見出し画像

ロビーのソファで会社員風のおっさんが横になって腕を垂らし

目が覚めて間もなく、昼過ぎに店長から着信あり。はっきり言ってうぜえと思いつつ折り返し連絡してみるとクルーの一人が急な体調不良により欠勤、ついては本日22時から6時のところを早めに出勤し、17時から2時までのシフトに変更してくれんかとのこと。うぜえ予想が当たり前のように当たったところでまあ分かりましたと返事、する自分にまたバカかお前はとしばし喝を入れる。夕勤は夜勤に比べて全然忙しいのだ。コンビニたるもの18時過ぎは帰宅途中の会社員でごった返し、たまにゆうパックとか収納代行とか来たりする。未だに収納代行って何?という無知からくる変な苛立ちもあり───これは自分が悪い───コーヒーマシンの清掃から灰皿の清掃、が終わると間髪入れずにイートインコーナーの椅子上げ、とか言うと職場がバレたも同然ですが、そんな夕勤に比べて楽+時給も高いのが夜勤なのであって、これは大変いいですね。というのが普段のところなのだが、今日に限ってどうだったかしらん。

夜勤には2人が常駐するのが常なのだが、まだ新参者の私は基本体制+1人としてカウントされているのが現状だ。うぜえとか言ってすいませんでした。ただし夜勤を受け入れる人間とは思った以上に少ないようで、どう組まれたところで私以外の該当者は全員ネパール人なのである。いや悪く言ってるんじゃないんですよ、人はいいし、日本語上手いし。2時間に1回は煙草の休憩に誘ってくれるし。当然だけど夜勤には夜勤のやることがあるのであって、私が楽だと言ってるのはレジ対応のような接客に比べれば倉庫で黙々とドリンクを補充する方が性に合ってるってことであって、なおかつ私は未だその全てをマスターしかねているのであって、それを教えようとしているのに2時で上がるんですか君は?みたいなイキフンをそこはかとなく漂わされたわけです。ネパール人に。人はいいんですよ。
みたいなことで結局のところ私は午前5時まで店に缶詰でした。たかだか12時間で君、社会人の時間感覚全然分かってないね、みたいな人もいるでしょうが時間も時間、状況も状況でそれなりに堪えました。夜勤のイロハ教えたるよとネパール人が言ってくれたところで正直、仕事から仕事の間は30分とか空いちゃうものでありまして、この30分をレジでつっ立って過ごすのがこんなにもしんどいものかと、私痛感しました。この気持ち書いたるぞと思いました。こんな体験も文章にすることで報われるのだ、ある意味で写真より音楽より生々しく、正直に打ち出せる表現だ、とか思いました。夏至も近づいて日は長くなり、退勤前にゴミを変えようと外に出ると空はすっかり白んでいて ああ俺は夕方にはそこにいた太陽が、アメリカとか中国とか照らしつくしてまた顔を出しちゃうまでの時間を、ずっとこの店で過ごしていたんだなあと思いました。

そんな感じで自分としてもそれなりのグロッキーさを感じつつ帰路についたが、その途中のマンションの1階のロビーのソファで会社員風のおっさんが横になって腕を垂らし、猛烈に寛いで眠っているのを見てにわかに写真を撮りたい欲求が湧いてきた。すかさずこのおっさんを撮り、墓場を撮り、ひんやりした朝の空気で頭を冷やし、テンションが上がった俺は最終的に買っておいた酒を手に自宅の屋上に上ったりして、今にも顔を出そうとする太陽を撮ろうと躍起になった。屋上で喫む酒と煙草は格別で、夜の残り香が心地よかった。それが朝に侵されつつあるのを肌で感じ、今しか感じられないのだと思い深呼吸をしたらすっごい眠くなってきた。そこにある時間は、空気はまだ辛うじて俺のものであり、刻一刻と上ってくる大きくてまぶしいやつがそれをみるみるうちに台無しにしていくのを感じた。通りの信号が点滅をやめ、いよいよ来るべき朝に備えるのを見た。

床につく前とはまあ大体疲れているものであり、自分の変な癖なのかしらんが疲れている時こそ変に感覚神経が鋭くなることはままある。この時もまたそうで、眠い、眠りたいという気持ちといや文書いてから寝ろというこのせめぎ合い、どっちが天使で悪魔なのかよく分かりませんが、ともかく言えるのは睡眠とはリセットであり、一度寝てしまうと眠る前の思考回路には戻れないということであり、その時にしか展開しない思考があるのは確かである。いや ここは寝たほうがいいんです、酒も入ってるし。一回寝ると脳が復習してより定着するっていうし、みたいなこと言ってるといつまででも先延ばしまくり、そのうち記憶さえ曖昧になってくるのは典型的な例です。僕の。
かくして俺は廃棄の飯を食い、残った酒を呷ってなお自我を太らせ、猫のモノマネをしながら床に就いたのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?