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「足場かけ」という言葉を生んだ「認知的徒弟制」について

ワークショップをつくるミーティングでは、よく「足場かけ」という言葉を使います。でも「足場かけ」ってなんですか?と言われて、うまく答えるの難しいなーと思っていました。

そう思って改めて、「足場かけ」が学習の文脈で使われた「認知的徒弟制」(Brown&Collins)という考え方を参照してみると、なるほど感が深まったので今日はその話を書きます。

「足場かけ」は一般的には「学習者が自分で課題に取り組めるように支援する」みたいな意味合いで使われることが多いです。もともとの「認知的徒弟制」でどのように語られているかを知っていると、さらに理解が深まります。

認知的徒弟制の7つのステップ

「認知的徒弟制」では、7つのステップがあります。

①モデリング:熟達者が課題を遂行してみせる/内的思考をオープンにする

②コーチング:学習者が課題を遂行できるように、熟達者がヒントを提供する

③足場かけ :学習者が自分の力だけで課題を遂行できるよう促す。熟達者は学習者が困っている場合のみヒントを提供する。

④足場はずし:学習者の学習が進むにつれてヒントの回数を減らす

⑤詳述:学習者に課題を遂行するまでの内的思考を言語化するよううながす

⑥省察:熟達者の課題遂行やその他の解き方と比較させ、学習者の内的思考を検討するようにうながす

⑦探索:学習者が新たな課題を見つけ、解決するよううながす

ふむ、、、、なるほど、、、わからん、、、という感じですよね。

たとえば、テニスのサーブをプロから教わる時のことを想像してみます。

①モデリング:プロがサーブを打ってみせる/サーブ打つときの思考や感覚を語る

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②コーチング:初心者にラケットをもたせ、手取り足取りやり方を教えていく

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③足場かけ :初心者が自分の力だけでサーブを打てるよう促す。プロは初心者が困っている場合のみヒントを提供する。

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④足場はずし:初心者のサーブが上達するにつれてヒントの回数を減らす

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⑤詳述:初心者にサーブを打つときの思考や感覚を語ってもらう

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⑥省察:プロの思考と、初心者の思考を比較させる

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⑦探索:初心者がさらに上達できるようになるための課題を自分で見つける

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こんな感じでしょうか。

まず、①モデリングの段階で、手本を見せて、内的思考まで語らないことが多いですよね。

つぎに、ものを教えている相手が自分でできるようになったら満足しちゃいますよね。

また、⑤以降の経験を持っている人って少ないのかもな〜と思います。

子どもに自転車の乗り方を教えるときに、「自転車を漕ぐときにどんな思考をしている?」とか聞かないですよね。「算数の問題解くとき、どんなふうに考えて解いた?」とかも、あんま会話に出てこないですよね。

そこでしっかり内的思考プロセスの言語化を促し、熟達者の思考と比較させ、その差分を埋めようと課題を見つけさせることで、学びはさらに深まっていくと考えられます。

なるほど、熟達者と学習者で「内的思考=認知」を比較させながら近づけていくから「認知的徒弟制」なのか!と理解しました。

ワークショップにおける「足場かけ」とは?

こうやって見てみると、ワークショップデザインの会議で使われる「足場かけ」という言葉の定義がゆらぎます。

多くは「学習者が自分の力だけで課題を遂行できるように"事前に"ヒントを提供する」という意味合いで使われているように思います。②と③の間っていうイメージ。

また、「足場かけが足りないんじゃない?」と言われるとき、実は「①モデリング」をしていない/失敗しているケースが考えられます。

たとえば、「ワークのやり方を説明するときにいい手本を見せているか?」とか「その手本のなかで熟達者の思考プロセスを言語化しているか?」という視点です。

「足場かけに失敗しているんじゃない?」という指摘がなされたとき、それが「モデリング」の失敗なのか「事前の足場かけ」の失敗なのかを検討するとよさそうです。

課題にとりくむ過程での「内的思考」を言葉にする

さらに重要なのは、⑤〜⑦のステップです。

「学習者に内的思考を言語化させ、熟達者含む他者と比較させ、自分自身の課題を見つけさせる」というステップがあるとは、恥ずかしながら知りませんでした。(「足場かけ」をしたら「足場はずし」をして終わりだと思っていた)

⑤〜⑦はワークショップでいうと「ふりかえり」のプロセスに相当します。そのなかで、メインワークをしていたときの「内的思考」を言語化させることが、学習のカギになることがよくわかりました。

その反面、この「認知的徒弟制」のモデルはファシリテーター=熟達者、参加者=初学者であるケースには直接役立つが、そうじゃない場合もあるなと思いました。

つまりファシリテーターも熟達者じゃないケースも多いのです。その場合は「熟達者」を他に立てて、ファシリテーションをするのが有効だなと思いました。

たとえばデザインを学ぶワークショップを行うとします。ファシリテーターは非デザイナーです。

そんなときは、熟達したデザイナーをゲストに招いて、内的思考を言語化してもらいます。そして、そのデザイナーのように考えるヒント(足場かけ)を事前にしかけておいて、メインワークでなにかデザイン活動をしてもらう。そのうえで「⑤詳述」で参加者の内的思考を言語化させ、「⑥省察」の段階で、デザイナーや他の参加者との内的思考を比較してもらう、みたいな感じ。

「足場かけ」は「モデリング」と「ふりかえり」のあいだにある

さて、めちゃくちゃニッチな理論について熱く語りすぎました。

参加者が自分で課題にとりくむために支援する「足場かけ」には、その前にまず「モデリング」(手本と思考)があり、その後に「ふりかえり」(参加者と熟達者の思考の比較と課題発見)をする。「足場かけ」はモデリングとふりかえりにはさまれて初めて効果を発揮するもので、参加者が何かをできたら終わりじゃない、ということに気がつきました。

という話でした。

(認知的徒弟制の7つのステップは、「認知的徒弟制理論に基づく教育支援ロボットが中学生に及ぼす効果」宮内,2018+「校内授業研究会における新任教師の学習過程 : 「認知的徒弟制」の概念を手がかりに」北田,2008を参照してつくりました)

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