君のような君。あるいは君

「君だけが居る世界に君は居て、僕達が居る世界には君は居ない。僕達が知っているのは君のような君。

好かれ者の君は逃げるように対面し、嘆くように笑う。君が僕達の居る世界に居られたら、君はどれほど楽だろうか。もしくは、君という存在が君のような君みたいな人物になれたら、どれほど平和だろうか。

しかし、存在させてしまったどちらかの世界を消し去る事は出来ないのだ。厄介な事に消し去ろうとすると、世界は君に名残を留める。思い出として残した物、服装、僕達の記憶などに世界はこびり付く。世界の名残は受け入れるには鬱陶しく、振り払うには惜しい。

もし君が片方の世界に長く留まり続けると、君は次第に酸素の在処を見失い苦しくなる。そして、もう片方の世界に救済を求めるようになるだろう。君は二つの世界を行き来する事でしか、正常に息が出来ないのだ。」

と言うと、彼は微笑むだけで返事をしなかった。
彼は彼だけの世界に消えて行った。


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