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極地×育児 ー子連れOKのトークイベントに登壇しました

7月7日の七夕の日、トークイベントに出演してきました。極地建築家の村上祐資さん、amuディレクターの千々和淳さんとの鼎談で、タイトルは『極地×育児 ー正しく恐れる、正しく模する』です。

宇宙服を着て喋ったり、なによりトーク相手があの極地建築家の村上さんということだったり、内容はもちろん面白かったのです。しかし、なにより特筆すべきは、「子連れOK」のトークイベントだったということです。

ぼくは、トークイベントやワークショップ 、あるいは劇場で演劇を見ることなどもふくめて、もっと子育てするパパママに開かれて良いと思っています。子どもではなく、子育てする親が刺激を得るために、です。今後そういう場をつくる人たちの参考になるかもしれないと思い、この記事を書いておきます。

「極地×育児」!?

テーマは極地×育児。南極やエベレスト、そして火星移住の実験など、さまざまな「極地」での暮らしを実践してきた村上さんの経験を、別の視点をもった人が紐づけながら語るトークシリーズの第1弾です。

VMQ2019の活動で知り合ったamuディレクターの千々和さんがぼくに声をかけてくださり、登壇することになりました。テーマについて、千々和さんが書いてくださった告知文をぜひ読んでください。とても素敵な文章です。

極地では、何によって死に至るかが未知数です。人間の身体の構造、どうすれば怪我をするか、どうすれば凍死に至るかなどを良く知っておくことで、「正しく恐れる」ことができ、未知の世界にも立ち向かえる。

こうした考えを、村上さんは子ども向けワークショップでも転用しているそうです。ドリルやのこぎりを使う前に、子どもたちに「どういう仕組みで血が出るのか」「血が出続けるとどうなるのか」を説明しておく。そのうえで、村上さんが道具の使い方を見せる。そうすると、ものすごい集中力で村上さんの身振りを見るそうです。

こうした隊長としての村上さんのふるまいは、赤ちゃんの学習を促す大人、ファシリテーターとしてのあり方においても非常に参考になります。

子連れOKのトークイベントとは

さて、それらの内容についてももちろん書きたいのですが、今日は内容ではなく、「子連れOKのトークイベント」という場のあり方とその効用について書きます。育児をテーマにしたトークイベントとして「子連れ大歓迎!」と銘打ったところ、生後2ヶ月の赤ちゃんから小学生までがワイワイとあつまる、素敵な場になりました。

そもそも、トークイベントやワークショップには、大人限定のものが多く、明記はされていないもののやんわりと子どもは排除されています。というのも、子どもを連れて行く親が「うちの子連れて行ったら迷惑だろうな」と自粛してしまうからです。

たとえ内容が遊びや育児をテーマにした講演会でも、そういう場合があります。なんということでしょう。でも、今回は、育児中のパパママにきてほしかった。子育てをしているなかでは出会えない、刺激的な存在としての村上さんに会ってほしかった。

その思いを実現できたのには4つの要因があったように思います。1つ目は素敵な会場構成。2つ目はマインドセットの共有がうまくいったこと、3つ目に道具立て、4つ目にそしてめちゃくちゃ遊んでくれたお父さんの存在があったことです。

子どもを中心とする会場構成

まず、どのような会場構成だったか。正面に村上さん、千々和さん、ぼくの三人が座り、トークをします。そして、目の前に、4畳半ほどの広さのウレタンマットが敷かれています。その後ろに、通常のトークのように椅子が並べられています。

ふつうにトークを聞きにきたお客さんは、椅子に座って、子どもたちが遊ぶ姿越しに、我々登壇者を見ます。なんともヘンテコな光景です。

そして、ウレタンマットの上で子どもと遊ぶ親たちは、遊びながらトークに耳を貸します。登壇者の顔やスライドをじっとみることはなく、たまにチラチラと見る程度です。

会場に娘をつれて来てくれた妻いわく「子どもがいてOKな場ですよ!ということが、会場構成から伝わってきて安心した」とのこと。

たまに子連れOKのイベントでも、会場の隅っこに場が設けられたりしていて、そこでうるさくすると、集中して聞いている人にとっては後ろからノイズが聞こえてきます。

それよりも、いっそ目の前に子どもがいれば「何をしていてうるさいのか」がちょっとわかってストレスが軽減されるのかもしれません。

心構えとしてお願いしたこと

とはいえ子どもがわんさかいるトークイベントというのに慣れている人はほとんどいないでしょう。ほんの8名くらいの子どもたちでしたが、それでも「わんさかいる」という印象を生み出すのが子どもの振る舞いの力です。

トークの最初に、こんなことをぼくから話しました。

「今日は育児がテーマということで、子連れOKの客席をつくっていただきました。子どもがうるさくしても聞こえるようにマイクで音を出しています。どうか、家で子どもと遊びながらラジオを聴くような気分で聞いてください」

この言葉がけがどれだけ効果があったかわかりません。ぼくたち登壇者の3人も事前の打ち合わせで「ラジオのように、話に夢中になってしまいましょう。リスナーのことは意識しつつ、目の前に子どもがいないかのように話しましょう」と合意を取っていました。

子どもの発するノイズに気をとられると、話が深まらなくなってしまう。目の前で子どもがワイワイしているのに、目の前に子どもがいないかのようにトークをする。でも内容は子どもの話をしている。

っていうこの歪んだ空間が、なんだかとても面白かったです。

付箋、マステ、紙コップ

ウレタンマットだけがあっても、子どもの遊びは加速しません。すぐ飽きて走り出してしまうでしょう。そこで、amuにあった付箋とマスキングテープ、そして紙コップを用意してもらいました。

紙コップが赤ちゃんの遊び道具として抜群に人気であることは、経験上よくわかっていました。マスキングテープも、普段使っちゃダメだけど、ぺりぺりできたら楽しいです。付箋もシールがわりになります。

とはいえ、これで遊べるのかな〜?と思ったら、赤ちゃんたちはそれなりに楽しんでくれました。しかし、それをはるかに凌駕する勢いで楽しんでいる1人の大人の存在がありました。四畳半のウレタンマットを楽しくて仕方がない場に変えてくれました。

本気でつくってあそぶ大人の存在

ウレタンマットのスペースに、本気で遊んでいたお父さんがいらっしゃいました。彼の存在が、今回本当に大きかった。その方は「トークがほとんど耳にはいらなかった・・・ざんねん・・・」というようなことをおっしゃっていました。

ぼくたちは、彼に本当に感謝しなければなりません。

彼はトークがはじまるやいなや、宇宙についての話だったからか、付箋を丸めて柱状にし、紙コップとつなぎ合わせてロケットを作り、休憩を挟んでからはロケットを解体して光線銃につくりかえていました。そしてトークの終盤には「お菓子をつくろう」といって、カップケーキに見立て、クズになってしまった付箋やテープを詰め込んで可愛いケーキを作っていました。

これは、単にカップケーキをつくったわけではないのです。カップケーキづくりという名の「片付け」をさせていたのです!造形ファシリテーションのプロなのかと思いました。

何より、その方の目が生き生きとしていて、子ども以上に作ることを楽しんでいました。作って遊ぶのが大好きな方なのでしょう。そのアウラに、場が感化され、少年たちはおろか赤ちゃんたちも四畳半のウレタンマットのスペースで夢中になって遊んでいたのだと思います。

聞けばその方は村上さんと千々和さんと共通のお知り合いだそうで、とてもクリエイティブなお仕事をされている方でした。そういう方をお客さんとして呼べるネットワークに支えられて、この日のイベントがあったんだなぁと、嬉しく思いました。

子育て中のママへの効用

一緒にきていた娘も、紙コップや付箋やマスキングテープで必死になって遊んでおり、ベビーカーに乗って帰り道を歩き始めた瞬間にぶっつぶれて寝ました。

その帰り道、妻に感想を聞きました。

「南極とか宇宙とかのスケールの話と、あなたの話がどこまでつながるかわからなかったけど、あんなふうにアナロジーできるのね」

「スケールが大きい話が聞けて、息抜きになったよ」

「あと、ちょっとしか話せなかったけど、来てるママたちがみんなセンスのいいママたちって感じがして、嬉しかった!また会いたい!」

など、ポジティブな感想をもらえて胸をなでおろしました。ありがとう、妻よ。

まとめ

ワンオペで育児をしていると、どうしても移動距離は狭まってしまう。ママ友同士であつまると、子育ての話ばかりになってしまう。

今回のトークでは、身近にある育児と、遠くにある極地が次元をこえてつながる話でした。日常にさわやかな風を吹き込む窓であり、日常をリフレッシュするヨガとかサウナとかのように機能できたように思います。

子育て中の親にとって、こういう刺激やリフレッシュの場はほんとうに救いになります。ぼくも育休を一年とっていて閉塞感で潰れそうになっていたとき、演劇の仕事をもらったことでどれだけ救われたか。

もっと、トークイベントもワークショップも演劇や美術館も、子連れウェルカムなムードをどんどん作っていってほしい。

子どもを預ける罪悪感などないように、子どもと「ともに」楽しめる場づくりを、おれも!これからも!つくっていくんや!と意を決した時間になりました。

村上さん、千々和さん、そしてめちゃくちゃ遊んでくれたお父さん、ご来場いただいたみなさま、ほんとうにありがとうございました。

写真提供:特定非営利活動法人フィールドアシスタント

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