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赤ちゃんへの「注目」の使い方

赤ちゃんは大人が怒っているのに笑う。やってほしくないことをして叱っても、効いていない。でも、やめてほしい。どうすればよいのか。結論は「やってほしくないことに注目を与えない。そのかわり、当たり前にやっていることに注目する」ということです。

赤ちゃんの行動の目的

赤ちゃんのさまざまな行動の目的のひとつは、他人から注目をしてもらうことであると言えます。他者からの注目によって、自分の存在が受け入れられていることをたしかめることができるからです。

ヴァスデヴィ・レディという研究者は、鏡や映像などを用いた実験から、赤ちゃんは生後2ヶ月ごろにはすでに大人の注目の対象が自分であることに気づいており、その気づきこそが自己や他者を理解することにつながると論じています。大人の無関心な表情を見たり、注目されていないことに気づくと、注目を求める呼び声をあげるということを論拠としています。(https://www.researchgate.net/publication/229440820_Coyness_in_Early_Infancy

それもそのはず、赤ちゃんは自分だけでは空腹を満たすことができず、他者が世話をしてくれなければ生きていくことができません。そのために他者の注目は必要なのです。

赤ちゃんは、自分がやった行為に対して他者がどのように注目したかをパターンで記憶し、再現しようとします。どうすれば注目がえられるか、大人とのコミュニケーションの実験をしています。その実験を通して、注目をえるための戦略を練っていると考えられます。

他者からの注目を得るために、コミュニケーションの実験を通して戦略をブラッシュアップしている、と言えるでしょう。

注目がない時間が最も辛い

親に怒られるとニヤニヤ笑う赤ちゃんは「遊んでもらっていると勘違いする」という説があります。赤ちゃんは自分に向けられた親の表情の変化を刺激として感知します。

怒りの表情も、笑顔も、真顔とは異なるため、刺激になります。親が怒ったとしても、その表情の変化を刺激として喜んでしまうのです。感謝されたり褒められたりするポジティブな注目が得られなければ、叱られたり怒られたりするネガティブな注目でもよいのでしょう。

一方で「注目/刺激がない」という状態は退屈で辛い状態です。

「スティルフェイス」という実験があります。赤ちゃんが親に微笑みかけ、それに対してポジティブな表情や声で反応されると喜びますが、親の反応がなく無表情だと戸惑う、というものです。つまり、赤ちゃんにとって最も辛いのは「無反応」なのです。

褒めるか叱るか、ではなく、注目するかしないか

では、私たち大人は、やってほしくないことをする赤ちゃんに対してどう関わればいいのか。無反応や無視はネグレクトになってしまいます。そこで、叱るでも無視するでもない、「注目しない」という戦略をとることができます。

赤ちゃんは「こんなことをしたら、親は反応するだろうか?するとしたらどんな大げさな反応だろうか」と、反応を期待をしていろんな実験をしています。

何かいたずらめいたことをしたら「あ、そういうことをされると嫌な気持ちになります」などと小さめの声で目を合わせずつぶやき、さらりとその行為をスルーします。赤ちゃんはまだ反応を期待しています。

「こんなことをしたら親はどんな反応をするだろうか」という赤ちゃんの実験にあえてつきあい、「注目されなかった」という結果を出してあげる、ということです。

ある行為に対して、褒めるか叱るかで考えてしまいますが、注目をするかしないかを選ぶことができます。特に注目されず、そっけない対応をされると、この行為をしても「つまらない」と認識し、頻繁に繰り返さなくなる可能性が考えられます。

当たり前の行動に注目する

その代わりに「当たり前にやっている良いこと」に注目をするようにします。

たとえば、ハイハイをがんばってしている。おもちゃで一生懸命遊んでいる。喃語の発声をがんばっている、など。それらの行為に「ハイハイがんばってるね!」「おもちゃで一生懸命遊んでいるね!」「おしゃべり楽しそうだね!」と注目と声かけをします。そのようにすると、そうした「当たり前にしている良いこと」を繰り返すようになるかもしれません。

大げさに褒める必要はありません。さりげなく、「いいね!」と声をかけたり、表情や仕草で示したりするだけでも十分価値があります。

使い方には要注意

褒めるか叱るか、以前に「注目」を与えるか否かを選ぶことで、コミュニケーションのパターンが変わる可能性はおおいにあると言えるでしょう。その分、相手の行動をコントロールできてしまうので、気をつける必要があります。

このときに大切なことは2つあります。

1つは、「当たり前の良いこと」を観察する目と心をやしなっておくこと。

もうひとつは、自分(たち)の「世界観」を把握しておくことです。

「赤ちゃんのどんな行動に注目を与えるか」を選択する権限はあなたに委ねられています。あなたが何を良いこととし、何を嫌なこととするのか、そうした「世界観」によって選択は変わってくるでしょう。

子育てをする夫婦であれば、自分たちの世界観はどんなものなのかを考えておくことが大切であるといえそうです。

まとめ
・赤ちゃんの行動の目的は「注目」を得ること
・褒めることも叱ることも刺激で、注目を与えることになる
・「無関心」「無反応」という注目のない状態が一番辛い
・過度に刺激を与えずスルーする「注目しない」という方法がある
・代わりに「当たり前にやっている良い行動」に注目をする
・注目のために「当たり前」を観察する目と心を養う
・何を良しとするか、自分たちの「世界観」を把握する

*今日ご紹介した「注目」については、『仕事も家庭も充実させたいパパのための本』(熊野英一著)にとてもわかりやすくまとまっています。

*「応用行動分析学」における「強化」「弱化」もかなり似た考え方です。

さぁ、これから子どもや他者のどんな行動に注目しようか、と考えていただいている方に、この曲を。


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