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この身体を真剣に生きている ー「子どもの身体を踊る」によせて

(Photo by 松見拓也)

2019年3月24日(日)、ぼくが心から楽しみにしていた企画『子どもの身体を踊る』が開催されます。0歳から大人まで50人近くの人たちと、ダンサーの砂連尾理(じゃれお・おさむ)さんをゲストに迎えたワークショップです。(*ありがたいことに満員御礼となりました!)

というわけで、この企画の参加者の方、あるいは参加できないけど興味を持っていただいている方に向けてnoteを書きます。

はじめに、今回の企画の経緯を紹介します。そして後半では、リハーサルで砂連尾さんとミミクリデザインの青木翔子さんと話し合った大切なポイントについて紹介し、最後にワークショップのタイムラインを説明します。

Baby Viewから砂連尾さんのダンスへ

そもそもこのワークショップは、ぼくが自著『意外と知らない赤ちゃんのきもち』で書いた「Baby View」を起点に構想されました。「Baby View」とは、赤ちゃんの身体の中に入り込むようにして、動きや感情、興味の矛先を想像するマインドセットです。

このテーマでワークショップをつくりたいと、ミミクリデザインの青木さんに相談をし、「臼井さんが一番やってみたい企画ってどんなものですか?」と質問され、とっさに思いついたのが、砂連尾さんとのコラボレーションでした。

砂連尾さんは、身体を通した人やものとの対話をダンスとして表現をしているアーティストです。ぼくは、書籍にもなった<とつとつダンス>の活動で砂連尾さんを知り、音楽家野村誠さんとの作品や、その他様々な活動をフォローしていました。

そのなかでも、ぼくが最も衝撃を受けたのは、映画『ハッピーアワー』のなかで、砂連尾さんが構成を担当されたワークショップのシーンでした。

映画『ハッピーアワー』の衝撃

『ハッピーアワー』は、30代後半の女性4人が主人公で、序盤に彼女たちがとあるワークショップを体験するシーンがあります。他人の重心に耳を傾け、触れ、自分の重心を預けてみる。そうした身体の接触を通して、自分や他人の重心のゆらぎを感じ取る。すると、そのワークショップが終わってから、彼女たち4人の人生が、おおきくゆらぎはじめる

重心の移動、身体の接触という視点でうえのトレーラーをみてみると、身体性の要素が散りばめられています。

そう、身体をつかったワークショップによって、人々の人生さえも、大きくゆるがしてしまうという物語なのです。そんな映画を観たことありませんでしたし、ワークショップの作り手として、大変ショックで、また同時に強く魅了されていました。

アートは、ときに開けるべきではなかったかもしれない感覚の扉を開けてしまう。アートのワークショップをするということは、そういう危険を孕むものなのかもしれない。だからこそ、魅惑的である。作りたいワークショップがあるとすれば、そのようなものだと思いました。青木さんへの質問に対して、『ハッピーアワー』の話をし、「砂連尾さんを呼んでしまおう」と返します。

他者の動きをなぞる「トレース」という手法

もうひとつ、砂連尾さんとワークショップをつくりたい理由がありました。それは、砂連尾さんのご著書のなかに「他者の動きをなぞる」という考え方が登場することです。この方法を、赤ちゃんとも試してみたい、という思いがぼくのなかにはありました。

ベルリンに「劇団ティクバ」という障害のあるパフォーマーのカンパニーがあります。砂連尾さんが彼らとコラボレーション作品を作ったときのことを、こう表現しています。

足の自由が利かない人の這うような動きをなぞってみると、自然と僕のポジションも下がる。すると想像もしていなかった低い視点から広がる風景が、僕の目の前に広がった。

自分とは異なる他者の身体をなぞるようにして、相手の見ている世界を体感することから新しいダンスの可能性を探求する砂連尾さんからは、障害者や高齢者へのケアを「してあげる」という発想は微塵も感じられません。

このような身体の動きをなぞるという考え方は、「トレース」と呼ばれ、今度は小津安二郎映画の登場人物の動きをなぞると言うワークショップにも発展していきます。

この「トレース」という方法を、赤ちゃんや子どもにもやってみると面白いのではいかと思ったのです。今回の『子どもの身体を踊る』では、このトレースが中心的な活動になります。

そんな経緯で、9月に友人につないでもらい、砂連尾さんと初めて食事にいき、いろんな思いを共有させてもらいました。

握手をしたとき砂連尾さんの手は柔らかかったし、食事しながら「コップに振り付けられることもできるんだけど、でもおれはコップを戸惑わせたい」って言っててぶっ飛んでるのを感じたし、「臼井さんって意外とヤクザですね〜」と言われてあははははと思いながら、今回の企画がスタートしたのです。

『子どもの身体を踊る』の中心となるテーマ

では、今回のワークショップ『子どもの身体を踊る』は、いったいどのような企画なのか。まず、最も大切にしたいと思っているテーマから説明します。

このワークショップで最も大切なことは「自分の身体と世界観をしっかりみつめる」ということです。

これはとても難しいことなのですが、まず、保護者の方は「母親」「父親」といった役割をいったんはずしてみてほしいのです。そして、大人の参加者の方も「子どもを楽しませる大人」を演じる必要はありません。

子どもは「遊んで!」と、大人におどけや遊びを期待します。あるいは、お子さんが泣いちゃったり、騒いだりすることもあるでしょう。もしかしたら「子どもが騒いでしまって申し訳ない」あるいは「子どもがかわいそう」「私が子どもを見ていなきゃ・・・」といった気持ちなど、いろんな気持ちに引き裂かれると思います。

でもどうか、ぐっとこらえて、どうかこの日だけでも、ご自分の身体と対話してみてください。このワークショップでは、無理に子どもたちにレスポンスしなくてもOKです。そのための時間を、精一杯ご用意するつもりです。

砂連尾さんと一緒に、ワークに集中して、じっくり身体と対話してください。身体と対話しながら動くとき、そのイメージや世界観が、動きに滲み出てくるはずです。「今、私はこの身体の世界観を、真剣に生きているんだ」と子どもにむかって示したときに、案外、子どもはその世界を尊重してくれるし、すっと入ってきてくれたりします。そうなるまで、じっくり待ってみてください。

とは言ってもなかなかわかりにくいですよね・・・。当日、どんなふうにするのか、砂連尾さんがやってみせてくれます。

ワークショップの進行プラン

どんなふうにワークが進むのかも書いておきますね。(といっても即興で変更になる可能性もありますが。)

10:30に会場オープン。ゆるやかに砂連尾さんとお話したり、ぼくも子どもたちと遊んだりしながら、のんびり開始を待ちます。

11:00にスタート。簡単に1日の流れを説明し、上記のテーマについて、共有をします。

イントロダクションが終わってから、ストレッチをします。個人でするだけじゃなく、人に手伝ってもらいます。手伝ってもらいながら身体をほぐすことで、新しい発見がありますし、手伝うほうにも発見があります。触れてみると、人の力がほどよく抜けた瞬間がわかったりするんですよね。面白さ。

ストレッチをしてほぐしたあとは、子どもと一緒にできる楽しみなワークが待っています。砂連尾さんは、長年合気道をやっておられます。他者の力やエネルギーをいなしたり、身体の厚みでもってしなやかに受け止めるやり方を、少し教えてくれます。これがとっても面白い。子どもと大人が触れ合いながら、互いの力や重さをうけとめるということを体験できるワークになりそうです。

こうしたワークでじっくり体と心をほぐしたら、12:30頃にお昼休憩に入ります。お昼の間も、砂連尾さんとおしゃべりしたり、ちょっとしたワークをしてみたりして、意外と楽しい時間が待っているかもしれません。

午後は13:30頃からスタート

いよいよ「子どもの身体を踊る」というタイトルの真髄に迫っていきます。

まずは、再度身体をほぐしてから、「トレース」と言う方法を体験します。といっても、シンプルに動きを真似するだけです。でもこれが、実に奥深い。

みんなで砂連尾さんの動きを真似してみたり、誰か子どもの動きを真似してみたりして、みんなでトレースし合います。普通の速さで動いてみたり、スーパースローで動いてみたり、何かの動きを再現したり、ダンス的な動きをトレースしたり、いろんなやり方を試します。

トレースは、他人の動きをみて、自分で再現するというシンプルなものなのですが、感覚で入力した情報を、運動で再現するというのは、実はとても複雑なことをしています。そしてトレースしながら、身体はいろんなことに気づいていきます

たとえば、下半身で重心移動をさせながら、手を上に持っていく、というように、2つや3つ以上のことを同時に見ながら、さらに運動で再現する。入力と出力を同時にこなす面白さに気づくはずです。

こうしてトレースを体験したら、一回休憩します。結構動きますし、子どもの動きは素早いこともあるとおもうので、疲れるでしょう。

14:00頃、休憩から戻ってきたら、今度は別の方法でトレースを試します。ここはちょっとまだネタバレしないようにしますね。「え!?そんな方法があるの?」と思うようなことかもしれません。でも、やっていくとだんだんできてくる。

そして、最後は、グループになって子どもの動きを、真似するトレースと、もう1つ別の方法のトレース、2つを使ってトレースして、音楽に合わせてセッションしてみます。この時に何が訪れるか、ここだけは、僕も予想がつきませんが、きっと素敵な時間になるはずです。

15時からは、少し休憩をして、振り返りのトークセッションに入ります。参加者同士で対話をしてもらったり、ミミクリデザイン代表の安斎勇樹さんを交えたクロストークを行います。

終了後は、砂連尾さんにも参加していただく打ち上げがあります。ここでの語りも、録音必須ですな。

みなさんと一緒につくる楽しみ

というわけで、今週末、本当に本当に楽しみです。参加者のみなさんと一緒につくるものなので、どんなふうになるかはぼくもわかりません。ぜひ、ご自身や他の参加者の身体との対話を楽しんでください。

そして、どうか「何かパッケージされた技術を得よう」という気持ちではなく、まだ価値化されていない身体の動き方や心の持ち方を、実験に参加し、一緒に探求するような気持ちで、お越しいただけたら嬉しいです。

ただ1つ確信していることは、ぼくが今まで見たことのないワークショップの風景に出会えるだろうということです。

またレポートも書きます。ご参加いただくみなさまには、お会いできるのを楽しみにしています。そして、ご参加いただけなかった方も、是非次回も開催したいと思っているので、ご要望の声をコメント欄やツイッターなどでお寄せください。

ハァ、、、楽しみです。

砂連尾さんのホームページです。

ご著書もぜひ!

拙著もあわせてどうぞ!


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