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スーパー歌舞伎「ヤマトタケル」の感想と魅力

スーパー歌舞伎 【ヤマトタケル】観てきました!

まず最初に、なんとこの作品、上演時間4時間の超大作なのです…。

休憩有りでもやはり4時間の観劇にビビってチケットを取るとき躊躇してしまったのですが、結果として素晴らしい作品を見れたなという満足感がすごい。
この感想を沢山の人と共有したい…
様々なエンターテイメントを好きな人に観てもらいたい…
ということで、印象的だったポイントと、私がこの舞台の魅力だと感じることを書いていきたいと思います、
※全体的にネタバレしてますが問題ないと思います。むしろ結末を知ってたほうが楽しめるストーリー


スーパー歌舞伎とは?

まず最初に、【スーパー歌舞伎】について、簡単に言うと伝統的な歌舞伎に、もっと親しみやすく現代的な面白さを取り入れて作られた作品。

多彩な照明や音響効果が加わり、宙乗りと呼ばれるフライングや現代的な口語での上演が特徴。

最近だと【ルパン歌舞伎】とか【ワンピース歌舞伎】みたいな感じで、HOTな題材を取り入れつつも歌舞伎の良さを存分に味わえる作品たちになっています。


【ヤマトタケル】はそのスーパー歌舞伎の先駆けとして、三代目市川猿之助(市川中車の父で市川團子の祖父)とが38年前、1986年に初演した舞台。

「3S」を意識して作られ、“スペクタクル”、“スピード”、“ストーリー”が際立っているので、あまり歌舞伎になじみのない方が歌舞伎と聞いて思い浮かべる不安要素を取り除いた、「目で見て楽しい」「飽きない」「話が分かりやすい」舞台です。


そんなスーパー歌舞伎の中でも、この舞台がすごいのが、「超“スペクタクル”」なこと

スペクタクルな世界観


壮大な世界観と、それを実現する仕掛けがたくさん盛り込まれていて、とにかく圧倒される!
初演はバブルのころだったため、衣装には「今では考えられない」ほどのお金がかかっているといわれており、豪華で目がくらむような衣装の数々。
しかもその美しい衣装のシーンが数分で終わることもあるので、ぜひじっくりと目に焼き付けて欲しい。
衣装見てるだけで4時間経つといっても過言ではないです。

役者のみなさまのSNS曰く衣装の総重量15キロほどある方もいるとか。(体の負担は若干どころか心配ではある…)

さらに歌舞伎独特の凄技の早替わりや、効果的に変化していくいろいろな舞台セットの仕掛け、出演者の息のあったアクロバット(歌舞伎でとんぼという)など、
歌舞伎と聞いてイメージするものより宝塚やジャニーズのショーのような、驚きとエンターテイメントの圧力がすごい。気付いたら拍手してしまっているほど。
「つまらなそう」という歌舞伎のイメージをおもちの方は是非ヤマトタケルを観てみてください。まず圧倒されます。

スピード感


通常歌舞伎はセリフをたっぷり聴かせ、見どころはゆっくり見栄を切り、殺陣も舞踊のようにみせることが多いが、そういった部分をとにかくスピード感を持ってすすめていくのもスーパー歌舞伎らしさ。

舞台で特にスピード感のある見どころのひとつが二役の早替わり。衣装を一瞬で着替えながら、2つの役をいったりきたりする歌舞伎の伝統的な見せ場です。

今回は主演の中村隼人さんと市川團子さんがダブルキャストでヤマトタケルとその兄大碓尊を二役、
中村米吉さんがヤマトタケルの妻となる兄橘媛、弟橘媛の二役を演じています。

この早替わりを前半にこれでもかと見せてくれるのですが、衣装が替わるだけでなくこの二人の演じ分けも見事で、

性格や年齢の違いが声やしぐさとなって、役が一瞬で変わっていく様がショーのようで、こういったシーンを眺めるだけでも価値があると思います。

"英雄"のストーリー

そして一番の魅力は壮大な“ストーリー”
やはり4時間の舞台だからこその見ごたえがあります。

古事記のヒーローなんて正直あまり親しみもないし、どんな物語だろうと思ってたんだけど、

ヤマトタケルの物語にいろいろな人生を投影してしまって、ものすごく感情移入してしまった。

今更ですがざっくりとしたあらすじとして、

物語の主人公は古事記、日本書記で活躍が描かれる英雄、ヤマトタケル。

大和の国の帝の息子として生まれるも、不運にも過って兄を殺してしまい、

父から恐れ遠ざけられ、「死にに行け」といわれるかのように各地の異民族討伐を命じられる。

だがゆく先々で勝利していくうちに、だんだんと自分の強さに傲慢になり、

最後はその傲慢さから、叔母の倭媛から与えられた「草薙剣」を携えないまま戦いに赴き

ついに深手を負ってしまう・・。


・・・大筋はこんな感じ。

あらすじを読んだときにヤマトタケルとはどんな人なのかまったくピンとこなかったのですが、母を早くに亡くし、分かり合えるはずの存在である兄を自らの手で殺してしまい、さらにそこから父に遠ざけられ、妻となった女性や子供とも長く時間を過ごすことができない。

英雄でありながら、ずっと孤独で寂しげなヤマトタケル
寂しいと言って叔母には涙を見せ、慰めてくれる人を求めている。それでいて、戦いになると猛烈な勢いで敵をなぎ倒していく。

自らの強さに気づいて、父に認められるためにもさらなる戦いに赴く。そして敵を倒しただけさらに傲慢になっていく。

…なんか、この孤独を戦いに変換していく感じ、

22年の大河ドラマ【鎌倉殿の13人】の源義経の描かれ方みたいだなと思ってしまった。

自分を認めてほしいと思うあまりに、戦いの中に自分の価値を見出していくような…。

この感じ方がすべてではないと思うけど、作品を通じてこのヤマトタケルの孤独がヒシヒシと感じられたのがすごくよかった。

ごく普通の青年が自分の価値を求めてもがいているストーリーみたいで、とても身近な感覚としても理解できたし、途中からヤマトタケルの幸せを願わずにはいられなくなる。

この辺りの良さは、主演の二人の若さがより際立たせる要素になるのかな…と思ったりもした。

そしてもちろん、そのヤマトタケルを慕い、支える女性たちにもまた一人一人にすごい感情移入しちゃうんだけど、それはまた別で深堀したいと思います…
私はこの女性たちの目線でこの舞台を見てしまった気がする。


あと“ストーリー”という点でこの作品が英雄の話なのと同時に、

紛れもなく【侵略者】の物語だったのもよかった。

ヤマトタケルが敵対する熊襲と蝦夷、そして伊吹山の神たちはどれもみんな魅力的。


「ヤマトを攻めようとしていない。ヤマトの国とは別に自分たちの思い描く国で暮らしたかった。」という熊襲、

自分たちが大切にしてものを壊し攻めてくるヤマトの民に、「米と鉄の武器だけが大事なのか。」と問いかける蝦夷。


理由もなく命じられるまま戦っているヤマトタケルより、仲間と一緒に自分の土地を守ろうとする熊襲兄弟やヤイラム、ヤイレポたちの方がよっぽど人間味がある言葉を話している気がした。

特に熊襲のシーンはとにかく熊襲の民がみんな豪快で楽しそうで、ただの蛮族には見えないんだよね…。

カニとタコの服とかめちゃめちゃファッショナブルやん…。最先端だよ絶対…。


異民族に感情移入してしまうかは人それぞれとしても、

神の子孫を自称する強力な武器を持つ民族が、次々にそこで暮らしていた民族とその土地を侵略していく。

これは日本の今に至る物語で、大きく言えば人類が地球上で繰り返してきた歴史の根幹にあるものなんだと思った。


そして歌舞伎という日本の伝統文化の中で、こうやってまっすぐ歴史を見つめていることに意味があると思うし、

それを押し付けずにあくまでも英雄の物語の影として描いていることも、この舞台の価値だと思った。


数回観劇するならこのあたりの物語に焦点を当ててみたら面白そう。


歌舞伎の未来


この舞台は歌舞伎の一つの作品でありながら、古い伝統になりかけている歌舞伎そのものへのメッセージ性も感じた。

ヤマトタケルが死んだあとの場面、
次の日嗣の御子となることを知らされたヤマトタケルの息子、ワカタケルが「お母さまはいつも、お父様のようになりなさいという。でもお父様が帝にならなかったのだから、私も帝になりません。」という。


それを母親である兄橘媛が諭す。
平和な国を築き、平和が永く続くことがお父様が本当に望んでいたことだからそれを叶えましょう。というようなセリフ。

父のたどった道筋をたどるべきか、意思を継いで別の道を行くか。

伝統文化の継承というのは常にこういったせめぎあいの中にあると思う。

過去に前例のないことをすることが好意的に受け取られない伝統文化の中で、このシーンに3代目猿之助と梅原猛の願いが込められているのかもしれない。そんなふうに思ったり…。

守りたい伝統とさらなる発展のために、新しい道を切り開いていく、また新しい英雄が生まれていく。そんな期待感のあるラストシーンだった。

最後に。

3Sの魅力を語りましたが、

本当はもっと素敵な部分がたくさんあるのにうまく伝えられない…この感動を色んな方に味わって欲しい!

ぜひ、一度観てみて欲しいです!!


この壮大で奥深い素晴らしい作品が、これからも歌舞伎を守るための新しい道であり続けることを願いながら…
私は團子さんバージョンのチケットを確保しました。

隼人さんよりもさらに10歳若い團子さん。
澤瀉屋の若き後継者、團子さんバージョンも楽しみたいと思います。


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