挨拶

赤ちゃんと関わるときのマインドセット②

こんにちは、臼井隆志(@TakashiUSUI)です。普段は0~2歳の赤ちゃん+保護者向けワークショップの開発とファシリテーションをしています。ここでは「子どもの探索活動」をキーワードに認知・発達・振る舞いについてのリサーチ過程を公開していきます。

前回の記事では「赤ちゃんの世界を想像する方法」についてご紹介しました。赤ちゃんを観察し、真似して、その体験を言葉にする、という方法です。

今回は、いざ赤ちゃんと対面したときの心構えについて書きます。母でも父でもなく慣れ親しんだ祖父母やシッターでもない、赤ちゃんにとっての「ヨソ者」がどのようにして「一緒に遊んで楽しい人」に変わっていくのか。その過程を描いてみました。

ここに書いてあるのは、自分を受け入れ、空気を無理に変えようとせず、相手と目線を重ね、普通に話しかけるということ。当たり前に思えるけど難しいことです。

赤ちゃんと関わる10のコツ

ここでは「生後10ヶ月でハイハイするようになった男の子に会いに、友達の家に行く」というシチュエーションを想定しましょう。

① 興味を持つ

「どうしよう、うまく関われるかな」と心配になります。とはいえ誰だって「あなたに興味があるんです!」と、下心なく言われたら、ときめきますよね。

赤ちゃんもそれとおなじで「この人はぼくに興味を持ってくれている!」と思えば、悪い気はしないはずです。赤ちゃんがどんなものを楽しむ子なのかを観察しつつ、子育て中の友達の話をインタビューするつもりで行くといいかもしれません。

② 赤ちゃんネイティブの人に憧れない

赤ちゃんは自分のことを気に入ってくれるだろうか…という心配もあります。

稀に赤ちゃんから大人気で、ものすごく好かれる人がいます。とくに子どもに関わる仕事をしていなくても、子どもたちのふところにスッと入ってしまう。「あ〜そういう人いるいる」と思い当たる節、ありますでしょうか…?

しかし、彼らは類い稀なる「赤ちゃんネイティブ」の人たちなので、憧れる必要はないです。無理に赤ちゃんネイティブの真似をしなくても、丁寧に関われば信頼関係を築くことができます。

(例えば、写真家の岩合光昭さんは、猫の文法がわかっていて、その文法のなかでふるまうことができる「猫ネイティブ」なのかもしれません。)

③ 緊張している自分を受け入れる。

いざ、赤ちゃんとの対面です。

赤ちゃんはびっくりするぐらいこちらの緊張を感じ取ります。緊張している人の間の悪さやたどたどしさが、居心地を悪くさせるのでしょうか。ぼくも慣れない頃はよく泣かれました。

そうは言っても、初めて海外で英語を喋るときに緊張するように、赤ちゃんと触れ合うときは緊張します。そういうときに緊張している自分を拒否しようとすると変なテンションになったり、黙ってしまって楽しく遊べなかったりします。緊張することは仕方がないので、緊張していることを受け入れます。

あと思い切って赤ちゃんの保護者に「すみません、慣れていなくて緊張しています。でも一緒に楽しく遊びたい思いはあるんです」と言ってしまうと、ちょっと楽になることも。

④ 挨拶をする

これから遊ぶ赤ちゃんに会ったらまず挨拶をします。名前を名乗ったりもします。たとえ覚えられなかったとしても、今この瞬間において「この人はこれから私に関わろうとしているのか」ということぐらいは思ってもらえるかもしれません。

赤ちゃんと目があって「この人は私に話しかけている・・・」と思っているな〜、と感じることができたら成功です。

⑤ 空気になる

挨拶しておいてオイという感じですが、そこから先は「自分はこの環境を形成する空気なのだ」と思うようにしています。

これはぼくの感覚ですが、赤ちゃんにガシガシ関わろうとして無理に空気を変えようとせず、ぼくがぼく自身を空気のように感じているとき、赤ちゃんもすごくリラックスしているように感じます。雑念のない無我の境地って感じです。

母でも父でもない第三者がいても、赤ちゃんが「この空気、居心地悪くないぞ」と思ってくると、だんだんと自分のことを環境の一部ではなく、人格として認識し始めるように思います。

⑥ 赤ちゃんの目線を追う

「環境の一部から人格をもった他者へ」という赤ちゃんの認識の移行があります。

そのとき、無理に赤ちゃんの目線をこちらに引きつけようとするのではなく、赤ちゃんの目線を追いかけて、同じものに着目することで、不思議とコミュニケーションの土台ができていきます。

赤ちゃんが見ているものを見ると同時に、こちらが同じものを見ていることを赤ちゃんに気づいてもらうこと。これがができれば、お互いの目線を共有している状態=ジョイントアテンションの完成です。(日本語では「共同注視」と言いますが、これはとても面白い概念なので、次回の記事で紹介します。)

たとえば、目線の先にボールがあったとします。ボールを見て一体何を考えているんだろう、ということを、前述のBaby Viewをつかって想像してみてください。

⑦ 物理実験をする

赤ちゃんの目線の先にあるものは、赤ちゃんが興味を示しているものです。そのモノをつかって物理実験をしてみましょう。

ボールであれば、つかんで落とす(重力・加速度チェック)。紙なら、くしゃくしゃにしてみる(堅牢度チェック)。入れ物にモノを詰め込みまくってみる(容積チェック)。叩いてみる(サウンドチェック)などです。

その他、身近なものでどんなことを楽しむかは、先の「赤ちゃんは遊びのなかで何を楽しんでいるのか」をご参照いただきつつ、今後の記事でもご紹介していきたいと思います。

⑧ アイコンタクト

この実験をしていて、成功したときや何か面白いことが起きた時「近くにいる大人と一緒に喜びを共有したい!」という気持ちが赤ちゃんにもあるようです。

あるいは「④挨拶」や「⑤空気になる」の段階で、自分の顔にものすごい興味を持たれる場合もあります。赤ちゃんって人の顔をじ〜っと見ることありますよね。電車の中でめっちゃ見られたこととかありませんか?

そのとき、赤ちゃんは相手の顔のパターンを記憶と照合し、既知の顔か未知の顔かを判断しているのかもしれないと言われています。

そういうときは、自分の顔を使って遊んでしまいます。ベタなところでは「いないいないばあ」をしたり、頭の上にモノを乗せて落としたり。顔も身体も使い様によっていろいろな遊び道具になります。

⑨ 普通に話しかける

こうして実験を一緒に楽しみ、目線の共有ができると、赤ちゃんと共有された空間ができていきます。「あー」とか「うー」とか喃語で話しかけてくるかもしれません。

赤ちゃんに話しかける時、いわゆる「赤ちゃん語」を使ったほうがいいという研究もあれば、普通に話しても変わらないと言う専門家もいます。自分に合うスタイルであれば、どっちでもいいのだと思います。

ぼくも「赤ちゃん言葉」を使わなきゃいけないのかと思って凹んでいたことがあったのですが、「丁寧に話しかければそれでいい」と割り切りました。普通のトーンで話しても、赤ちゃんが「この人、何か話しかけてくるぞ」と思っているな〜と思えれば、全く問題ないです。

⑩ 褒めない

以前「上手上手病」(赤ちゃんが何をしても「上手」としか言葉が出てこないボキャ貧状態のこと)について書きましたが、よほど感動して思わず口をついてでないかぎり、褒めることはしないようにしています。

赤ちゃんがボールを転がしてドヤ顔をしてきたとしても「上手〜!」とか「すご〜い!」とかは言う必要ないです。というか、本当にそう思っていればいいのですが、そう思っていますか?という話で。ボールをころころ転がしたら「ころがったね」とそれでいいのです。

もしあなたがインタビューをされるとして、相手が自分を褒めちぎってばかりでは、「で、何が聞きたいんですか?」となりますよね。

質問をされることで思考が促されたり、「あなたの話に関心があります」ということが相手から伝わってくると、話を重ねたくなります。赤ちゃんに対しても、こんな風に対話をやめないことが重要です。

まとめ

赤ちゃんと関わるとき、母でも父でもなく慣れ親しんだ祖父母やシッターでもない「ヨソ者」として存在しなければならないこともあります。今回は「ヨソ者」から「一緒に遊べる人」になるまでの過程を描いてみました。

こうすれば赤ちゃんと仲良くなれる!というわけではありません。あくまでぼくの個人的な経験則から、うまくいったパターンをとりあげただけですが、何かの参考になれば幸いです。

とくに「⑥赤ちゃんの目線を追う」の段階で、赤ちゃんと自分の視線を自然と重ねることができるようになってくると、すごく面白くなってきます。ぜひ、子どものいる友達の家に行った時に試してみてください。

ちょっとまた長くなってしまいました。次回は「赤ちゃんの探索の世界はどのように変化していくのか[理論編③]」です。「泣く」という行為から始まる他者との関わりの世界の広がりを書いていきたいと思います。

赤ちゃんの探索環境デザイン 目次

1. 赤ちゃんは遊びのなかで何を楽しんでいるのか[観察編]
2. 赤ちゃんは遊びのなかで何を楽しんでいるのか[理論編①]
3. 赤ちゃんの探索の世界はどのように変化していくのか[理論編②]
4. 赤ちゃんと関わるときのマインドセット①
5. 赤ちゃんと関わるときのマインドセット②
6. 赤ちゃんの探索の世界はどのように変化していくのか[理論編③]
7. 赤ちゃんの好奇心・不安・葛藤・勇気
8. なぜ「五感を使うのが大事」と言われるのか[理論編④]
9. 赤ちゃんは全身をどうやって使っているのか[理論編⑤] 
10. 赤ちゃんの探索と触覚の科学
11. 「いないいないばあ」はなぜ面白いのか
12. 探索環境デザイン[実践編]

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。感想、質問、こんな赤ちゃんの資料もあるよ!など、お気軽にコメントください。


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