「おう、グラッガークとコスの名に懸けて!」

━━鉄牛(ベヘモス)に懸けて!おう、〈寒の曠野〉と赤い神の腸に懸けて!おう、おう、おう!
━━おう、人食い鯨と、寒の女と、その子らに懸けて!

「二剣士」シリーズが大好きです。
どのくらい好きかと言えば、自分でも「ちょっとどうかしてる」と思うくらい読み返しているレベル。

「二剣士」シリーズとはフリッツ・ライバーによるヒロイックファンタジーの古典的名作です。個人的には現在のRPGに与えた影響は指輪物語よりも大きいんじゃないかな、と思う。
日本ではコンピューターRPGから広まったから「RPG=長大なストーリー」と思われがちだけど、初期のD&D(そしてそこから生まれたWizardry)は、かなりこっち寄りのイメージがある。

その「二剣士」シリーズとは…北国生まれの蛮人で文明に憧れながらそれを軽蔑する゛灰色杖゛を振るう大男ファファード!出生不明で魔術をかじり灰色の装束を身にまとい゛手術刀゛゛猫の爪゛を振るう小男グレイマウザー!…この2人が「黒衣の都ランクマー」を中心に異世界ネーウォンで暴れまわるお話。
コイツらは決して正義の味方なんかじゃなくて、酒好き女好き宝石に目がなく喧嘩っぱやい「悪党」…少し上品に言えば「ならず者、アウトロー」なのですんなり冒険の動機に共感できるのです。

そして短編が中心なので読みやすいのも大きなポイント。発表順と時系列がバラバラでエピソード間の繋がりが緩いところはニンジャスレイヤーの第1部の雰囲気があります。
どこから読んでも大丈夫…とまで断言していいかわからないけど、1巻で2人が旅立ち出会うまでの設定はその後「円環の呪い」「痛みどめの代価」(少し「盗賊の館」)くらいにしか受け継がれてません。まぁその2エピソードで〈目なき顔のシールバ〉〈七つ目のニンゴブル〉と出会うので、ある意味全て繋がってるとも言えるのですが。その都度説明があるので後から読んでも構わないかと。

そんなわけでお勧めのエピソードを挙げてみよう。

「憎しみの雲」
いきなりコレを挙げる辺り、ひねくれてる。
領主の娘の婚礼に浮かれるランクマーを〈憎しみの教団〉が産み出した霧が襲う。一方我らが二剣士は路上で火鉢に当たりながら「何で自分達には金がないのか」について愚痴をこぼす。
ひねくれてる…と言いつつもこのエピソードはランクマーの退廃、ファファードの蛮人としての迷信深さ、マウザーの皮肉っぽいところ、そして2人の息の合ってるところ…と言うシリーズの肝の部分が詰まってると思う。
あと先に書いた「エピソード間の繋がりが緩い」部分がこのエピソードで出てくるのですが、その直前までとこのエピソード以降ではランクマーの領主の名前が変わってると言う…。コレに長い間悩まされてきたけど、その辺の話についてはまた今度。

「沈める国」
大海原でファファードが釣り上げた魚の腹から出てきた1つの指輪。この指輪に導かれ、ファファードの一族に伝わる伝説の地シモルギアにたどり着く事になる…。
海底に沈んでいたシモルギアや、そのシモルギアにとりつかれた男たちの描写なんかがかなり怪奇趣味。
つか、クトゥルフ。シモルギアってルルイエだよね…?

「七人の黒い僧侶」
ランクマーへの帰還途中、未開の地で原始ネーウォンを崇拝する謎の教団の縄張りに踏み込んでしまった2人。彼らの神像の目である巨大ダイヤモンドを奪った事で次々に襲いかかる黒い僧侶たち。そして神像の目に隠された謎とは…?
戦闘と旅による緊張と緩和のテンポが気持ちいいエピソード。

「ランクマーの夏枯れ時」
固い絆で結ばれた2人に訪れる別れの時。それぞれがランクマーで進むべき道を見つけ新しい生き方を始めるが…再び2人の運命が交じりあう。
色んな人が最高傑作に挙げるであろう、友情と皮肉と笑いのエピソード。
キレイに決まるオチがたまらない。

「星々の船」
その頂から神が星を空に上げたとの伝説が残るネーウォンの最高峰〈スタードック〉に挑む2人。目的は山頂に残されてるかもしれない宝石と伝説の女。相手は大自然なので一筋縄ではいかず、悪天候や謎の敵が行く手を阻む。登山の描写がかなり細かく、戦闘とは違った緊張感がたまらない。
女2人から手に入れた宝石が次の短編でどうなるか…も、このシリーズらしくて良い。
ちなみにコレと「クレイジークライマー」を足すと忍殺の「タワー・オブ・シーヴズ」になります。

他にも魅力的なエピソードがいっぱいあるけど、この辺で。この調子だと全部挙げそうなので。

新訳版が出てからも、もう10年なので見つけるのに苦労するかもしれないけど見かけたら即手に入れる事をオススメしたい。
面白いよ。

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