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隊長、爆発物です!(実話)

「隊長!爆発物らしき荷物を発見しました」
「よし、今すぐ爆発物処理班を呼べ!」

これらのセリフは刑事ドラマではなく、実際に体験したもの。少し盛ってあるが、実話。実際のセリフは以下の通り。


「あのー、爆発物反応が出ていますけど・・・」
「もう一回やってみて」
「再検査で3回トライして、全部アウトです」
「そうかぁ。警察に連絡して」



2001年 米国同時多発テロ発生(いわゆる9.11)
2006年 液体爆発物を使った航空機自爆テロ(未遂)
2009年 米国航空機爆破テロ(未遂)
2010年 米国向け航空貨物機爆破テロ(未遂)

これらのテロ事件を受け、米国は「米国乗入れの旅客便に搭載する航空貨物について、出発空港において爆発物検査を義務化」した(2012年12月施行)。

2014年からはすべての国際旅客便で爆発物検査が義務付けられている。


当時、筆者は通関業に携わっていた。本来なら海外に送る荷物(貨物)は空港で爆発物検査を受けないといけないが、特別な許可を取っていれば自社内で検査することが出来る。

筆者の担当は爆発物検査(爆検)。荷主が持ち込んだ品の爆検をし、合格証を発行してから社内の「通関部門」に回す。爆検をパスしなければ社内に持ち込めない。

そこで起きたのが「隊長!爆発物らしき荷物を発見しました」事件。敷地内の定められた「危険物置き場」に荷物を移動し、警察署に連絡した。

やってきたのは重装備の爆発物処理班・・・ではなくスーツ姿のお巡りさん2人。おそらく鑑識の人でしょう。「爆発物」の入ったダンボール箱まで案内すると

「これ、何が入っているの?」

と聞くので

「お客さんから預かった荷物で、書類上では〇〇とXXです」

と答えたら

「箱、開けて」

といわれたので

「マジ?爆弾だったらどうするの?」

とワクワク(笑)しながら箱を開けた。契約上すべての荷主から開梱の許可を得ているので問題はない。警察の人は中身をチェックしたあと何やら電話をしていたが、

「大丈夫です。問題ありません」

となり、通常とは違う爆検合格証を発行して一件落着。緊張感のかけらもない「爆発物処理」体験であった。もっともこっちも「誤反応」だとはわかっていたんだけどね。一応規則通りにやっておかないと、後から大変なことになるから・・・


爆発物反応は頻繁に出るが、実際に爆発物が発見されたことはない。反応が出ても、1時間後に再検査すれば反応が出ないケースがほとんど。当然これらは「合格」扱い。そのまま通関部門へと回される。


爆発物検査の社内資格を取得する際にいろいろと研修を受けたが、ほとんどが法律関係。爆発物検知器の構造についての説明はなかった。いったいどういう仕組みで爆発物を検出しているのか?不思議に思って調べたことがある。

ちなみに使用していたのは帝国繊維株式会社の携帯型爆発物検知器。

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爆発物検知器・・・テイセンより



爆発物から出る揮発性ガス(二酸化窒素・二酸化硫黄・塩化水素など)を、イオン易動度分光測定式探知器を使って探知する。


イオン易動度分光~ について詳しく知りたい方はwikipediaをどうぞ。


爆検のやり方は以下のとおり。

①絆創膏サイズの拭き取り材で対象物の表面をふき取る
②拭き取り材を爆発物検知器に投入
③検査結果が表示される

実際の作業は「絆創膏でダンボール箱についたほこりをふき取って、検知器の挿入口(右側にある銀色プレートの中央・白い部分)に絆創膏を差し込む」といった感じ。数秒で判定結果がでる。

「こんなんで爆発物がチェックできるの?」と疑問に思うだろうが、アタッシュケース大の装置ながら揮発性ガスを分子レベルで検出する優れものである。

研修時の説明によれば「爆薬があれば、その周辺にあるすべてのモノに揮発性ガスが付着する」らしいので、見逃すことはないらしい。科捜研の榊マリコさんもビックリである。

問題は「爆薬以外にも検査対象の揮発性ガスを発する物があるため、誤動作しやすい」ことだろうか。筆者が発見した「爆発物」もこれにあたる。

「反応あり⇒1時間後に再検査⇒合格」のケースは

「外箱の表面に外因による揮発性ガスが付着していたが、放置したことにより揮発。もし箱の中に爆発物が入っていれば箱の外に揮発性ガスが漏れ出してくるので、必ず反応が出る」

ので、放置後に反応が出なければOKとなる。

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