総画数31画。真ん中の「中」に、野原の「野」、英雄の「雄」に、介護の「介」、これらの漢字四文字を羅列して形成される、日本に存在する名前のひとつだ。姓名判断の一説によると、これら四文字が織り成す総計31画の中野雄介という名前は、類稀なる強運の持ち主であるという。

 その名前の持ち主である私、中野雄介は、中野雄介の中野雄介による中野雄介のための『中野雄介会』という会を主宰している。この会への入会条件はただひとつ、名前が中野雄介であること。一文字違わず、寸分の狂いも伺えない正真正銘の同姓同名であれば、国籍・性別・年齢・経歴などは一切問わない。赤ちゃんの中野雄介から、ご年配の中野雄介まで、どなたでも入会が可能だ。以前、知人から紹介をされた中村雄介や中野裕介に対しては、深々と謝罪を申し上げた上で、入会をお断りさせていただいた。

 ちなみに現在の会員は、中野雄介、中野雄介、中野雄介、中野雄介、中野雄介、中野雄介、中野雄介、中野雄介、中野雄介、中野雄介、中野雄介の計11名。年齢層は現役の大学生をしている20歳の中野雄介から、37歳の中野雄介まで。居住地は関東や関西を中心に、日本全土に中野雄介は点在しており、シンガポールやノルウェーといった海外にも中野雄介の生息が確認されている。

 また、東京都中野区にある同会のホームグラウンド『少年野球指導塾 中野塾』にて、中野雄介は不定期に会合を行っている。その時々で予定の合う中野雄介が集まり、酒を飲みながら、ただ談笑をしているだけの集まり。特別なことは何もない。そこに集まっている人間が皆、中野雄介という名前であることを除いては。

 そんな『中野雄介会』には、設立当初は『なかのゆうすけ会』だった過去がある。表記だけで察しがつくのではないかと思うが、“なかのゆうすけ”の呼び名であれば、誰でも入会ができる。つまり、前述の中野裕介も入会が出来る会となる。

 しかしながら、これから語られる物語の過程で、『なかのゆうすけ会』は確固たる意志と決意を持って、『中野雄介会』へと変遷を遂げることとなった。“なかのゆうすけ”と呼び得ることのみならず、 “中野雄介”の名前を保持する人間こそが入会することのできる、神聖な会だ。生まれ変わるその姿は、神秘的で美しいとも評される爬虫類や両生類の脱皮なんぞ、比類するに値しない。同姓同名類の『中野雄介会』が、この世で最も美しい脱皮を果たすことになったのだ。

 『中野雄介の魔力』は、その中野雄介が、中野雄介と出会い、中野雄介を集め、中野雄介が起こし得る未来を描いた本である。中野雄介と中野雄介の狭間に浮かび上がる小宇宙に想いを馳せながら、森羅万象に相見える中野雄介の旅を、存分に味わっていただきたい。


 第一章では、『中野雄介会』のこれまでの軌跡を振り返っていく。私中野雄介が、初めて中野雄介という人間と相対し、太古の昔より封印され続けていた、『中野雄介の魔力』の真髄が解き放たれていく物語を、ここに書き記してしんぜよう。なお、事前に念頭に置いておいていただきたい。この第一章は、すべてノンフィクションだ。

 第二章では、『中野雄介会』に所属している現役の中野雄介たちの話を取り上げる。都内のIT企業で取締役を担っている中野雄介。東京・六本木のミシュラン一つ星レストランの副店長をしている中野雄介。企業戦士としてノルウェーへと移住した中野雄介。それぞれの中野雄介に対して、『中野雄介会』がもたらした影響の一部始終をインタビューしていく。

 ここで事前に断っておくが、第一章で出てくる登場人物は全員、中野雄介だ。第二章においては、話し手が中野雄介、聞き手が中野雄介となる。どちらの章も、あえて区別することはしない。

 読み進めていれば、きっと感じることになるだろう。この中野雄介は、どの中野雄介を指しているのだろうかと。そんなことを伝えるつもりは、毛頭ない。これも『中野雄介の魔力』の一端だ。ぜひ感じ取ってほしい。

 終章となる第三章では、これからの『中野雄介会』が引き起こすべく未来の奇跡を想像してみよう。中野雄介が別の中野雄介の実家に、何食わぬ顔で帰省をするとしたら、どのような展開が期待されるのだろうか。男性側が全員中野雄介の合コンが開催されるとしたら、どのような終焉が待っているのだろうか。AKB48の風物詩となったAKB選抜総選挙を真似て、中野雄介選抜総選挙を開催するとしたら、どのような台本が用意されるのだろうか。『中野雄介会』が思い描く、彼方に霞んで見える絵空事を、この書中に納めることとする。


 みなさんはもう、お気づきだろう。これは混乱と狼狽を巻き起こす書物である。幾度となく出現する中野雄介のリフレインが、本書最大の持ち味であり、最悪の雑音となる。閲覧最中に悪寒と吐き気を催すかもしれない。読了することすら、不可能に近いことかもしれない。しかれども、修羅を引く苦行がごとく突き進んだ道の果てにこそ、感じることのできる快感があるということを、人類は知っている。『中野雄介の魔力』の本質は、きっとその終極に存在しているのだ。

 そして私は祈る。この本が、現世に生きる、一人でも多くの中野雄介に行き届くことを。


 さあ、中野雄介の旅をはじめよう。





【作者プロフィール】
中野雄介。1991年4月29日生。
同姓同名の"中野雄介"のみが入会可能な、中野雄介の中野雄介による中野雄介のための『中野雄介会』主宰。東京都中野区にある居酒屋中野塾にて、中野雄介のみが参加できる中野雄介会を実施している。
現在の会員は、中野雄介、中野雄介、中野雄介、中野雄介、中野雄介、中野雄介、中野雄介、中野雄介、中野雄介、中野雄介、中野雄介の計11名。
同会ホームページ:https://nakanoyusuke-kai.nakanoyusuke.fun/



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