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Jarred Kelenicらのトレードについて

今オフ、珍妙なトレードでファンをざわつかせているマリナーズですが、ここにきて大きな動きに出ました。
マリナーズ、ブレーブス間でJarred Kelenicを中心とした5人の選手が動くトレードが成立。
 今回はこのトレードの概要と考察をしていきます 。


ブレーブスが獲得した選手

Jarred Kelenic

元トッププロスペクトの24歳左打ち外野手。
ヒットツールの評価が高く、2021年に満を持してデビューしたものの、そこから2年間は泣かず飛ばずのシーズンを送ります。
立場が怪しくなりつつありましたが、昨オフにドライブラインに通ったことが功を奏し、大幅なパワーアップに成功。
三振上等の方針も後押ししたのか、今シーズンは春まで好調を維持したものの、6月に入ってからは失速。
挙句の果てには、7月中旬にクーラーボックスを蹴り上げ骨折し約2ヶ月離脱するという珍事件を起こしてしまいます。
復帰後もパットしない成績を残しシーズンエンド。

Marco Gonzales

マリナーズ在籍6年で4回規定投球回を達成し、イニングイーターとしてチームを支えたサウスポー。
4シームの平均球速は90mphに届かず、奪三振能力はお世辞にも高いとは言えませんが、コマンドに長けたチェンジアップとのコンビネーションで打者を翻弄。
再度トレードに出されパイレーツに移籍。

Evan White

27歳右打ちの一塁手。
外野手もできると評された身体能力を生かし、ルーキーイヤーの2020年にゴールドグラブ賞を獲得。
打つ方に関しては、当たれば飛ぶ…と言えば聞こえはいいものの、ルーキーイヤーのK%は41,6%と壊滅的。
翌年以降の改善に期待していたファンは多くいましたが、なんとWhiteは2021年から3年間で64試合の出場にとどまってしまいます。
これでは放出も致し方ないでしょう。
再度トレードに出されエンゼルスに移籍。

マリナーズが獲得した選手

Jackson Kowar

今オフロイヤルズからKyle Wrightの対価としてブレーブスにトレードされており、転売のような形でマリナーズに加入。
シンカー気味の4シーム、曲がりの大きいチェンジアップ、縦のスライダーが持ち玉。
印象としては典型的なノーコンパワーピッチャーに見えます。
雰囲気は同じマリナーズだとPrelander Berroaに近いでしょうか。
近年のマリナーズは他球団から安く拾ったリリーバーを一線級にまで仕立て上げることに長けていますが、そのような選手の多くに共通しているのが腕の位置が低いという特徴です。
Kowarはこの特徴には合致しない選手なのでそこは気になる点ではあります。
とはいえ、近年は先ほど上げたBerroaや良く分からん対価で放出されたIsaiah Campbellなど、高い位置から投げ下ろす選手も台頭していますし、いい選手になることを期待したいです。

Cole Phillips

昨年のドラフト全体57位。
6フィート3インチと大柄な体と90マイル中盤の力強い速球が持ち味のマリナーズ好みの大型右腕。
1巡目指名もあり得ると言われていたそうですが、TJ手術で評価が落ちた模様。
マリナーズはBryan Woo、Isaiah Campbell、Marco Gonzalesなど、TJ手術経験者の再生も得意分野なので、エースポテンシャルを備えたPhillipsを開花させる見込みは十分あるでしょう

マリナーズの狙い

分かりやすいサラリーダンプの動きです。

サラリーダンプに踏み切る背景についてですが、上記の記事によると、マリナーズが契約しているRoot Sports NWが料金の値上げをしたことで視聴者数の減少が予想されています。
この余波を受け、ペイロールが来季あまり増えないとのことです。

思えばコンテンド期に移行したチームがTDLでリリーフエースのPaul Sewaldを売りに出したことや、打線に課題を抱えていた状態でレンタルバットを加えなかったのも、ペイロールに制限がかかることを予見していたのだと思えば合点が行きます。

トレードに話を戻しますと、Evan Whiteは残り2年15MMの契約、Marco Gonzalesは来季12MMの契約を抱えています。

Evan Whiteは成績以前に、ここ3年満足に稼働することすらできず、それでいて金満とは言えないマリナーズにおいて決して安くない金額の契約を結んでおり、紛うことなき不良債権と化していました。

Marco Gonzalesは今季は早々に離脱してしまっていたものの、本格的に稼働し始めた2018年から800イニング以上を投げており、戦力として計算できそうな存在でしたが、今季はGonzalesが離脱した後、Bryan Woo、Bryce Millerといったルーキーがブレイクし、Gonzales抜きでもローテーションの目処が立ったことから、放出に踏み切ったのでしょう。

Kelenic放出の是非についての考察

このトレードのメインピースであるJarred Kelenicの放出には、マリナーズファンからは多く批判的な声が上がっていました。

現状Cade Marlowe、Zach DeLoachの傘下のプロスペクトや、ダイヤモンドバックスから獲得したDomic Canzoneといった若い外野手が渋滞しており、整理が必要だったと一定の理解を示す声も見ましたが、やはり批判的な声の方が大きい印象でした。

批判的な意見の中でも、よく見うけられたのが以下の2つです。

  1. Kelenicはまだ若く伸びしろがある

  2.  度重なる主力の放出で打線の迫力が欠ける中、戦力化しつつあったKelenicまで失うのはまずい

私自身はこのトレードに肯定的な考えを持っているので、よく見かけたと思った批判的な意見の中に反論という形でKelenicがトレードされた理由を考察していきます。
反論しやすそうな意見だけ恣意的に取り上げただけだろという正論はやめてください

Kelenicはまだ若く伸びしろがある

Kelenicはまだ24歳と若く、保有権も今シーズン終了時点で5年間保有できるのだから、長い目で見るべきだという意見です。

この意見については、マリナーズはデビューしてから3年という短くない期間を投資していることを念頭に置きましょう。

本当にポテンシャルを秘めているのであれば、そのポテンシャルを開花させるには十分な期間と機会があったにも関わらず、結果的に3年間での成果としての今年の成績はfwar1.3と悪くはないものの、プロスペクト時代の期待を下回っていると言わざるをえません。

もう少し詳しく掘り下げると、まず守備面についてですが、当初センターに留まれると見込まれていたKelenicですが、いざ守らせて見るとまずい守備(DRS-16)を露呈し、早々にセンターから脱落し両翼を中心に守ることになります。

センターというプレミアムなポジションに留まれなかった以上、バッテイングで結果を残すしかなくなった訳ですが、21.22年OPSは0.7を下回り、wrc+の数値は100を下回るなどからっきしのシーズンを送りました。

23年はwrc+の数値は108と大幅な改善を見せましたが、それはあくまで本人比での成績であり、両翼として見れば特筆すべき数字とは言えません。

また、伸びしろという面にも疑問が残ります。

上記の画像はKelenicの21年と23年のBaseball Savantのパーセンタイルランキングです。
(22年はSavantの規定に満たなかったので除外)

比較してみると、平均打球速度(Avg Exit Velocity)や、Hard-hit%(95mph以上の打球)といった打球関連の指標は改善していますが、同チームのJulio Rodríguezほど突出した数値ではありません。(Rodríguezの平均打球速度、Hard-hit%はどちらも上位6%)

近年のマリナーズはKelenicやDylan Mooreなど、大柄ではない野手のパワーアップに定評がありますが、やはりもともとの体格の差からくる地力の差は埋めがたいものがあると伺えます。
(Rodríguezが190cm 103Kg、Kelenicは185cm 93Kg)

また、クーラーボックス蹴り上げ事件から復帰した9月11日以降の平均打球速度は下降傾向にあったことも放出の一因だと思われます。

平均打球速度の推移

パワー面は伸びしろがあるどころか陰りをみせている以上は、アプローチの改善に期待するしかありませんが、Whiff%(空振り率)、K%(三振率)など、アプローチ関連の指標は悪化しています。

そもそもマリナーズの生え抜き野手はJulio Rodríguez、Cal Rareighといった現在のレギュラー陣、過去を遡るとKyle LewisやEvan Whiteといった選手達はキャリアでWhiff%、K%がリーグ平均をより良かったシーズンがない有り様で、マリナーズでのアプローチの改善は非現実的です。

おそらくマリナーズではこれ以上の成績の改善は難しいと考えていた中で、ブレーブス側がサラリーダンプで引き取ってくれるという渡りに船の条件でトレードしたのではないでしょうか。

度重なる主力の放出で打線の迫力が欠ける中、戦力化しつつあったKelenicまで失うのはまずい

今季はEugenio Suarez放出、Teoscar HernandezにQOを提示しないなど、主力打者がチームを離れる動きがある中で、比較的打てていたKelenicを放出すると打線のグレードダウンに拍車がかかるという意見です。

この意見については、このトレードで浮かした27MMを使えば、現在のKelenic程の貢献度の選手を一人二人は引っ張ってこれるという目算があったからでしょう。

今オフのFA市場であれば、Anderew McCuthenやJ.D.Martinezなどのベテラン、トレード市場でも外野が渋滞気味のオリオールズのAnthony Santanderや、再建期に入ったホワイトソックスのEloy Jimenezなど、短期間の保有ですむ選手は多くいます。

オプションが後一回で、来季コケると処理の難しいKelenicを保有するよりも、同程度の貢献で短期間の保有ですむ選手のサラリーと枠の確保をするほうが、ロースターの柔軟性の確保、Kelenicを保有するリスクを回避できると踏んだのではないでしょうか。

最後に

今回のトレードはサードのレギュラーであったEugenio Suarezや、リリーフエースになり得たIsaiah Campbellを二束三文で売り払ったトレードとは違い、明確な意図を感じるトレードでした。
とはいえ、Kelenicは多くのファンにマリナーズ再建の柱として期待を寄せられており、今季ようやくその才能の片鱗を見せたかと思えば、すぐさま売りに出す血も涙もない姿勢にファンが面食らうのも無理はありません。
このトレードで浮かせた資金がどのように使われるかは今後見ものです。

写真(https://twitter.com/Mariners/status/1731540958964248751?t=U0z1Qm-T1f2Qx88S8raAfg&s=19)
参考
(https://www.baseball-reference.com/)
(https://www.fangraphs.com/)
(https://baseballsavant.mlb.com/)

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